8 / 63
008 5月:黄昏の森
しおりを挟む
目的地に向かう道すがら、ジョーさんが言った。
「レベルが上がらないって、可哀想だなぁ」
ジョーさんは、ギルドで叫んでいた人だ。
PTのリーダーで、本体レベルは52で、年齢は27歳で、彼女は募集中。
腰に使い古された剣を携えている。
「その代わり、魔法の防壁が張られているので安心です!」
「スキルレベル50相当の防御スキルと同等の効果だっけ?
心強いけど、そんなの着ける冒険者なんかいないぜ」
「私達はまだ見習いなんで!」
ジョーさんとマリが話しているのは、僕達3人が身に着けているネックレスのこと。
俗に“お守り”と呼ばれている魔法具だ。
冒険者学校の規則により、着用が義務づけられていた。
こっそり外して活動する者が多い、とエマから教わった。
お守りには特殊な効果がある。
装備することで、常時、防御スキルの効果を得られるのだ。
これさえ着けておけば、背後から殴られても気にならない。
お守りは強力な反面、デメリットもある。
身に着けている間、本体レベルが変動しないのだ。
つまりは経験値を得られないということ。
召喚石で呼び出した召喚獣は元から経験値がないし、通常の敵からもお守りのせいで経験値を得られないとなれば、やれやれ、僕の本体レベルはいつになったら上がるのか。
「それにしても、レイ君は羨ましいなぁ!」
光る頭頂部が特徴的なハーゲさんと、
「2人の美女に囲まれているなんてなぁ!」
ふくよかな体型が特徴的なデーブさんと、
「まさにハーレムでござるな!」
忍び装束の半蔵さんが言った。
「ありがとうございます」
言っておきながら、何に対してありがとうなのだろう、と思った。
この対処法は、家を出る少し前に、お母さんから教わったものだ。
目上の人との会話で返答に窮したら「ありがとうございます」だ、と。
その時に「ありがとうございます」と返したら、こっぴどく叱られた。
「さぁて、ここからはお喋りせずに行くぜ」
ジョーさんが雑談を終了させる。
僕達の前には、薄気味悪い森が広がっていた。
◇
僕が薄気味悪いと感じた森は、〈トワイライトフォレスト〉という。
一般的には“黄昏の森”と呼ばれており、F級とE級の魔物が棲息している。
「ギャオオオオ!」
森に入ってすぐ、10体の魔物が襲い掛かってきた。
五歳児くらいの背丈で、全身の色は赤く、手足の爪が鋭い。
座学を真面目に受けているので、この魔物について知っていた。
僕はモンスターの名を叫ぶ。
「ゴブリンだ!」
「「グレムリンだよ!」」
ジョーさんとマリから同時に言われる。
「そうか、こいつはグレムリンか」
グレムリンについても、学校で学んでいた。
F級モンスターで、全身の色が赤く、手足の爪が鋭いこと。
おお、まさに教科書の情報通りではないか。
って、関心している場合ではなかった。
「俺達に任せろ! ハーゲ! デーブ!」
「「おう!」」
ジョーさんが2人の仲間と三角形の陣形を組む。
僕を含む残りのメンバーは、三角形の中心に立っている。
4人目の仲間こと半蔵さんは、僕達の傍に居た。
「半蔵さんは戦わないの?」
「それがしは“ポーター”でござるからな」
「ポーター?」
僕はエマを見た。
「ポーターとは、運搬を専門とするクラスです」
「さよう。それがしの戦闘能力は諸君と同程度でござる。
主な役割は、テントなどの荷物を運搬することにあるでござる」
僕は、半蔵さんを舐める様に眺めた。
運搬専門というが、何も荷物を持っていない。
リュックサックを背負っているわけでもなかった。
完全な手ぶら。僕と同じで武器すら持っていない。
「手ぶらでどうやって物を運ぶの?」
「スキルでござるよ。例えば……それっ!」
半蔵さんが、水の入った革袋――水筒を召喚した。
どこからともなく、ポン、と目の前に現れたのだ。
それを僕に向けながら言う。
「飲むでござるか?」
僕は「飲みます」と頷いた。
「わ、私も頂いてよろしいですか?」
「大丈夫でござるよ。まだまだあるでござる」
「私にもちょーだーい!」
「かしこまったでござる。拙者も飲むでござる」
僕達3人は、半蔵さんと共に、水筒の水をグビグビ飲む。
その間も、ジョーさん達は必死に戦っていた。
「やれ! ハーゲ!」
「おうよ! 輝け! 〈ホーリーフラッシュ〉!」
ハーゲさんのスキル〈ホーリーフラッシュ〉が炸裂する。
持っている杖の先端が光り、その光がハーゲさんの頭に反射し、グレムリンの視界を遮った後、ジョーさんが横から斬り捨てた。
