後宮の棘

香月みまり

文字の大きさ
上 下
90 / 234
第8章 絆

第306話 牽制2

しおりを挟む

室内には、2人がぶつぶつ言う声と、パチパチ碁石を動かす音が響く。

夕餉を終えて、もう随分時間も遅くなっている。

ふぅっと、息を吐いて小休止でもしようかと思った所、カタンと手元に茶器が置かれた。

「今日はここまでになさいましょう?根を詰めすぎるのはよくありませんから」

茶を置いた主を見上げれば、華南がニコリと笑って立っていた。

柔らかくて香ばしい香りが鼻をくすぐる。

張り詰めていたものが、すこしだけ緩んだ。


「ごめんなさい、2人とも退屈よね?良かったら先に休んで?」

時折交代で食事をしたり訓練に参加したりしているのは分かっていたが、基本的に彼らはずっとこの部屋で翠玉達を見守っている。
このまま夜遅くまで付き合わせるのは忍びない。

そう思って言ったのだが、華南は首を横に振る。

「いいえ、私たちは翠玉様の護衛ですから、殿下のもとにお帰りいただくまでは、お付き合いしますわ」

「でも、ここは自軍の中だし、身の安全は問題ないと思うわ?」


「それでも、それが私たちの役目ですから」

有無を言わせずそう言われれば、返す言葉がない。


その時、ククッと対面に座っていた至湧が笑った。


「監視、ですよ僕のね」

そうでしょう?と微笑まれて、華南も負けずにニコリと微笑む。とても妖艶な微笑みだ。

「察しがよろしくて助かります」

「えっと……どう言うこと?」

意味が分かっていない様子の翠玉に、至湧は「まぁ、姫様はそうですよね」と笑うと立ち上がった。

「今日はここまでにしましょう。たしかに、休息は頭の回転にとても重要ですし、根を詰めればいいものでもないですからね!ただ……」

そこまで言って、至湧は視線を華南と隆蒼に向ける。

「旦那の元に、直ぐに帰すのも癪ではあるのでね」

そう言うと徐に、翠玉の手を取り、その手に素早く軽い口付けを落とす。


「おやすみなさいませ、我が姫」

すぐに手を離すと、呆気にとられている一同を一瞥して颯爽と部屋から出て行ってしまった。


残された3人は、あまりの唐突で鮮やかな彼の手際に、数秒固まってしまった。


「敵は手強そうだわ隆蒼」

「その様だ」

低く2人が言うと、一人で唖然と自分の手を見つめていた翠玉が

「ん?え?どう言うこと?」

と混乱し始めた。

「この事は、殿下には黙っておきましょう」

とてつもなく優しい声で、華南に言われて、翠玉は慌てて頷く事しかできなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【改訂版】ヤンデレ彼女×サイコパス彼氏≒異世界最強カップル

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:14

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,017pt お気に入り:13

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,838pt お気に入り:10,281

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。