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039 9月:学園祭の準備

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 結局、学園祭の出し物は、ありきたりな屋台に決まった。
 フランクフルトの店と、ホットドッグの店だ。
 屋台の場合は2店出すのが決まりで、3組もそれに従った。

 出し物にはクラスの皆で取り組む。
 どのタイミングで参加するかは、話し合って決めた。

 その結果、運が悪いことに、僕達のPTはバラバラになってしまった。
 エマとマリは、容姿が優れていることから、学園祭当日の売り子で確定。2人が担当する店は、エマがホットドッグで、マリがフランクフルト。ここでも、物の見事にバラけてしまった。
 一方、僕はというと、設営やら何やら、前日までに慌ただしく動く役だ。他の男子と共に、力仕事に従事する。当日に関しては出番がなくて、どうぞご自由に学園祭を楽しんでね、といった感じ。

「なぁ、レイ」

 僕が設営作業に従事していると、クラスの男子が話しかけてきた。
 成績も、容姿も、全てが真ん中と自称する男、センター真中だ。
 その名の通り、1組の山本達と同じく、東にある小国の出身者である。
 真中は、大して長くもない黒い髪を、サッと掻き上げた。

「お前って、どっちのことが好きなの?」

「どっちとは?」

「エマとマリだよ」

「どっちも好きさ。2人とも大事な友達だからね」

「いや、そうじゃなくて」

 真中は苦笑いを浮かべ、僕は首を傾げた。

「両方とも、お前に気があるのはたしかじゃん?」

「分からないけれど、真中がそう言うのなら、そうなんだろう」

「どっちかと付き合ったりしないの? 学園祭だぜ?」

「ふむ」

 学園祭だから誰かと付き合う。
 その言い分は理解できないが、それは僕がおかしいからだ。というのも、クラスの多くは、話を聞いている限り、真中と同じように考えている。

「どっちかを彼女にするなら、どっちを選ぶんだ?」

「分からないな。そういうことは考えたこともなかった」

「じゃあ、今、考えてみろよ」

「分かった。考えてみよう。真中がそう言うならね」

 夏休みに、僕は、エマとマリの両方と、夏祭りデートをした。
 どちらとのデートでも、1日限りの恋人という設定で過ごした。
 恋人繋ぎをし、屋台を巡り、1組の田中を発狂させてしまった。

 そのことを思い出し、天秤に掛けてみる。
 エマにはエマの魅力が、マリにはマリの魅力が感じられた。

「考えてみたけれど、やっぱり分からないな」

 分からない、というのが僕の答えだった。
 2人のことを恋愛対象として意識したことがないからだ。
 というより、僕には、そういう意識をした相手がこれまでにいない。

「優柔不断な贅沢者だな、レイは」

「真中が言うのなら、そうなんだろうな」

「ハーレムもいいが、油断してると、他の男に取られるぜ?
 エマやマリが、お前以外の男とイチャイチャするんだぜ?
 想像してみろ。嫌にならないか?」

 想像してみる。嫌になった。
 僕は目をキュッと閉じ、顔をぶんぶんと振る。
 手に持っていた暖簾まで振ってしまい、それが真中の顔面に直撃した。
 顔を押さえて痛がる真中。僕は慌てて謝った。

「悪い、真中」

「気にするな。ちょうど顔の真ん中にヒットした。セーフだ」

「なら良かったよ」

「なんにせよ、嫌なんだろ? エマやマリが他の男に取られるのは」

「どうやらそのようだ」

「だったら、せめて、1人だけでも確定させておけよ。
 二兎を追う者は一兎をも得ずって言うだろ?
 今のままだと、両方フリーだし、奪われかねないぞ」

「でも、〈ヘイスト〉を掛けたら、速くなって、両方いけるかも」

 真中が「面白いこと云うじゃねぇか」と声を上げて笑う。

「マリは見ての通り人気だが、エマだって男ウケがいい。ああいう、お淑やかな女ってのは、男の理想だからな。おっぱいもデケェし、顔だって可愛い。脅かすつもりじゃないが、男子の中には、コッソリ狙ってる奴も多い」

「真中もそうなのか?」

「ぶっちゃけて言うとそうだ。しかし、俺にはお前との友情がある」

「いや、話したのはコレが初めてのはずだが」

「ま、まぁ、そうだけどよ、とにかく、恋愛ってものについて、もう少し勉強して、真面目に考えたほうがいいと思うぜ。これは友達からのささやかな助言ってやつだ」

「友達ではないと思うけれど……真中がそう言うのなら、そうなんだろう」

 真中と話していて、ふと気づいた。
 僕には同性の友達が全くいない、と。

 折角だし、機会があったら、真中と仲良くしてみようかな。
 と思ったが、妙に馴れ馴れしかったので、やめておくことにした。

 ◇

 9月もいよいよあと数日となり、学園祭の日がやってきた。
 それほど広くないグラウンドと、校舎の一階を中心に、出し物が並ぶ。
 食べ物屋が多いけれど、中には、武具を販売している店もあった。

「フランクフルトはいかがですかー!」

「ホットドッグを売っています。よろしければ買って下さい」

 マリとエマも、売り子として頑張っている。
 暇を持て余している僕は、独り寂しく、学内を見て回った。
 そそられる店があっても、見るだけで、実際に買うことはない。
 お金がカツカツだからだ。

「あっ、レイじゃん」

 廊下を歩いていると、女子に話しかけられた。
 オレンジのセミロングヘアーと赤い忍び装束が特徴的な女。
 1組のアマネだ。

「今日は女を侍らせていないんだ?」

「そういう言い方は好きじゃないな」

 アマネは、笑いながら、「ごめんごめん」と謝ってくる。

「で、今は1人なの?」

「まぁね。アマネも1人のようだけど、PTの人達は?」

「さぁねー。今日は自由行動だから」

 なんだか冷たい云い方だ。

「PTの人とは仲が良くないの?」

「普通だよ。好きでも嫌いでもない。
 一般クラスと違って、ウチは馴れ合いとかないから」

「そうなんだ、悲しいね」

「それだけストイックってことだよ」

「なるほど。それじゃ、またね」

 適当に話を切り上げ、彼女の横を通り抜けようとする。
 そんな僕を、アマネが「待った待った!」と慌てて止めてくる。

「ちょ、淡泊すぎでしょ! 普通、デートとか誘わない?
『ここで会ったのは何かの縁だな』とか言っちゃってさ」

「僕は恋愛に疎いからね」

「ふふ、本当にクールな男ね、レイは」

「ありがとう。ところで、ここで会ったのは何かの縁だね」

「いや、軌道修正しようとしてももう遅いから」

 アマネは苦笑いで手を横に振る。

「ところでさ、レイって、今、暇してない?」

「してるよ」

「ちょうどいい! 私に付き合ってよ!」

 アマネが僕の手首を掴み、引っ張るようにして歩きだす。
 僕はまだ何も言っていないのに、既に承諾したつもりでいるようだ。
 一応、「別にいいけど」と答えてみたけれど、案の定、返事はなかった。
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