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第4話 戦闘義手

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(コレヨリ、戦闘義手接合術式ヲ開始シマス)

 アーティとは違う無機質な音声が頭に響いた。
 これが彼女の第二人格で、俺のオペを担当するAIらしい。

(痛覚遮断、聴覚遮断、視覚遮断……完了。内蔵電力ノ一部を使用シ、体内二埋メ込マレタ電極ヲ消滅サセマス)

 俺の腕に突き刺さっていた電極はアーティが外してくれたみたいだけど、それ以外にも何本か体内に埋め込まれていた。今後の生活で邪魔になるモノらしく、この機会に取り除いておくべきということらしい。

 全身が大きく痙攣した。

(電極ノ破壊ニ成功。破損シタ細胞ノ再生開始ヲ確認)

 俺のような電気系の能力保持者ティロンホルダーは、電気が身体を流れる時に細胞が焼かれて死滅してしまう。それを補うために多少の回復能力も持ち合わせているんだ。回復能力と言っても、俺のは傷が治るのがちょっと早くなる程度。

 傷が少し早く治る程度の能力だったはずが──

(肉体ノ回復、完了シマシタ)

 えっ!? もう?

 電極ってのは俺の身体の奥深くに埋め込まれていたはず。それを破壊するため体内に向けて放たれた電撃は強力なものだった。身体が痙攣した強さからもそれが分かる。であれば俺は数か月、下手をすれば年単位で動けなくなってもおかしくなかった。

 俺はスマホに充電しようとして、電力制御装置を通さずに能力を使って感電したことがある。たかが100V程度の電圧で俺は死にかけたんだ。そこから焼けた体内を元に戻すのに数日かかった。治癒の能力保持者ティロンホルダーに体外からの治療をしてもらった状態でそれ。

 弱小回復能力しか持たなかったはずの俺が、身体全身を焦がすような電撃を受けたにもかかわらず、もう全回復したらしい。これも改造された効果なのだろうか?

(ソノ通リデス。膨大ナ電力ヲ効率良ク扱ウタメ、祐樹様ノ回復系能力ティロンニモ改造ガ施サレテイマス)

 俺を効率よく使うための改造か……。それが無ければ今頃俺は死んでいたのだから、凄い能力を得たはずなのに素直に喜べない。なんかちょっと複雑な気分。

(祐樹様ノ行動ヲ制御スルタメノ装置、電極ナドハ完全ニ排除サレマシタ。デスノデコノ回復能力ハ今、貴方固有ノ力トナッタノデス)

 そうか。
 そう思うことにするよ。

 今後は俺の力として、存分に使わせてもらおう。

(ハイ。デハ続イテ、戦闘義手ノ接合ニ移リマス。接合ノ瞬間、祐樹様ノ意識ガ一度失ワレル可能性ガアルコトヲゴ承知下サイ)

 りょーかい!
 一思いにやっちゃってください。

(御意)

 ラボの壁からロボットアームが出てきた。
 それは紫に輝く二本の物体を運んでいる。

 もしかして、あれが俺の新しい腕なのかな?

 ぼんやりと光ってるそれは、よく見ると小さな光が無数に集まって構成されているようで、しかも全ての光が規則的に流動していた。アーティから詳しく聞いてないけど、戦闘義手としか聞かされてないけど、今さらなんですけど……。

 コレって、何なんですかっ!?

(接合、開始)

 ちょっ──

 やっちゃってくださいって言った俺が悪かった。アーティのサブチップさんは躊躇なく、その紫の光の集合体を俺の肩に押し当てた。


 ──***──

「……ううっ。ま、眩しい」

 意識を失っていたみたいだ。

「あれ、俺。俺、声が出せてる!」

 声が戻っていた。

「目も見えてる! 見えるぞ」

 そこは真っ白な部屋だった。

 両腕を付けるために連れて来られた部屋。入った時はここにある監視カメラを通して見た部屋を、今は俺の目で見られていた。

(オハヨウゴザイマス、祐樹様。御気分ハ如何デスカ?)

 アーティはまだ戻っていないようだ。

「悪くない気分だよ。俺の目と視力を回復させてくれてありがとう」

(恐レ入リマス。両椀ノ調子ハドウデショウカ? 調整ガ必要デスカ?)

 ハッとして自分の手を見る。
 そこには紫の物体──ではなく、普通の人間の手があった。

「あ、あれ? これが、俺の腕なの?」

 意識を失う前、俺に押し付けられた物体はどこに行ったのだろう? というかコレって、本物の俺の腕じゃない? 