「すごい!」
僕は興奮のあまり叫んでしまった。
巧みな連携を見て、これが冒険者の戦いか、と感動したのだ。
「だから言ったろ? 魔物は俺達に任せれば大丈夫だって」
ジョーさんが僕にウインクする。
◇
その後、度重なる戦闘を経て、目的地に到着した。
森の奥深くで、目の前にはひときわ大きな巨木がある。
「あれだ」
ジョーさんが巨木の上を指す。
太くて大きな枝に、怪鳥の巣があった。
ツバメの巣を巨大化したような見た目をしている。
下からでも、卵が5個あると分かった。
1個あたりの大きさは、僕達が両腕で抱えられるくらいだ。
たしかに、アレを持ちながら敵と戦うのは難しい。
ジョーさんが素早く周囲を確認する。
「ヤークックは留守のようだな」
デーブさんが「へっ、好都合だな!」と舌を舐めずる。
さて、ここからどうやって卵を回収するのだろうか。
黙々と考え、好奇心から目を光らせる僕に、ジョーさんが言った。
「俺達が卵を下に落とすから、キャッチしてくれ」
「割れないんですか?」
「大丈夫。鶏卵とは硬度がダンチだからな」
「ダンチって、段違いって意味ですか?」
「そうだ。今時の若者は使わない言葉なのか?」
「……ありがとうございます!」
「何がありがとうございますなのか分からんが、まぁいい、始めよう」
半蔵さんを除く3人が木登りを始めた。
巨木を囲むように立ち、同時に登っていく。
まるで木登り競争をしているかのようだった。
「疑問なんですが、どうして半蔵さんが居るのに僕達が必要なんですか?」
気になっていたことを尋ねる。
ポーターが居るなら、卵も楽に運べるのではないか。
その為のポーターだろう。
半蔵さんが答えを教えてくれた。
「ポーターのスキルには、収納できない物も存在するでござる」
「ヤークックの卵もその1つってわけですか」
「さようでござる」
僕達が話していると、
「ほげぇええええええ」
デーブさんが木から落ちた。
脂肪が邪魔をして、最初からまともに木を掴めていなかった。
だから、情けなく落下する様を見ても「だろうな」としか思わなかった。
「レベルが上がらないって、可哀想だなぁ」
ジョーさんは、ギルドで叫んでいた人だ。
PTのリーダーで、本体レベルは52で、年齢は27歳で、彼女は募集中。
腰に使い古された剣を携えている。
「その代わり、魔法の防壁が張られているので安心です!」
「スキルレベル50相当の防御スキルと同等の効果だっけ?
心強いけど、そんなの着ける冒険者なんかいないぜ」
「私達はまだ見習いなんで!」
ジョーさんとマリが話しているのは、僕達3人が身に着けているネックレスのこと。
俗に“お守り”と呼ばれている魔法具だ。
冒険者学校の規則により、着用が義務づけられていた。
こっそり外して活動する者が多い、とエマから教わった。
お守りには特殊な効果がある。
装備することで、常時、防御スキルの効果を得られるのだ。
これさえ着けておけば、背後から殴られても気にならない。
お守りは強力な反面、デメリットもある。
身に着けている間、本体レベルが変動しないのだ。
つまりは経験値を得られないということ。
召喚石で呼び出した召喚獣は元から経験値がないし、通常の敵からもお守りのせいで経験値を得られないとなれば、やれやれ、僕の本体レベルはいつになったら上がるのか。
「それにしても、レイ君は羨ましいなぁ!」
光る頭頂部が特徴的なハーゲさんと、
「2人の美女に囲まれているなんてなぁ!」
ふくよかな体型が特徴的なデーブさんと、
「まさにハーレムでござるな!」
忍び装束の半蔵さんが言った。
「ありがとうございます」
言っておきながら、何に対してありがとうなのだろう、と思った。
この対処法は、家を出る少し前に、お母さんから教わったものだ。
目上の人との会話で返答に窮したら「ありがとうございます」だ、と。
その時に「ありがとうございます」と返したら、こっぴどく叱られた。
「さぁて、ここからはお喋りせずに行くぜ」
ジョーさんが雑談を終了させる。
僕達の前には、薄気味悪い森が広がっていた。
◇
僕が薄気味悪いと感じた森は、〈トワイライトフォレスト〉という。
一般的には“黄昏の森”と呼ばれており、F級とE級の魔物が棲息している。
「ギャオオオオ!」
森に入ってすぐ、10体の魔物が襲い掛かってきた。
五歳児くらいの背丈で、全身の色は赤く、手足の爪が鋭い。
