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第8章 絆
第283話 そうだと思いたい
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「くそ!あの女!本当にやな性格は健在ね!」
バァンと苛立ちをそのまま、扉にぶつけて華南は部屋に入り、そこでようやく翠玉の手を離した。
部屋は無人で、どうやらまだ隆蒼は戻っていないらしい。
「連れ出してくれてありがとう」
ようやく詰めていた息を吐いて、まだ息巻いてる華南を見上げると。
彼女はくるりとこちらに向き直る。
最初こそ怒りの形相で翠玉を見たものの、みるみる表情が悲し気に歪んでゆく。
「よく我慢されました!ご一緒にいられず申し訳ありません。
一緒にいればよもや誘い出されることも無かったものを!!」
泣き出さんばかりに縋り付かれ、わずかに翠玉はよろけながらも堪える。
あまりの彼女の感情の起伏の激しさに、少し心配になる。
「いいのよ。2人とも離れることを指示したのは私だもの。何にも悪いことなんてないわ!」
大丈夫よと、彼女のしなやかで引き締まった上腕を撫でてやる。
実際、2人とも翠玉を1人残すことを嫌がったのだ。しかし朝から降り出した雨は、午後から一層強くなりそうだった。小ぶりのうちに早めに用を済ませよと言って追い出したのは翠玉だ。
「本当に相変わらずの性悪女です!
あえてあんな話を聞かせるなんて!」
翠玉を椅子に座らせ、「お茶を飲み直しましょう!」と言って準備をしながら、彼女は怒り冷めらぬ様子で言い捨てた。
「聞いてたのね?」
「最後の方だけです!一体どれだけ嫌なことを言われたのです?」
「あれが1番強烈だったくらいだから大丈夫よ?」
小首を傾げると、華南は探るように翠玉の顔をみつめ、ほっと息を吐いた。
「そうであるならば安心しました。」
良くはないんですけどね!とぶつぶつ言いながら、茶を出してくれた。
「全く、殿下の寵愛深い翠玉様に、昔自分がどれだけ寝所で愛されたのかを自慢してどうするつもりなのかしら!
あんたの言う夢のような夜なんぞ翠玉様は毎日お過ごしよ!」
怒りに任せて彼女は自分の分の茶器をカンッと卓に打ち付ける。
なんだか華南の言うことも随分心に刺さって、苦笑する。
夢のような夜……か。
思わず小さくため息が漏れる。
途端に、華南がピタリと動きを止めた。
そして、じぃっと翠玉を観察するように見つめる。
「え……もしかして……
いや、まさか、そんなわけないですよね?」
さすがは自称百戦錬磨の女だ。しかも、職業がら勘が鋭い。
誤魔化しは効かないだろう。
自嘲して、一口茶を飲む。
「ない、わけじゃないのだけどね。何というか初夜に義務で一度」
もうほとんど記憶にないと思っていたが、先程の珠那の話を聞いて断片的に思い出してしまった。
幸せや暖かみなどと程遠い、あったのは初めて経験する痛みの波に虚無感。
「どういうこと!?」
華南が頭を抱えて悲鳴のような声を上げる。
無理もない。
「殿下も、翠玉様もお互い思い合ってるのですよね?どうして」
なぜか本当に泣きそうな声だ。
「互いの思いに気づいてまだそんなに日が経ってないの。私特にこういうこと疎くて」
以前冬隼に子を産みたいと話し、叱られたことを思い出す。
「多分、冬隼は私の気持ちを考えて待ってくれてるんだと思うの」
そうだと思っていた。否、そうだと思いたい。
華南に言い聞かせながら、実際は自分を慰めているのかもしれない。
「そう、いうことですか……」
だから泰誠が余計な気をまわしていたのね。
と華南がぶつぶつ呟く。
そして、少し思案して、翠玉の手を取る。
暖かくて、しなやかな女性の手だが。所々硬い剣ダコが触れる。
心強い女剣士の手だ。
強い眼差しで彼女は翠玉を見つめている。
「ならばあの女の言うことなんて気にしなくていいです!その必要は有りません!