 十数年共に過ごしてきた俺の腕そのものが俺の身体についていた。

 そーいや俺って、自分の腕が無いのは監視カメラを通してしか見ていない。だからきっと俺の腕が切断されたなんてのは嘘だったんだ。きっとアーティにも事情があって、俺に腕のない姿を見せてたんじゃないかな。

(祐樹様ノ記憶トDNA情報カラ貴方ノ腕ヲ再現サセテイマス。ソレハ間違イナク、ヴァリビヤナ粒子収束型戦闘義手デス。アチラノ小瓶ニ手ヲ伸バシテミテ下サイ)

 どういうことか分からないけど、とりあえず指示に従ってみる。

 俺はアーティが調達してくれたビークルに乗ってここまで来て、それに乗ったまま手術を受けた。今もビークルに座っている。少し離れた場所に机があり、上に小瓶が置かれていた。それに右手を伸ばす。

「──っ!? な、なにこれ!?」

 伸ばした右腕が紫の光の粒となって拡散した。
 パァっと弾け飛ぶ感じで俺の腕が消えてしまった。

(集中シテ下サイ。小瓶ニ触レルコトダケニ意識ヲ集中サセルノデス)

「意識に触れる……。こ、こんな感じ?」

 小瓶、小瓶、小瓶小瓶小瓶!
 アレを手に取る。小瓶を持つ! 
 絶対に触ってやるぞぉぉ!!

 周囲に散っていった光の粒が集まってきた。
 それが視線の先にある小瓶に向かって伸びていく。

 いっけぇぇぇぇぇぇええええ!

 俺の伸びた腕が小瓶に触れ、それを握りつぶした。
 割れた小瓶から何かの液体が流れ出す。

「あっ、ヤベ。やりすぎた」

(十分ナ成果デス。ヴァリビヤナ粒子ヲ収束サセル感覚ヲ掴ムコトニ成功シマシタネ。仮ニ上手ク行カナケレバ、セクシー女性ノ幻覚ヲ見セテ、ソレニ触レヨウトシテイタダク作戦モ検討シテイマシタガ……。無駄ダッタヨウデスネ)

 なんかその展開、漫画で読んだことあるぞ!
 てか、初回はそっちの方が良かったんですけど!

 ねぇ、やっぱり一回じゃダメだと思うんですよ。
 練習させてよ。お願いします。
 とりあえずセクシーな女性の幻覚出して。

  そんなことを頼んでみたが、俺は腕を発散させたり元の形に戻す術を完璧に修得できてしまったようだ。何度でも出来るし、ある程度は好きな形に腕を変形できるようになってしまった。

 この腕、聞き分け良すぎだろ。
 もう少し俺の意識に抵抗してくれてもいいんだよ?

(メインチップガ完璧ニ調整シテイマス。余程ノ事ガナイ限リ、祐樹様ノ意識ニ反シタ動キヲスル事ハナイデショウ。ソレニ、遊ンデイル時間ハアリマセン)

 時間がない? 
 アーティーはゆとりがあるって言ってたけど……。

「彼女になにかあったの? アーティーはまだ戻ってこないの?」

(表層ノセキュリティヲ突破シテ中央演算装置ニ侵入ハ出来タモノノ、最終ファイアウォールカラノ反撃ニ苦戦シテイマス)

「俺たちにできることってないかな? 物理的に何かを壊して手助けするとか」

(物理的ニ可能ナコトハ、メインチップガ既ニ実施済ミデス。私タチハ待ツシカアリマセン。ソレニ、ソモソモ何カヲヤル余裕ナドナイノデス)

 アーティの第二人格は無機質な声色ながらも、少し焦っている様子が感じ取れた。

(コノ場所ニ、炎鬼えんきガ向カッテ来テイマス)

「それってNo.5の能力保持者ティロンホルダーでしょ!? アーティが隔離したはずじゃ」

(メインチップノ予測ヲ凌駕スル戦闘力ヲ秘メテイタヨウデス)

「ヤバいじゃん! 逃げなきゃ──って、アーティがこのラボのコンピューターに接続してるから逃げられないのか!」

(ソノ通リデス。今、祐樹様ガココヲ離レマスト、メインチップノ機能ガ完全ニ消失スル恐レガアリマス)

 それって、俺がNo.5と戦って時間を稼ぐしかないってこと!?
 無理むり! 絶対に無理だって!!

「戦車を生身で壊すバケモノのやつらのトップクラスと戦うなんてできないって!」

(……祐樹様、私ハ即時逃走ヲ推奨シマス)

「アーティを見捨てて逃げろって!? それは嫌だ! お願いだから、彼女を呼び戻してよ!! 彼女が戻ってきたら、すぐにここから逃げるからさ」

(呼ビカケテイマスガ、応答ガアリマセン。ソレニ、モウ──)

「あとどれくらいでNo.5が来るか分かる!? せめてラボの入り口にバリケードとか作るから」

(アト、5)

「5分!? でも、それだけあればなんとか」

 その時、ラボの白い壁の一部が赤く光った。
 壁がこちら側に膨らんでくる。

(回避ヲ!! 前方ニ飛ンデ!!!)

 とてもヤバい気がして、ほぼ反射で指示に従った。
 直前まで俺がいた場所に炎の柱が通り過ぎていく。

 ご、5分じゃなくて 5秒 かよっ!!


「おいおいおい、マジで逃げてんじゃねーか」

 身長2メートル近くある赤髪の大男が、溶けた壁をくぐってラボの中に入ってきた。
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