座学を真面目に受けているので、この魔物について知っていた。
僕はモンスターの名を叫ぶ。
「ゴブリンだ!」
「「グレムリンだよ!」」
ジョーさんとマリから同時に言われる。
「そうか、こいつはグレムリンか」
グレムリンについても、学校で学んでいた。
F級モンスターで、全身の色が赤く、手足の爪が鋭いこと。
おお、まさに教科書の情報通りではないか。
って、関心している場合ではなかった。
「俺達に任せろ! ハーゲ! デーブ!」
「「おう!」」
ジョーさんが2人の仲間と三角形の陣形を組む。
僕を含む残りのメンバーは、三角形の中心に立っている。
4人目の仲間こと半蔵さんは、僕達の傍に居た。
「半蔵さんは戦わないの?」
「それがしは“ポーター”でござるからな」
「ポーター?」
僕はエマを見た。
「ポーターとは、運搬を専門とするクラスです」
「さよう。それがしの戦闘能力は諸君と同程度でござる。
主な役割は、テントなどの荷物を運搬することにあるでござる」
僕は、半蔵さんを舐める様に眺めた。
運搬専門というが、何も荷物を持っていない。
リュックサックを背負っているわけでもなかった。
完全な手ぶら。僕と同じで武器すら持っていない。
「手ぶらでどうやって物を運ぶの?」
「スキルでござるよ。例えば……それっ!」
半蔵さんが、水の入った革袋――水筒を召喚した。
どこからともなく、ポン、と目の前に現れたのだ。
それを僕に向けながら言う。
「飲むでござるか?」
僕は「飲みます」と頷いた。
「わ、私も頂いてよろしいですか?」
「大丈夫でござるよ。まだまだあるでござる」
「私にもちょーだーい!」
「かしこまったでござる。拙者も飲むでござる」
僕達3人は、半蔵さんと共に、水筒の水をグビグビ飲む。
その間も、ジョーさん達は必死に戦っていた。
「やれ! ハーゲ!」
「おうよ! 輝け! 〈ホーリーフラッシュ〉!」
ハーゲさんのスキル〈ホーリーフラッシュ〉が炸裂する。
持っている杖の先端が光り、その光がハーゲさんの頭に反射し、グレムリンの視界を遮った後、ジョーさんが横から斬り捨てた。
「すごい!」
僕は興奮のあまり叫んでしまった。
巧みな連携を見て、これが冒険者の戦いか、と感動したのだ。
「だから言ったろ? 魔物は俺達に任せれば大丈夫だって」
ジョーさんが僕にウインクする。
◇
その後、度重なる戦闘を経て、目的地に到着した。
森の奥深くで、目の前にはひときわ大きな巨木がある。
「あれだ」
ジョーさんが巨木の上を指す。
太くて大きな枝に、怪鳥の巣があった。
ツバメの巣を巨大化したような見た目をしている。
下からでも、卵が5個あると分かった。
1個あたりの大きさは、僕達が両腕で抱えられるくらいだ。
たしかに、アレを持ちながら敵と戦うのは難しい。
ジョーさんが素早く周囲を確認する。
「ヤークックは留守のようだな」
デーブさんが「へっ、好都合だな!」と舌を舐めずる。
さて、ここからどうやって卵を回収するのだろうか。
黙々と考え、好奇心から目を光らせる僕に、ジョーさんが言った。
「俺達が卵を下に落とすから、キャッチしてくれ」
「割れないんですか?」
「大丈夫。鶏卵とは硬度がダンチだからな」
「ダンチって、段違いって意味ですか?」
「そうだ。今時の若者は使わない言葉なのか?」
「……ありがとうございます!」
「何がありがとうございますなのか分からんが、まぁいい、始めよう」
半蔵さんを除く3人が木登りを始めた。
巨木を囲むように立ち、同時に登っていく。
まるで木登り競争をしているかのようだった。
「疑問なんですが、どうして半蔵さんが居るのに僕達が必要なんですか?」
気になっていたことを尋ねる。
ポーターが居るなら、卵も楽に運べるのではないか。
その為のポーターだろう。
半蔵さんが答えを教えてくれた。
「ポーターのスキルには、収納できない物も存在するでござる」
「ヤークックの卵もその1つってわけですか」
「さようでござる」
僕達が話していると、
「ほげぇええええええ」
デーブさんが木から落ちた。
脂肪が邪魔をして、最初からまともに木を掴めていなかった。
だから、情けなく落下する様を見ても「だろうな」としか思わなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
724
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる