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第三章

レベル56

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 どうやら戦況はあまり良くなかったらしい。
 最初の時点で、王と第一王子という指揮権を失い、右往左往している所へ大群で攻め込まれた。
 いくつもの町や村が奪われ、国境が大きく動く。

 姫様が指揮に就いた事で多少持ち直したが、圧倒的物量差でジリジリと後退の憂き目にあっていたとか。

 そこへ骸骨王が颯爽と登場、大群の肝である食料部隊を急襲。
 誰もが見たこともない兵器を用いて一気に殲滅、返す刀でヘルクヘンセンに侵攻。
 侵略戦争ではなく、解放戦争と嘯き、味方するものには富を、敵対するもには死を、そう言って数々の都市を制圧していく。

 まさしく根っからの戦争屋であった。

「ところでさあ、なんでうちの実家の家紋の旗が立っているのよ。ちょっとばかり色が違うが」

 とうとうヘルクヘンセンの王都まで侵攻するとなった日、なぜかオレがお呼ばれされた。
 そしたらその骸骨王の部隊、オレのヘルクヘンセンでの実家である、ゼラトース家の旗が立っているじゃありませんか。

「ハッハッハ、我輩は主の下僕であるからな! 我輩の功績は総て主の物であるぅ!」

 お前、こないだまで一人称は私じゃなかったか?

「なんかこっちの方がしっくりくるんだよね」

 際ですか。

「というか待てよ! お前がやった事は全部オレが命令した事になっているのか!?」

 当然だろ? って顔で見てくる。
 どうして当然なんだよ? いや待てよ……オレはこいつのご主人様、ってことは、こいつの監督責任も当然ある訳で……

「自由にしていいって言った」

 言ったけど! ああ言ったけどさ!
 ヤヴァイ! この旗見て、うちの実家や王様達の血管が切れるような音が聞こえる気がする。

「どどど、どうしようラピえも~ん」
「誰がラピえも~んですか。言ってやればいいんですよ、オレをバカにしたお前らを成敗する時がやってきたって」

 なんでそんな火に油注ぐような事を言うのぉ!
 フッ、とうとうこの日がやって来ましたね。お坊ちゃまをバカにした上、この神スキルであるモンスターカードを使えないって言ってた奴らに正義の鉄槌を下す日が。なんて暗い笑いを浮かべている。
 ダメだ! こいつは当てにならない!

 というかほんと、アポロ達を連れて来なくて良かった……絶対バレてただろコレ……

「そもそも見た事もない兵器があるんだが……天啓スキル、使えたのか?」
「いいや、コレは我輩の記憶の中にあったものだ。当時では作る技術が無かっただけだ」

 なるほどな。
 そこへ姫様が上機嫌で現れる。

「いよいよだなクイーズ。まさかこんなにも早くこの日が来ようとは思わなかった。これもそれも、そなたが寄越してくれたダンディのおかげだな」

 オレはふと骸骨王を見やる。お前、ダンディって名乗っているの?
 えっ、オレがそう言ってたじゃないかって。いや、あれは別に名前じゃ……まあこの世界じゃ意味分からんか。

「まずは数発、王城へぶち込んで、無条件降伏を突き付けるか」
「ムダムダ、昔と変わらないなら奴らは無駄にプライドが高い。その上市民を平気で盾に使う。さっさと焦土と化してしまうのが一番だ」

 恐ろしい事言うなあんた! オレは目覚めさせてはならないものを目覚めさしてしまったのではないだろうか?

「待った! とにかく一度、会談の機会を設けよう」

 なんて提案したんだが、まあそうだろうな、オレも出なくちゃならないよなあ……

「クイーズ……この、裏切り者めが!」

 はい、お父上のヘイト頂きました。
 場所は、ちょうど両軍の睨み合いしている中間地点の草原。
 互いに椅子と机を持ち寄っての座談会でござる。

「あれほど目にかけてやったのに……恩を仇で返すとはこの事だな」

 そんな事言って、天啓スキルが出なかったとたん手のひら返したくせに。

「はい、交渉決裂~、それじゃ互いに戻って戦争始めましょうか」

 早い! 早いよラピスさん!

「え~、だって建設的なお話が出来そうにもないですよ?」
「ま、待て、分かった……そうだなクイーズ、我が家に戻ってくる気はないか?」

 ラピスからプチンと何かが切れた音がする。
 待って、待ってラピスさん、もうちょっと話を聞きましょう!

「うっ、ち、違うぞ、お前に家督を譲る、そして……お前が王となるのに協力しよう!」
「何、アルギス、貴様!」

 うちの父上がバッと手を上げたとたん、周りの兵士達が王様を押さえつける。

「なっ、なんの真似だ!?」
「すでに話は付いております、この国は今日この日をもって、新生ヘルクヘンセンへと生まれ変わります」

 ふと隣を見ると骸骨王がうすら笑いを浮かべている。
 コイツ……

「無条件降伏、で、話が付いたという事でよろしいのですな」
「我らは今後、そちらの国に忠誠を誓う事をお約束いたします」

 王族を除く全ての貴族が片膝をついて臣下の礼をとってくる。

「王よ、貴方一人が責任を取ればすべてがまるく収まるのですよ」
「そうですな、そもそも、そちらの王が隣国に戦争を吹っかけなければすんだ話」

 骸骨おめえ……

「元々クイーズ様はこの国の貴族、しかも、王となっても過分ではない地位にいたはず。ならば頭が変わるだけで済む話でしょう」
「そ、その通りです! ゼラトース家の長男クイーズ様と言えば、王家の一人娘、パセアラ様の婚約者であらせられたお方、どの道、あのような不幸な勘違いがなければ王となられていたはず!」

 その話を聞いてふと王様が顔を上げる。

「そうだクイーズ! お前はパセアラの事を好きだったのだろう! 王家に害をなすという事は、そのパセアラの首を落とす事になるのだぞ!」

 ここに来て、ずっとオレだけを見つめている少女がいる。
 瞬きもせずにずっと……4年、いやもう5年が過ぎたか、それでも誰だか分かる。
 オレの今世での初恋の相手。

「オレは嘘は吐いちゃいない」
「…………そうね」

 そう言うと俯いて首を伸ばしてくる。

「せめてあなたの手で終わらせて」
「やっ、やめろぉお! パセアラ! パセアラァア!」
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