上 下
7 / 16
一人じゃ見られない景色

一人じゃ見られない景色 7

しおりを挟む
そして、これからどうしようかという話しになり、BBQの予約が12時から入っていること、あと1時間30分しかないことがわかり、遊園地は諦めて施設内を散歩することにした。
施設の受付でもらった施設や周辺の地図を広げて、悠貴さんが遊園地のあるほうへ散歩に行こうと言う。
反対側はサバイバルゲームのエリアがあったり、キャンプ場があるだけなので、特に行かなくてもいいだろうとのことだった。

ボクは悠貴さんと一緒なら何処でもいいから、異論はなかった。

それからは緑の多い施設内をのんびりと散策した。
よく晴れて青く高い空を見上げたり、湖のほうから吹いてくる涼しい風を感じたり、生い繁(しげ)る木々の匂いを嗅いだり。
降り注ぐ太陽の熱と光を浴びて、白い入道雲を見てあの形はあれに似てるとか、空を走る鳥が何の鳥か当てたり。

そんな他愛(たあい)もないことを話しながら、日々の生活で忘れていたことを、ゆっくりと思い出す。

子供の頃は当たり前のように知っていたことなのに、いつの間にか忘れてしまっていた。

思い出さなかったことを、思い出した。

悠貴さんも同じことを感じているのか、眩しそうに空を見上げて、瞳を瞑(つむ)って、深呼吸したりしている。
じっと見上げていたボクに気付いた悠貴さんは、ふっと微笑(わら)うと、

「相模湖でも見に行くか?」

と切り出した。
施設の前に大きな道路があり、その反対側に相模湖があるのだ。

「行きたい!」
「じゃあ行こうか」

手をつなぎたい衝動に駆られながら、ボクは悠貴さんの隣を置いて行かれないように早足で歩く。
車に気をつけながら道路を渡って、遠く広がる湖を眺める。

碧(あお)く大きな湖。水面が揺れて太陽の光を反射して、きらきら、きらきら、とても綺麗。
ボートが何隻(なんせき)が出ていて、家族連れっぽい人影や、カップルらしき男女の姿が見える。
吹き抜ける風が、頬を、髪を嬲(なぶ)る。

とても気持ちが良い。

夏の湿気を含んだ風、草いきれの匂い、肌を刺すように熱い太陽。
大嫌いだった夏が、悠貴さんが隣にいてくれるだけで、少しだけ好きになった。

それからは相模湖周辺を散歩して、予約の時間になったのでBBQをした。
ボクは全然やったことないから勝手がわからず、慣れた感じの悠貴さんの指示通りに動いた。
と言っても、悠貴さんがほとんど動いちゃったから、ボクは食べる専門になっちゃったけど。

野菜、お肉、お魚がバランスよく考えられたBBQセットだったし、悠貴さんの焼き方も上手かったせいか、いつもより一杯食べてしまい、お腹いっぱいになってしまった。
美味しいと言って食べるボクを、悠貴さんはずっと笑顔で見つめていた。あんまり見られると恥ずかしいのに。
焼いたりするのはできなかったけど、後片付けくらいは頑張らないと。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

liberation

BL / 完結 24h.ポイント:1,107pt お気に入り:3

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:240

蝶々の繭──午後二時の影〖完結〗

現代文学 / 完結 24h.ポイント:2,037pt お気に入り:4

呪われ伯爵様との仮初めの婚姻は、どうやら案外楽しいようです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,887pt お気に入り:222

背負う覚悟

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:49

私は妹とは違うのですわ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:5,693

御曹司は不遇な彼女に本物の愛を注ぐ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,101pt お気に入り:18

9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,054pt お気に入り:105

処理中です...