お布団から始まる異世界転生 ～寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?～

4章 異世界葛藤編

第58話 試験開始数分前

「あれ？　レイちゃーん、もしもーし」
　唖然としている俺の顔の前でルリアが手をふりふりと揺らす。

「はっ…、何か変な事を聞いた気がするんだが、気の所為だったか」

「ちょっと！　無かったことにしようとしないでよ！」

「まじかよ…、何でルリアが試験を受けるんだ？」

「まぁほら…その…、そう！　回復魔法も覚えたことだし？　せっかくなら取っておいた方が、受付嬢としても箔がつくかなーって」

「受付嬢の仕事なんてまともにやってないじゃねぇｋいってぇ！」

　ルリアに杖で腹をどつかれる。

「失礼な。ボクだってぇ、ちゃんとやれることはやってるんだからね！」

「だからってソレでどつくことないだろ…いてて…」

「仕事してないなんて言うレイちゃんが悪いの！」

「なんだか、仲が良さそうだねー」

「おぉ…スーか」

　ルリアとの間にいつの間にか近づいてきていたスーが、後ろ手を組みながら声をかけてくる。
　ルリアは不思議そうに俺とスーを交互に目で追っている。

「君も今日が試験日だったんだねー。一緒に頑張るにゃ」

「あぁ、試験科目は別だろうが、互いに出せる力を尽くそう」

「ちょっとちょっとちょっとぉ！　ボクを放置しないでよぉ！」

　ルリアが、更にスーとの間に割って入り、俺の腕をぎゅうと抱きかかえ、スーに向き直る。

「おい、こんなとこで引っ付くな」

「ねーレイちゃん。誰ぇ、この人」

　飼い猫が初めて来た客人を警戒するかのような態度でいるルリア。
　正確には猫はスー側なのだが、スーは気にした様子もなく、相変わらずニコニコとしている。

「貴方には自己紹介がまだだったもんね。ごめんねー、割って入ってきちゃって。スーは、『スー=シャオマーナ』だよ、よろしくニャ！」

「…いつの間に仲良くなったの？」

「図書館でたまたま本について教えてもらったり、訓練所の休憩室で鉢合わせたりとかかな。てか、何でそんな事聞くんだよ」

「べっつにー、ちょっと気になっただけだし」

「ねぇねぇ、貴方って、ギルドの受付にいる人だよね。ルリアさんで良かったっけ」

「え、何で知ってるの？」

「数回だけど、仕事を請負いに行ったことあったから」

「…えと…ごめん、覚えてない」

　なんともルリアらしいと呆れて肩を落とす。

「いーよいーよ、一日何人も相手してるのに、いちいち覚えてられないよねー」

「うぐ…そ、そうだねー。にへへ…」

　恐らく数人しか受け持っていないはずなので、ハナから覚える気が無いと見える。
　この誤魔化しきれていない誤魔化し笑いがその証拠だろう。

　それでもスーは特に何も気にした様子もなさそうにしているので、よっぽど察しが悪いか、それとも何も気にしていないかだろう。

　なんとなくだが、後者のような気がした。

「ルリアさんも、試験受けるんだよね？」

「えと、うん。受けるよぉ？」

「男の子が多いけど、同じ女の子同士、負けないように頑張ろうね！」

　すみません、こいつ、男なんです。

「そ、そうだね！　女の子同士、頑張ろぉ！」

　いや、こいつ男なんです…。
　いつかルリアのいないところで教えておこう。

「それじゃあスーは、近接部門だから、もう行くね。レイくんも頑張ってね！」

「あぁ、そっちも頑張れよな」

　スーは最後まで終始楽しそうにニコニコとしながら、去っていった。
　その反面、ルリアは終始ぎこちなかった。

「…おい、そろそろ離れとけ。もう試験も始まるぞ」

「あ、うん。ごめんごめん」

「俺は遠隔部門だからあっちか…。ルリアは、魔法部門だから、別の場所だな」

「一緒のとこが良かったなぁ」

「んなもん、仕方ないだろ。そういう試験なんだから」

「…レイちゃん」
　ルリアが俺の腕の裾を掴み、上目遣いで名前を呼ぶ。

「何だよ」

「応援、してくれる？」

「そりゃするさ」

「じゃあ言葉にして言って」

「…頑張ってこいルリア、応援してるぞ」

「…へへ、ボクもレイちゃんのこと、応援してるよぉ。頑張ってきてね！」

　満足そうに口元を緩めると、裾を離し、パタパタと指定場所へと駆けていった。

「えー試験開始まで、あと5分だ！　それぞれ、指定場所に付け。遅れたやつはその場で失格だぞ」

　会場全体に、デグの大きな声が響き渡り、先程まであった喧騒がやみ、ピリッとした緊張感のある空気へと変貌する。

　俺も思わず空気に飲まれかけるが、自分の頬をパチンと叩き、気を入れ直すと、俺の指定された場所へと歩みを進めた。

　さぁ、試験開始だ。