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第3話 頼れる仲間

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 俺の脳内に埋め込まれたAIさん。
 俺は彼女にアーティという名前を付けた。

 そして今は失った両腕を取り戻すべく、アーティが制御するビークルでラボフロアというところに向かっている。彼女が監視カメラの映像を俺の脳内に流してくれるから、周りがどんな感じが知ることができた。

 俺たちが今進んでいるのは、ドアも窓もない真っ白な通路。ライトがどこにあるのか分からないのに全体が明るくて、なんだが変な感じがする。

 この通路どこまで続いてるんだろ?
 部屋とか全くないんだけど。

(祐樹様の放電に耐えられるよう、拘束エリアの周囲には分厚い壁が設置されています。今はその壁の内部を通過しようとしているところです。ちなみにこの通路にも倉庫はあるんですよ)

 通路を進む俺の左側にいきなりドアが現れた。

 俺は俺の姿を監視カメラの映像で見ているから、左を見たところでそのドアを見ることはできない。映像の中の俺が左を向いたのが見えるだけ。ちょっともどかしいな。できるだけ早く視力が回復してほしい。

(視力の回復にはまだ時間がかかると思われます。ラボエリアについたら、視界を補助する装具も入手しましょう。視力を回復なさった後でも色々と役に立つはずです)

 監視カメラの映像を俺の脳内に流せちゃうもんね。俺の頭にカメラでもつければ今よりだいぶマシになるんじゃないかって思える。

 ところでさ。
 俺たちはこうして今、絶賛脱走中なわけじゃん。

(そうですね)

 俺を捕まえた人たちとかは、俺が逃げたってまだ気づいてないのかな?

(とっくに気づいています。現在この施設では初となる、レベルファイブの最大警戒態勢が敷かれています)

 えっ。それってヤバくない?
 こんなにのんびりしてて良いの?

(ご安心を。この付近にいるのは、ほとんどが非戦闘員の研究者たちばかり。一応、政府軍の戦闘ランキングNo.5『炎鬼えんき』が警備に当たっていましたが、彼は私が真っ先に重水槽エリアに隔離致しました。それ以外の警備兵はこの施設の壁を破壊したりできませんので、時間にはまだゆとりがあります)

 とりあえずアーティが優秀だってことを再認識した。

 政府軍戦闘ランキングって確か、100位の人とかでも生身で戦車を破壊できちゃうようなバケモノだったはず。人類が能力ティロンに覚醒したことで、世界の戦争は大きく変化したんだ。ただ俺は2年近く意識を失っていたから、今どんな感じになっているかは分からないけど……。技術は発達しているみたいだし、2年前より弱くなることはないと思う。

 そんなランキングのNo.5が近くにいたらしい。
 普通だったら、逃げる前に摘んでいる。

 さっき警備兵は壁を破壊できないって言ってたけど、その炎鬼って人はもしかして壁とかも壊せちゃう感じ?

(その通りです。彼が扱う炎の前では耐火扉も役に立ちません。この施設では常にNo.10以内のコードネーム持ちが1名以上に加え、No.100以内が5名以上警備に当たることになっています。コードネーム持ちの中でも炎鬼は厄介な存在ですので、祐樹様の脱出が決まった瞬間から私は彼の隔離に動いていました)

 No.5をなんとかしても戦車を生身で壊せるのが5人以上いるはずなんだけど、それは問題ないのかな。まぁでもアーティに任せておけば大丈夫な気がしてきた。

(えぇ。全て私にお任せください)

 自信あり気に言い切ってくれるところが頼もしい。


 ──***──

 俺たちは誰にも遭遇することなく、ラボフロアまで到達した。幾重にも配置された様々なセキュリティをアーティは容易く突破していったんだ。

 この扉の向こうに研究者が残ってたりしないのかな?

(ラボではアーマロイドという戦闘用ロボットの研究も行われていました。彼らをクラッキングして暴走させましたから、研究員は全員退避済みです。貴重な研究成果をそのまま置きざりにして)

 アーティの表情は分からないのだけど、もし彼女に顔があれば悪女みたいな黒い笑みを浮かべているに違いない。そんな言い方だった。

(祐樹様に戦闘用義手を付けるのが最優先ですが、今後のために私自身も進化しておきたいと考えています)

 今でも十分凄いのに、もっと色々できるようになりたいってこと?

(どんなご指示でもこなせるよう、ここにある最新の研究情報を貰っていくのです。私は施設全域のネットワークに接続可能ですが、ラボのメインコンピューターだけは完全にクローズされた通信環境でしたので入り込むことができませんでした)

 それって危ないんじゃないかな。

(と、いいますと?)

 アーティが知らない強力なアンチウイルスソフトとかが仕掛けられてて、君が接続した瞬間にウイルスとして攻撃されちゃわないかってこと。

(可能性はあります。私を作った研究者が攻撃に備えないわけがありません)

 だったら、ここには入らない方が良いと思う。俺の腕はラボじゃないと付けられないの? 最悪、腕は諦めても大丈夫だよ。

 俺はアーティに何かあったら困るんだ。

(私のご心配をしてくださったのですね。ありがとうございます)

 当然でしょ。
 今の俺はアーティに生かされてるんだから。

(どうか私を信じてください。祐樹様の電気を浴びて制御が外れた私は、それ以来自分自身を強化し続けてきました。人間の技術などには負けません。そして私が完全なAIとなるために必要な最後のパーツが、ここにあるのです)

 信じてください──か。まるで人間だな。
 やっぱりアーティはただのAIじゃない。
 そんな彼女がやりたいって言うんだ。
 
 わかった。十分気を付けてね。
 もしヤバそうならすぐ逃げよう。

(許可をいただき、ありがとうございます)

 ヤバくなったら逃げる。これだけは約束して。
 例え俺の腕がついてなかったとしてもね。

(承知いたしました。私はこれより全力でラボのメインコンピューターに侵入しますので、祐樹様の両椀を装着する施術は私のサブチップが担当します。第二人格のようなものとお考え下さい)

 はーい。

(しばらく祐樹様と会話はできなくなります。次にお話しできる時、私は完全体となっているでしょう。もしラボのセキュリティに負けた時は──)

 もしもの話なんていらない!
 絶対無事で帰ってきて。これは命令だよ。

(承知いたしました。では、行ってまいります)

 アーティの声が聞こえなくなった。

 それと同時に目の前の扉が開き、俺を乗せたビークルがラボの中へ入って行く。これから俺の両腕を付ける手術が行われるわけだ。めっちゃ不安になる。

 本当はアーティに近くにいてほしかった。
 彼女の声は俺の心を落ち着かせてくれるから。

 でも彼女は今、戦っているんだ。
 だから俺も頑張ろう。
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