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第8章 絆
第306話 牽制2
しおりを挟む室内には、2人がぶつぶつ言う声と、パチパチ碁石を動かす音が響く。
夕餉を終えて、もう随分時間も遅くなっている。
ふぅっと、息を吐いて小休止でもしようかと思った所、カタンと手元に茶器が置かれた。
「今日はここまでになさいましょう?根を詰めすぎるのはよくありませんから」
茶を置いた主を見上げれば、華南がニコリと笑って立っていた。
柔らかくて香ばしい香りが鼻をくすぐる。
張り詰めていたものが、すこしだけ緩んだ。
「ごめんなさい、2人とも退屈よね?良かったら先に休んで?」
時折交代で食事をしたり訓練に参加したりしているのは分かっていたが、基本的に彼らはずっとこの部屋で翠玉達を見守っている。
このまま夜遅くまで付き合わせるのは忍びない。
そう思って言ったのだが、華南は首を横に振る。
「いいえ、私たちは翠玉様の護衛ですから、殿下のもとにお帰りいただくまでは、お付き合いしますわ」
「でも、ここは自軍の中だし、身の安全は問題ないと思うわ?」
「それでも、それが私たちの役目ですから」
有無を言わせずそう言われれば、返す言葉がない。
その時、ククッと対面に座っていた至湧が笑った。
「監視、ですよ僕のね」
そうでしょう?と微笑まれて、華南も負けずにニコリと微笑む。とても妖艶な微笑みだ。
「察しがよろしくて助かります」
「えっと……どう言うこと?」
意味が分かっていない様子の翠玉に、至湧は「まぁ、姫様はそうですよね」と笑うと立ち上がった。
「今日はここまでにしましょう。たしかに、休息は頭の回転にとても重要ですし、根を詰めればいいものでもないですからね!ただ……」
そこまで言って、至湧は視線を華南と隆蒼に向ける。
「旦那の元に、直ぐに帰すのも癪ではあるのでね」
そう言うと徐に、翠玉の手を取り、その手に素早く軽い口付けを落とす。
「おやすみなさいませ、我が姫」
すぐに手を離すと、呆気にとられている一同を一瞥して颯爽と部屋から出て行ってしまった。
残された3人は、あまりの唐突で鮮やかな彼の手際に、数秒固まってしまった。
「敵は手強そうだわ隆蒼」
「その様だ」
低く2人が言うと、一人で唖然と自分の手を見つめていた翠玉が
「ん?え?どう言うこと?」
と混乱し始めた。
「この事は、殿下には黙っておきましょう」
とてつもなく優しい声で、華南に言われて、翠玉は慌てて頷く事しかできなかった。
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