後宮の棘

香月みまり

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第9章 使、命

第320話 標的

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「この雨はいつまでつづくのだろうね」


「この辺りは比較的乾燥地帯ですから、長雨は珍しいです。もうそろそろかと」

堯雅浪の言葉に董伯央はそうかと頷いて、天幕の中から空を見上げる。

雨は嫌いじゃない。
大地を豊かにして、恵を齎す。

そして時にそれは大きな力を持って人を、大地を翻弄する。
 
その恐ろしさを侮るなよと昔、師が言っていたのを思い出す。

そして敵は、以前の戦いでその雨を、水を見事なまでに利用した。


今度はどのような策を講じてくるのだろうか。

とはいえ、直前に戦場を変えたのは自分だ。
どう出てくるのか楽しみにしていたのだが、今のところ楽しいことは何も起こっていない。


予想以上に天候の悪い日が続く。
無駄に疲弊したくないのが正直な所だ。
こんな雨が続くのなら、さっさと片付けなければならない。

しかしこちらにも動けない事情がある。

「とりあえず屋根が欲しいなぁ」

あの大きな州府。

あの要塞を早く手にしたい。

あそこを手に入れることができたなら、湖紅、碧相2国への陸の要所を手に入れられる。

要塞の攻略には大物の道具がいる。
今回それは調達が、済んでいる。あとは機を待つだけだ。

異なる国、指揮系統
所詮連携しても、たかが知れてる。

ククッと1人笑って、そしてそこにもう1人男がいた事を思いだす。


「それで?君の探し物はどうなったの?東左」


見下ろした男、東左の双眸が光った。

しかしその表情は、読み取れない。
全くやり辛い男だ。


「未だ確認はとれません」

「そのようだね?そう言えば、報告に敵方の要人で紅稜寧という聞き慣れない名があったけど?」

そう首を傾げると、彼は相変わらずの無表情だ。

「宰相の雪稜の子息です。まだ10代前半で、武というよりは文というタイプなので彼の帯同には正直驚いています。」

驚いた様子もなく言う東左から、伯央は視線を逸らす。

彼を見ていても、面白味がない。

「あの知れ者というあの宰相の子か?」

自分も何度かどこかで顔を見た事がある。ニコニコと笑う下でなかなか強かなところがある男だ。

同族嫌悪というのだろうか、どこか自分と重なる部分を感じて、いけ好かない。

「おそらくは次世代を担う経験のためかと」

東左の言葉に、なるほど、と納得する。

10代前半であれば、戦を見せておくにはいい頃合いかもしれない。

特に政治の上に立つ者は、知っておくべきであろう。

となれば、やはり将来を有望視されているのだろう。

「確かに厄介な芽だなぁ。今も戦場に?」


「いえ、開戦数日は姿を見ましたが、最近は後ろに下がっている様子」


「そうか、、、まぁ出てきたら潰せるなら潰したいけど、まぁ難しいかな?」

そう呟けば、わずかに東左が身動ぎする気配がする。

そうだろう、彼は雪稜にも因縁があるはずだ。


「そろそろ私も動きますので、ついでがあれば」



「あぁ、そうだね、ついでが有ればお願いしようかな?」
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