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第4章
2人の当主
しおりを挟む屋敷に着いてから、ユリウスは玄関ホールで、レオナルドに仕えている使用人たちを紹介された。
ずらりと並んだ彼らの中には、あのカイエン奪還の前夜、傷ついたユリウスの世話を献身的にしてくれたメイド、ハニスの姿もあった。
彼女は初老の穏やかそうな雰囲気のまま、レオナルドが伴侶としてユリウスをこの屋敷へと正式に迎えたことを、涙ぐみながら喜んでくれた。
使用人たちを前に、レオナルドは厳粛な声で告げた。
「皆に伝えておく。彼は俺の伴侶だが、『妻』として迎えるのではない。
あくまで、二人ともが『ジークヴァルト公爵』である。対等な当主として、敬意を持って仕えてくれ」
それは、二人であらかじめ決めていたことだった。
通常、女性やオメガが婚姻により家に迎えられた場合、たとえ男性であっても役割としては「妻」の扱いになる。
だがそれでは、古い因習が残る貴族社会では、どうしても「男の付属品」や「家を守るための道具」として扱われてしまう。
これから宰相として国の中枢に座る予定のユリウスは、どうしたって多くの貴族たちと関わることになる。
その中で、彼がレオナルドの付属品のように軽く扱われることを、レオナルドは断じて許さなかったのだ。
「承知いたしました、旦那様。
……いいえ、レオナルド様、ユリウス様」
使用人たちはその意図を汲み取り、深く頭を下げて快く新しい主人を受け入れてくれた。
屋敷の中はとてもあたたかい雰囲気で、ユリウスは張り詰めていた心がほっと解けるのを感じた。
カイエン奪還前夜にここへ連れて来られた時は、怯えていて周りを見回す余裕もなく、世話をしてくれたハニス以外の使用人の顔を見ることもなかった。
そのことを思い出しながら、この場所が本当の意味で「我が家」となったことを噛み締めた。
挨拶を終え、ユリウスがレオナルドに連れられて向かった先は、レオナルドの寝室だった。
あの日も、この部屋へ通されて動揺した。「ここに自分がいるべきではない」と。
けれど、今は愛する伴侶の寝室だ。
そしてこれからは、二人の寝室となる。
「これから、別で改装して二人用の広い寝室を用意する予定だ。それまではここが俺たちの寝室だ」
「ああ……」
中に入ると、あの時と同じで、清潔なリネンとレオナルドの匂いが染み付いた部屋に、ユリウスはどうしてもソワソワしてしまった。
ここに入ると、あの一夜の記憶――痛みと快楽、そして切なさが鮮烈に蘇るからだ。
そのユリウスの落ち着きのなさをレオナルドも感じたのか、背後からユリウスに近づき、腰に手を回した。
「……緊張しているのか?」
「緊張、というか……その、……部屋中からレオの匂いがするから、落ち着かなくて」
ユリウスが素直に答えると、レオナルドは吐息を漏らした。
「……俺もだ。馬車の中でもずっと、ユリウスの匂いを感じてくらくらしている」
レオナルドはそう言い、ユリウスのうなじに顔を埋め、首筋に熱いキスを落とした。
ちゅ、と吸い上げられる音。
ユリウスは、それだけで身体が甘く痺れてしまい、膝から力が抜けそうになった。
そして、ユリウスは意を決して振り返り、レオナルドの手を取った。
潤んだ碧眼で、真っ直ぐにレオナルドの黒曜石の瞳を見つめる。
「……レオ。もう、私の身体は大丈夫だ。無理はしないから……」
ごくり、と喉が鳴る。
「……その、……今夜、抱いて欲しい」
はっきりと、告げた。
その言葉を聞いた瞬間、レオナルドの瞳が明らかに情欲と歓喜に揺れ、色濃く濁るのを目の当たりにして、ユリウスは自分の心臓が壊れそうだった。
怖い、けれど、嬉しい。
早く、この獅子に食べられたい。
壊れてしまうくらい、貪って欲しい。
身体の回復をじっと待っていたユリウスの中のオメガとしての本能が、主人のフェロモンに呼応し、急速にその欲望を「熱」として身体の芯に灯し始める予感がした。
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