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第4章
孤独という復讐
しおりを挟む騎士団総長として復帰したその日。
久しぶりの激務を終えたレオナルドは、夜、迷うことなくユリウスの病室へと向かった。
この一ヶ月間、片時も離れずにべったりと一緒にいたせいか、たった一日、日中離れていただけですでに心が渇き、ユリウスが恋しくてたまらなかった。
昼間に対峙した、かつて父であったモノとの決別は、レオナルドの心に何の波風も立てていなかった。
あんな男の言葉など、ユリウスへの想いの前では塵に等しい。
ただ、愛しい人に会いたい。その一心だけで、レオナルドは足を急がせた。
病室の扉を開ける。
すると、そこにはユリウスが、まるでレオナルドの足音を聞き分けていたかのように、扉の方を向いて待っていた。
「おかえり、レオ。お疲れさま」
ユリウスは花が綻ぶように微笑むと、ベッドから立ち上がった。
リハビリの成果で、もうふらつくこともないしっかりとした足取りで、入り口に立つレオナルドの方へと歩み寄ってくる。
「ユーリ……」
レオナルドは駆け寄り、その身体を優しく抱き留めた。
「こんなにも、一人で歩けるようになったのか。凄いな」
「ふふ、……貴方を自分の足で出迎えることができて、嬉しいよ」
ユリウスはレオナルドの腕に手を添え、仕事の疲れを癒やすように、背伸びをして頬にチュッ、とキスをしてくれた。
その愛らしさに胸が熱くなり、レオナルドはお返しに頬ではなく、その唇に優しくキスを落とした。
甘い抱擁の後、二人はベッドの縁に並んで腰掛けた。
レオナルドはユリウスの手を握りながら、今日あったことを伝えた。
「今日、仕事の合間に……投獄後初めて、ブラント卿に面会してきた」
レオナルドは静かに続けた。
「投獄後初めて、と言っても……あの男はずっと騎士団の奥でふんぞり返っていたから、俺が帰還してからも一度も会っていなかったがな。
……これで、完全に終わらせてきた」
淡々とした口調に、ユリウスは動じることなく、ただそれを事実として聞いている様子だった。
「そうか」
短く返事をする。
だが、その碧眼の奥には、同じように投獄され、死刑を待つだけの時間を生きている自分の父、ローゼンタール卿のことを考えている憂いが見えた。
レオナルドは、握っていたユリウスの手に力を込めた。
「ユーリ。……もし君が望むなら、俺が付き添ってローゼンタール卿に面会してもいい」
そう告げた。
ユリウスは息を呑み、そして伏し目がちにしばらく考え込んだ。
病室に沈黙が落ちる。
やがて、ユリウスは顔を上げた。
「……いいや。私は、父には会わない」
きっぱりと言った。
「死にゆく父の姿を見たくないからではない。
そんな情は、もう私にはないんだ」
ユリウスの声は冷たく、静かだった。
「……私を道具としか、人形としか思っていなかった父に、このまま誰にも会わずに、その死を迎えてもらう。それが、私の復讐だ」
ユリウスの言葉に、迷いや、先程まで感じた憂いはもうなかった。
あるのは、決別への強い意志だけだ。
レオナルドはそれを確かめて、安心させるように彼の肩を抱きしめた。
「分かった。……俺も本音を言えば、もう二度とあんな男に会ってほしくない。
君はあの男のために、もう傷つかなくていいんだ」
その言葉に、ユリウスは強く頷いた。
「ローゼンタール家の取り潰しにより、連座して処刑される可能性のあった……罪のない幼い弟たちさえ救えれば、私はそれでいい。
……もう、あの男を父とは思わず、永遠の別れを一方的に告げる」
ユリウスは窓の外の暗闇を見つめた。
「誰も会いに来ない、誰からも顧みられない孤独の中で、死刑の日を待ち続ける。
……それが、私を利用し続けたあの男の行く末だ」
静かな声だった。
だが、その声が、迷いでも憂いでもなく……ただ、実の父に支配され、愛されなかった自分への哀しみで、ほんの少しだけ震えているのをレオナルドは感じ取った。
その震えごと守るように、レオナルドはさらに強く、愛しい人の華奢な身体を抱きしめた。
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