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一人じゃ見られない景色

一人じゃ見られない景色 1

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「今日はこれで最後・・・っと・・・はぁ・・・」

思わず溜め息が漏(も)れてしまった。
後から後から患者様が流れてきて、朝から満席状態だった待合室の席が、やっと空(から)っぽになった。
横長の青い合皮で作られた、いかにも病院の待合室の椅子から、人の姿がなくなると、ほっとしつつも少し淋(さび)しさも感じた。
つい一時間前まで、人でごった返していた待合室が、今は誰もいなくなってしまい、煌々(こうこう)と照らしている蛍光灯が何だか少し哀しそうだった。

だけど、これで今日は帰れるんだから、喜ばしいことだよね。
どうせ明日もいっぱいになるだろうし。

待合室の電灯と番号表示の電源を落とす。
暗くなった待合室を見て、今日も一日なんとか終わったことを実感しながら、ボクは自分の頬を挟むように軽く叩いた。

「さてと・・・締め作業しないとね」

ボクは診察を終えた先生の元へと踵を返した。
後は診察室の清掃と、ゴミ処理、先生とのディスカッションをしなくては。
白い壁と天井に囲まれたリノリウムの廊下を、ボクは急ぎ足で歩いた。

ボクはまだ研修医の立場。
勤務する病院は恋人である悠貴(ゆうき)さんと同じ病院をもちろん選んだが、この病院の方針で、いきなり一つの科に居続けるのではなく、一通り全部の科を回ることになっている。
ボクは当然、悠貴さんと同じ脳神経外科を志望しているが、双子の姉である美影(みえい)ちゃんには小児科が一番合ってると言われてしまっている。
確かに、以前小児科にいた時は子供が好きだし悪くないと思ったけど。
まだ小さい子供が病気で苦しんでいる姿には、とてもじゃないけど慣れそうもなかった。

患者様に寄り添うことは大事だけど、同情したり共感したりすることはタブーだと、悠貴さんに言われてしまった。
そんなことでは患者様が亡くなった時に、医師を続けられなくなると。
必要なのは、適度な距離だと、言われてしまった。
だから、ボクみたいに感情の揺れ幅が大きい人は、小児科には向かないと、悠貴さんには言われた。
とりあえず焦らずに、全部の科を回って、自分に合うところを見極めた方がいいとも。

今、ボクは巡業最後の地、整形外科での研修を行っている。
これが終わったら、いよいよ本格的に希望を固めなくてはならない。

でも、でも。
その前に。
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