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番外編ー清劉戦ー
2日目夕 腕に乗るもの
「まさか民にここまで嘆かれてるとはねぇ。同じ皇族として情けないったらないわ」
滞在する宮に少し早めに戻り、帰宅前に購入してきたフルーツと団子を蜂蜜で漬けた甘味を食べながら茶を飲んでいると、疲れたように翠玉がため息を吐く。
「まぁその内の殆どを私は宮廷で飼い殺されてて、民の助けになるどころか租税を食い潰すだけの存在だったのも、申し訳ないったら悔しいったらないわね」
どこか投げやりな言葉に、冬隼は務めて冷静に「仕方ないだろう」と返す。
「好きで飼い殺されていたわけでもあるまい。お前は人のためになる才を持っていた。それ皇帝が上手く利用出来なかっただけだ。
現にお前は湖紅に来て、場所を与えられて国の発展に十分貢献した。責められるのはお前ではない。私情に走って活用できなかった皇帝の責だ」
もっとも、湖紅にとっては、思いがけずありがたい方向に転んだのだから、俺は感謝するがな。
と笑ってやると、翠玉は少しだけ肩の力を抜いて「そうね」と微笑んだ。
「ここに来るまでに少し迷いもあったの。先が良くなる事は理解できていても、それでも一時は清劉の民も政治も混乱させるでしょう?民はそれを望んでるのかなぁって」
そう言って翠玉は一口茶を飲んで、小さく息を吐いた。
「でも、必要な事なんだって、、、分かったわ。彼らの話を聞いて。このままじゃあ絶対に彼らの暮らしは良くならない。だったら兄様と少しの間一緒に耐えてもらおうって。そのためにも、私はしっかりと仕事をしないとって」
そう言い切った翠玉の表情は、晴々としていて、どうやら心の中に蟠っていた物が整理できたのだろう。
不意に彼女の視線が、部屋の一角に置かれた古い剣に向く。
「李蒙の思いも私の腕には乗っているしね」
翠玉の言葉にしっかりと頷く。
李蒙は今回湖紅で泰誠と留守を守ってくれている。
最愛の人が生きて、死んだ場所だ。本当は彼も、来たかっただろう。
代わりに自身が30年間使い続けた剣を、翠玉に託したのだ。「自分の代わりに、自身の半身として愛用してきたこの剣で彼女の仇を打って欲しい。そして彼女の墓前に捧げて欲しい」と。
30年にも及ぶ彼の長い失恋に終止符を打つ意味もあるのかもしれない。
翠玉はここに来るまでに、随分とこの剣を握り込んで手に馴染ませてきた。
明日はこれを持って、挑むつもりなのだ。
恐らく逸るなと言っても難しいだろう。
その周りを固めて、彼女に危険が及ばないように見守るのが、自分の役目だと思っている。
翠玉が囚われている過去から踏み出せるように。
湖紅国の劉翠玉としてこの先、前だけを向いて歩けるように。
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