【完結】獅子は鳥籠を砕く

真大(mahiro)

文字の大きさ
91 / 112
第4章

新しい侯爵家の誕生

しおりを挟む

 ユリウスのためにレオナルドが取った休暇も折り返しとなり、半月が過ぎていた。

 ユリウスの身体は、日に日に良くなっている。
 二人が想いを抑えきれずに何度も口付けを交わし、その熱に当てられてユリウスが酸欠と体力の限界で気絶してしまう……なんていう幸せなハプニングがなければ、ユリウスは病室内で普通に生活できるくらいには回復していた。

 起きていられる時間も長くなり、食事で十分に栄養も摂れるようになったため、腕の点滴も外された。
 まだ足元はおぼつかないが、レオナルドの支えがあれば、自分の足でしっかりと立つこともできる。

 そこまで回復したユリウスと、レオナルドは二人でじっくりと、これからの自分たちが名乗る「新しい姓」について考えた。

 色々な案が出たが、最終的に二人が選んだのは――『ジークヴァルト』という名だった。

 古語で「勝利」と「守り手」という意味を持つこの名は、二人が十年という長い苦難を乗り越えて勝ち取った愛と、これから国と互いを守り抜くという二人の「誓い」にふさわしいものだ。

 ローゼンタールでも、ブラントでもない。
 血と因習に塗れた過去を捨て、新しい姓を得て、二人は生きていく。

 名前が決まると、レオナルドは公務で忙しくしているカイエンの元へ、一人で報告しに向かった。
 執務室を訪れ、その名を伝えると、カイエンは以前に「自由に決めて良い」と言っていた通り、報告を受けた瞬間に快く容認してくれた。

「ジークヴァルト……『勝利の守護者』か。
二人にこれ以上なく相応しい、良い名前だ」

 カイエンは満足そうに頷くと、忙しい手を止めて書類を脇に置き、居住まいを正した。
 そして、友人の顔から王の顔になり、真剣な声で告げた。

「レオナルド。この場にはユリウスは居ないが……僕は、二人には本当に感謝している。
だから、その名誉に報いる形で、ジークヴァルトの姓には、新たに『公爵位』を与えたいと思う」
「公爵位?」

 レオナルドが驚きに目を見開くと、カイエンははっきりと言葉を継いだ。

「ああ。ローゼンタール家とブラント家の爵位を引き継ぐのではなく、新しい姓に、この僕が与える形でだ」

 いきなりできた新しい家門に、最高位である公爵位を与えることには、少なからず古参の臣下や貴族たちから反発はあるだろう。

 だが、彼らもその目で見たはずだ。
 真の王の帰還に誰よりも貢献し、命を懸けた者が誰なのか。
 レオナルドとユリウス、それぞれが騎士団総長と宰相となり、国の中枢を担う立場になることも後押しし、その反発はすぐに消えるはずだ。
 彼らこそが、この国の新しい正義なのだから。

 レオナルドは、カイエンの深い配慮と信頼に胸を打たれた。

「……カイエン。こちらこそ、礼を言う」

 レオナルドは静かに、けれど心からの言葉を紡いだ。

「ユリウスには言わないが……君の存在があったからこそ、ユリウスはあの地獄の日々を耐え抜いたんだと、俺はそう思っている」

 もしカイエンが死んでいたら、ユリウスはとっくに心を壊し、後を追っていただろう。
 「カイエンのために」と生きている間は、ユリウスはどれだけの地獄の中でも、自分の命を終わらせることはしなかった。
 それは、カイエンが獄中でも生きていてくれたからだ。彼の生存こそが、ユリウスの命綱だった。
 その言葉を聞いて、カイエンは静かに頷いた。

「僕もそうだよ。……ユリウスが、僕のために身を捧げ続けてくれている。
その事実が、十年間の獄中での唯一の支えだった」

 そして、カイエンはふわりと穏やかに微笑んだ。

「レオナルドが嫉妬するくらい、僕らは信頼し合っているからね」

 少し揶揄うようなその口調に、レオナルドは苦笑した。
 この賢い主君には、レオナルドの隠していた嫉妬心さえもお見通しだったようだ。

「……敵わないな」

 レオナルドは笑いながら、恭しくその場に片膝をつき、深く首を垂れた。

「カイエン陛下。……これからジークヴァルト家は、貴方とこの国のために、生涯尽力すると誓います」

 新しい家名の元、最初の忠誠を、レオナルドは誇り高く宣言した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

処理中です...