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第4章
新しい侯爵家の誕生
しおりを挟むユリウスのためにレオナルドが取った休暇も折り返しとなり、半月が過ぎていた。
ユリウスの身体は、日に日に良くなっている。
二人が想いを抑えきれずに何度も口付けを交わし、その熱に当てられてユリウスが酸欠と体力の限界で気絶してしまう……なんていう幸せなハプニングがなければ、ユリウスは病室内で普通に生活できるくらいには回復していた。
起きていられる時間も長くなり、食事で十分に栄養も摂れるようになったため、腕の点滴も外された。
まだ足元はおぼつかないが、レオナルドの支えがあれば、自分の足でしっかりと立つこともできる。
そこまで回復したユリウスと、レオナルドは二人でじっくりと、これからの自分たちが名乗る「新しい姓」について考えた。
色々な案が出たが、最終的に二人が選んだのは――『ジークヴァルト』という名だった。
古語で「勝利」と「守り手」という意味を持つこの名は、二人が十年という長い苦難を乗り越えて勝ち取った愛と、これから国と互いを守り抜くという二人の「誓い」にふさわしいものだ。
ローゼンタールでも、ブラントでもない。
血と因習に塗れた過去を捨て、新しい姓を得て、二人は生きていく。
名前が決まると、レオナルドは公務で忙しくしているカイエンの元へ、一人で報告しに向かった。
執務室を訪れ、その名を伝えると、カイエンは以前に「自由に決めて良い」と言っていた通り、報告を受けた瞬間に快く容認してくれた。
「ジークヴァルト……『勝利の守護者』か。
二人にこれ以上なく相応しい、良い名前だ」
カイエンは満足そうに頷くと、忙しい手を止めて書類を脇に置き、居住まいを正した。
そして、友人の顔から王の顔になり、真剣な声で告げた。
「レオナルド。この場にはユリウスは居ないが……僕は、二人には本当に感謝している。
だから、その名誉に報いる形で、ジークヴァルトの姓には、新たに『公爵位』を与えたいと思う」
「公爵位?」
レオナルドが驚きに目を見開くと、カイエンははっきりと言葉を継いだ。
「ああ。ローゼンタール家とブラント家の爵位を引き継ぐのではなく、新しい姓に、この僕が与える形でだ」
いきなりできた新しい家門に、最高位である公爵位を与えることには、少なからず古参の臣下や貴族たちから反発はあるだろう。
だが、彼らもその目で見たはずだ。
真の王の帰還に誰よりも貢献し、命を懸けた者が誰なのか。
レオナルドとユリウス、それぞれが騎士団総長と宰相となり、国の中枢を担う立場になることも後押しし、その反発はすぐに消えるはずだ。
彼らこそが、この国の新しい正義なのだから。
レオナルドは、カイエンの深い配慮と信頼に胸を打たれた。
「……カイエン。こちらこそ、礼を言う」
レオナルドは静かに、けれど心からの言葉を紡いだ。
「ユリウスには言わないが……君の存在があったからこそ、ユリウスはあの地獄の日々を耐え抜いたんだと、俺はそう思っている」
もしカイエンが死んでいたら、ユリウスはとっくに心を壊し、後を追っていただろう。
「カイエンのために」と生きている間は、ユリウスはどれだけの地獄の中でも、自分の命を終わらせることはしなかった。
それは、カイエンが獄中でも生きていてくれたからだ。彼の生存こそが、ユリウスの命綱だった。
その言葉を聞いて、カイエンは静かに頷いた。
「僕もそうだよ。……ユリウスが、僕のために身を捧げ続けてくれている。
その事実が、十年間の獄中での唯一の支えだった」
そして、カイエンはふわりと穏やかに微笑んだ。
「レオナルドが嫉妬するくらい、僕らは信頼し合っているからね」
少し揶揄うようなその口調に、レオナルドは苦笑した。
この賢い主君には、レオナルドの隠していた嫉妬心さえもお見通しだったようだ。
「……敵わないな」
レオナルドは笑いながら、恭しくその場に片膝をつき、深く首を垂れた。
「カイエン陛下。……これからジークヴァルト家は、貴方とこの国のために、生涯尽力すると誓います」
新しい家名の元、最初の忠誠を、レオナルドは誇り高く宣言した。
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