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第4章
黒塗りの馬車と甘い密室
しおりを挟むついに、待ちに待った退院の日が訪れた。
レオナルドは今日のために一日休暇を取り、朝一番でユリウスを迎えに行った。
逸る気持ちを抑えて病室に着くと、ユリウスはすでにいつもの簡素な病院着ではなく、仕立ての良い貴族らしい装いに着替えていた。
清潔感のある白のシャツに、銀髪に映えるスレートブルーのベストとタイ。
身体のラインを美しく見せるスラックス。
その装いにより、元来の品格と美しい顔立ちがより一層際立っているユリウスを見て、レオナルドは入り口で息を呑んだ。
その麗しい姿のユリウスが、レオナルドが来たことに気づき、ゆっくりと顔を綻ばせて、愛おしげに見つめてくる。
その光景はあまりに幸福すぎて、いつまで経っても慣れない。心臓に悪いほど魅力的だ。
「ユーリ。……退院おめでとう。本当に、嬉しい」
「ああ……。レオ、ずっとそばにいてくれて、ありがとう」
ユリウスとレオナルドは、互いに歩み寄り、喜びを噛み締めるように軽くキスをした。
唇が触れ合うだけの淡いものだったが、離れるとお互いに名残惜しく見つめ合ってしまい、二人は照れくさそうに目を合わせて微笑んだ。
荷物をまとめ、医師や看護師たちに礼を告げると、二人はそのまま王宮の病棟を出て、二人の新たな愛の巣となる「ジークヴァルト公爵邸」へと向かった。
屋敷までは距離があるため、レオナルドはいつも自分の足で往復していたが、病み上がりのユリウスを連れて帰るために、今日は新しい馬車を用意させていた。
それは、新しく誕生した「ジークヴァルト公爵家」の紋章を扉に刻んだ、真新しい馬車だ。
黒く塗られた艶めく車体は、重厚で美しい輝きを放っている。
「……私のために、用意してくれたんだな」
「そうだ。俺一人なら遠くへ行くにも馬を使うが、これからの君の移動には必要だと思ったんだ」
「美しい馬車だ。……ありがとう、レオ」
御者が扉を開け、二人はその馬車へと乗り込んだ。
対面式の座席だが、二人は示し合わせたように片側の席に、寄り添うように並んで座った。
扉が閉められ、馬車が動き出す。
ガタゴトと揺れる密室の中。
レオナルドは狭い空間になって改めて、ユリウスから発せられる香りに鼻腔をくすぐられた。
特別病棟の広い個室では空間に溶けていたが、この密閉された空間では、ユリウスのオメガとしてのフェロモンが、以前よりも甘く、濃厚に感じられることに気づいた。
その匂いに誘われるように、レオナルドはユリウスの手を握り、指を絡めた。
ユリウスは恥ずかしがるかと思ったが、意外にも自分からレオナルドの方へ身を寄せ、すり、と頬をレオナルドの逞しい肩にすり寄せた。
まるで、主人の匂いを求める猫のような愛らしい仕草。
「…………」
レオナルドはその無防備な仕草に胸を撃ち抜かれた。
たまらず、優しくユリウスの顎を指で掬い上げ、とろんとした碧眼と目を合わせると、吸い寄せられるように唇を重ねた。
ちゅ、と甘い音を立てて、角度を変え、何度もキスをする。
「……ん……レオ……」
「可愛い……ユーリ……」
屋敷に着くまでの道中。
レオナルドは甘い匂いに満たされた空間で、宝物を愛でるように、その柔らかい唇を何度も何度も味わい続けた。
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