だって殿下の昔の女性達って」
そこまで言いかけて、彼女はピタリと動きを止めた。
その理由は、翠玉にもすぐに分かった。
扉の外に人の気配がする。
バァンと苛立ちをそのまま、扉にぶつけて華南は部屋に入り、そこでようやく翠玉の手を離した。
部屋は無人で、どうやらまだ隆蒼は戻っていないらしい。
「連れ出してくれてありがとう」
ようやく詰めていた息を吐いて、まだ息巻いてる華南を見上げると。
彼女はくるりとこちらに向き直る。
最初こそ怒りの形相で翠玉を見たものの、みるみる表情が悲し気に歪んでゆく。
「よく我慢されました!ご一緒にいられず申し訳ありません。
一緒にいればよもや誘い出されることも無かったものを!!」
泣き出さんばかりに縋り付かれ、わずかに翠玉はよろけながらも堪える。
あまりの彼女の感情の起伏の激しさに、少し心配になる。
「いいのよ。2人とも離れることを指示したのは私だもの。何にも悪いことなんてないわ!」
大丈夫よと、彼女のしなやかで引き締まった上腕を撫でてやる。
実際、2人とも翠玉を1人残すことを嫌がったのだ。しかし朝から降り出した雨は、午後から一層強くなりそうだった。小ぶりのうちに早めに用を済ませよと言って追い出したのは翠玉だ。
「本当に相変わらずの性悪女です!
あえてあんな話を聞かせるなんて!」
翠玉を椅子に座らせ、「お茶を飲み直しましょう!」と言って準備をしながら、彼女は怒り冷めらぬ様子で言い捨てた。
「聞いてたのね?」
「最後の方だけです!一体どれだけ嫌なことを言われたのです?」
「あれが1番強烈だったくらいだから大丈夫よ?」
小首を傾げると、華南は探るように翠玉の顔をみつめ、ほっと息を吐いた。
「そうであるならば安心しました。」
良くはないんですけどね!とぶつぶつ言いながら、茶を出してくれた。
「全く、殿下の寵愛深い翠玉様に、昔自分がどれだけ寝所で愛されたのかを自慢してどうするつもりなのかしら!
あんたの言う夢のような夜なんぞ翠玉様は毎日お過ごしよ!」
怒りに任せて彼女は自分の分の茶器をカンッと卓に打ち付ける。
なんだか華南の言うことも随分心に刺さって、苦笑する。
夢のような夜……か。
思わず小さくため息が漏れる。
途端に、華南がピタリと動きを止めた。
そして、じぃっと翠玉を観察するように見つめる。
「え……もしかして……
いや、まさか、そんなわけないですよね?」
さすがは自称百戦錬磨の女だ。しかも、職業がら勘が鋭い。
誤魔化しは効かないだろう。
自嘲して、一口茶を飲む。
「ない、わけじゃないのだけどね。何というか初夜に義務で一度」
もうほとんど記憶にないと思っていたが、先程の珠那の話を聞いて断片的に思い出してしまった。
幸せや暖かみなどと程遠い、あったのは初めて経験する痛みの波に虚無感。
「どういうこと!?」
華南が頭を抱えて悲鳴のような声を上げる。
無理もない。
「殿下も、翠玉様もお互い思い合ってるのですよね?どうして」
なぜか本当に泣きそうな声だ。
「互いの思いに気づいてまだそんなに日が経ってないの。私特にこういうこと疎くて」
以前冬隼に子を産みたいと話し、叱られたことを思い出す。
「多分、冬隼は私の気持ちを考えて待ってくれてるんだと思うの」
そうだと思っていた。否、そうだと思いたい。
華南に言い聞かせながら、実際は自分を慰めているのかもしれない。
「そう、いうことですか……」
だから泰誠が余計な気をまわしていたのね。
と華南がぶつぶつ呟く。
そして、少し思案して、翠玉の手を取る。
暖かくて、しなやかな女性の手だが。所々硬い剣ダコが触れる。
心強い女剣士の手だ。
強い眼差しで彼女は翠玉を見つめている。
「ならばあの女の言うことなんて気にしなくていいです!その必要は有りません!
だって殿下の昔の女性達って」
そこまで言いかけて、彼女はピタリと動きを止めた。
その理由は、翠玉にもすぐに分かった。
扉の外に人の気配がする。
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