121 / 161
番外編
姉妹③ 引越し
新居に入ると言っても、離婚して最低限の荷物を持って出てきた華南と、同じく所属していた州軍の宿舎から少しの荷を持ってきただけの隆蒼。すぐに翠玉の護衛に駆り出されていた二人には、大した荷などなかった。
数日前まで職人が入り、修繕していた家は夫婦二人で住むには十分すぎる大きさで、子ども2.3人で有れば難なく生活できるような邸だった。
「ねぇ、コレ本当に私達に殿下が下さるって言ったのよね?」
「俺はそう聞いたぞ。お前もその場にいただろう?」
「うん……聴き間違えじゃないよなって思っただけ」
二人で家の前に立って呆然とその新築同然に改修された家を眺める。
たしかに、まだ戦地にいる時に家を用意すると冬隼は言ってくれたが、それは自分達で賃料を払って住む家だと思ったのだが。
「まぁ殿下からの結婚祝いだと思って、受け取っておきなよ!」
不意に背後から、どこか面白がるような声がかけられて、振り向けば泰誠が楽しそうにニヤニヤと笑って立っているではないか。
「結婚祝と、報酬だって聞いてるけど、それにしても破格すぎよ!」
呆れて肩を竦めて抗議するけれど、泰誠は「まぁまぁ」と笑うばかりだった。
「報酬は報酬でも特別報酬だからさ……珠那嬢の件で上手く翠玉様をフォローしてくれなかったら、今の殿下の幸せは無かっただろうからね。感謝しても仕切れないところを、形にしたのだろうよ」
それに……と彼は心底嬉しそうにその顔に笑みを深めた。
「ここに君ら二人が定住するなら、殿下は目と鼻の先に信頼出来る者達を置けるわけで、自身の邸の安全と安心が買えるわけだ。しかも華南は翠玉様とお生まれになるお子様の護衛なわけだし。すぐに駆けつけることができる。安い買い物だと思うけどね」
ようこそこちら側へと言われて、二人はその意味を正確に理解した。
ここから、目と鼻の先には冬隼と翠玉の邸があるのだ。それこそ何か起こればすぐに察知できる距離である。
そしてこの家の対角側にあるのが泰誠に宛てがわれた邸で、やはり有事の際にはすぐに駆けつけることができるようになっているのである。
要は常に都合よく呼び出せる者が、泰誠1人ではなくなり3人になったと言うことだ。
「相変わらず策士ね。唆したのはあんたでしょ?」
そう薄く睨みつけると、泰誠は隠すそぶりもなさそうに「そうだよ!」と白状した。
「殿下は新婚にはちょうどいい規模の家だし、華南の職場にも近いし、ここならば禁軍にも通いやすいだろうってつもりで選ばせたみたいだけどね」
つまり、後付けの所は泰誠の企みであったと言うことなのだろうか。
「あんた本当に食えないやつね」
「ははは、ありがとう」
「褒めてないわよ」
数日前まで職人が入り、修繕していた家は夫婦二人で住むには十分すぎる大きさで、子ども2.3人で有れば難なく生活できるような邸だった。
「ねぇ、コレ本当に私達に殿下が下さるって言ったのよね?」
「俺はそう聞いたぞ。お前もその場にいただろう?」
「うん……聴き間違えじゃないよなって思っただけ」
二人で家の前に立って呆然とその新築同然に改修された家を眺める。
たしかに、まだ戦地にいる時に家を用意すると冬隼は言ってくれたが、それは自分達で賃料を払って住む家だと思ったのだが。
「まぁ殿下からの結婚祝いだと思って、受け取っておきなよ!」
不意に背後から、どこか面白がるような声がかけられて、振り向けば泰誠が楽しそうにニヤニヤと笑って立っているではないか。
「結婚祝と、報酬だって聞いてるけど、それにしても破格すぎよ!」
呆れて肩を竦めて抗議するけれど、泰誠は「まぁまぁ」と笑うばかりだった。
「報酬は報酬でも特別報酬だからさ……珠那嬢の件で上手く翠玉様をフォローしてくれなかったら、今の殿下の幸せは無かっただろうからね。感謝しても仕切れないところを、形にしたのだろうよ」
それに……と彼は心底嬉しそうにその顔に笑みを深めた。
「ここに君ら二人が定住するなら、殿下は目と鼻の先に信頼出来る者達を置けるわけで、自身の邸の安全と安心が買えるわけだ。しかも華南は翠玉様とお生まれになるお子様の護衛なわけだし。すぐに駆けつけることができる。安い買い物だと思うけどね」
ようこそこちら側へと言われて、二人はその意味を正確に理解した。
ここから、目と鼻の先には冬隼と翠玉の邸があるのだ。それこそ何か起こればすぐに察知できる距離である。
そしてこの家の対角側にあるのが泰誠に宛てがわれた邸で、やはり有事の際にはすぐに駆けつけることができるようになっているのである。
要は常に都合よく呼び出せる者が、泰誠1人ではなくなり3人になったと言うことだ。
「相変わらず策士ね。唆したのはあんたでしょ?」
そう薄く睨みつけると、泰誠は隠すそぶりもなさそうに「そうだよ!」と白状した。
「殿下は新婚にはちょうどいい規模の家だし、華南の職場にも近いし、ここならば禁軍にも通いやすいだろうってつもりで選ばせたみたいだけどね」
つまり、後付けの所は泰誠の企みであったと言うことなのだろうか。
「あんた本当に食えないやつね」
「ははは、ありがとう」
「褒めてないわよ」
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
異国妃の宮廷漂流記
花雨宮琵(かうみやび)
キャラ文芸
唯一の身内である祖母を失った公爵令嬢・ヘレナに持ち上がったのは、元敵国の皇太子・アルフォンスとの縁談。
夫となる人には、愛する女性と皇子がいるという。
いずれ離縁される“お飾りの皇太子妃”――そう冷笑されながら、ヘレナは宮廷という伏魔殿に足を踏み入れる。 冷徹と噂される皇太子とのすれ違い、宮中に渦巻く陰謀、そして胸の奥に残る初恋の記憶。
これは、居場所を持たないお転婆な花嫁が、自ら絆を紡ぎ、愛と仲間を得て”自分の居場所”を創りあげるまでの物語。ときに騒がしく、とびきり愛おしい――笑って泣ける、異国妃のサバイバル宮廷譚。最後はハッピーエンドです。
※本作は2年前にカクヨム、エブリスタに掲載していた物語『元敵国に嫁いだ皇太子妃は、初恋の彼に想いを馳せる』を大幅に改稿し、別作品として仕上げたものです。
© 花雨宮琵 2025 All Rights Reserved. 無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」