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Episode1「別れ」
第3話
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横に座る千奈津こと、裕人の姉の千奈津さんは、隣の座席から身を乗り出して運転手の男性にスマホの電子マネーで決済をしている。パグのイラストが印刷された白いシャツにインディゴデニムのジャケットを羽織り、くすんだオレンジカラーのワイドパンツを着こなした彼女。そのウェーブさせた顎までのベージュカラーのふんわりとした髪型は、裕人同様、モデルでも出来そうな優美な顔立ちによく似合っていた。対して私はと言うと、シンプルにオフィス系の白いブラウスに黒いパンツという出で立ち。2人並ぶサマはきっと月とスッポンに違いない。
「なっちゃん、よく寝てたのよ?あんまり心地良さそうに寝息立ててたから起こすの躊躇ったんだけど」
運転手に御礼の言葉を残すと、彼女は私の右肩をトンと触れ、降りましょ、と言った。私はタクシーの運転手がいつの間にか開けた後部座席のドアに気づくと、身体を左に回して両足を出した。グレーに白いラインが入ったシューズが、神奈川県内某所の住宅街である通りのコンクリートの地面に触れて微かに砂がこすれる音が響いた。
この日、26歳の私、白井奈緒は、裕人の姉、今年で31歳になる西条千奈津さんと、彼女の友人の自宅にタクシーで向かっていた。
私の恋人だった、裕人さんは、今から4年前に朝日航空の飛行機に搭乗した際に、悪天候から生じた機体の計器異常による航空機事故で命を落とした。元々北海道に住む知人の結婚式に招待された彼は、クリスマスの朝イチの便で飛び立ち、帰りの夜に私とクリスマスデートをしに帰って来る約束をしていた。しかし、生憎急転した悪天候からの機体のシステム異常は、太平洋側の海上に胴体着陸を余儀なくさせ、不時着に失敗した機体は粉砕し、裕人さんは太平洋に放り出された。水中に沈んでいた遺体が回収されたのは―――丸2日後だった。
あれから4年が経った。彼の姉である千奈津さんは、未だに裕人の事を想い続ける私の傍で、「弟の恋人」として接してくれている。たまに「なっちゃん、もう新しい人生、歩んでもいいのよ?裕人も……なっちゃんの幸せ、望んでると思う」と、言ってくれる。その度に私は「私の恋人は……裕人さんだけだから」と答えるが、彼女は寂し気に微笑むことしかしない。
何が正解で、何が幸せなのか。それは私には分からない。もうこの世にいない裕人を想い続けるのが、正解なのか。誰に尋ねても恐らく同じだろう。
彼以外の恋人を作る自分を許せる自信が、私にはない。きっとその想いが正解なんだろう。自然に―――任せる。どこか雲の上にいる「彼」が教えてくれる。―――きっと、そのタイミングを。
高音のインターホンの音が、その場に漏れ聞こえた。
「なっちゃん、よく寝てたのよ?あんまり心地良さそうに寝息立ててたから起こすの躊躇ったんだけど」
運転手に御礼の言葉を残すと、彼女は私の右肩をトンと触れ、降りましょ、と言った。私はタクシーの運転手がいつの間にか開けた後部座席のドアに気づくと、身体を左に回して両足を出した。グレーに白いラインが入ったシューズが、神奈川県内某所の住宅街である通りのコンクリートの地面に触れて微かに砂がこすれる音が響いた。
この日、26歳の私、白井奈緒は、裕人の姉、今年で31歳になる西条千奈津さんと、彼女の友人の自宅にタクシーで向かっていた。
私の恋人だった、裕人さんは、今から4年前に朝日航空の飛行機に搭乗した際に、悪天候から生じた機体の計器異常による航空機事故で命を落とした。元々北海道に住む知人の結婚式に招待された彼は、クリスマスの朝イチの便で飛び立ち、帰りの夜に私とクリスマスデートをしに帰って来る約束をしていた。しかし、生憎急転した悪天候からの機体のシステム異常は、太平洋側の海上に胴体着陸を余儀なくさせ、不時着に失敗した機体は粉砕し、裕人さんは太平洋に放り出された。水中に沈んでいた遺体が回収されたのは―――丸2日後だった。
あれから4年が経った。彼の姉である千奈津さんは、未だに裕人の事を想い続ける私の傍で、「弟の恋人」として接してくれている。たまに「なっちゃん、もう新しい人生、歩んでもいいのよ?裕人も……なっちゃんの幸せ、望んでると思う」と、言ってくれる。その度に私は「私の恋人は……裕人さんだけだから」と答えるが、彼女は寂し気に微笑むことしかしない。
何が正解で、何が幸せなのか。それは私には分からない。もうこの世にいない裕人を想い続けるのが、正解なのか。誰に尋ねても恐らく同じだろう。
彼以外の恋人を作る自分を許せる自信が、私にはない。きっとその想いが正解なんだろう。自然に―――任せる。どこか雲の上にいる「彼」が教えてくれる。―――きっと、そのタイミングを。
高音のインターホンの音が、その場に漏れ聞こえた。
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