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5章
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しおりを挟む「新聞の報道を受けて殿下も急ぎで戻っておりますが、恐らく明日になりますので、代わりに私が先んじてまいりました」
ユーリ様とジフロードと、手にしていた仕事を投げ出して、大急ぎで彼女が案内された応接の間に向かえば、そこには新聞で見た通りの凛々しく整った顔つきの美しい女性が、シャンと背筋を伸ばして待っていた。
突然の訪問を詫びた彼女は、やはり流石と言うべきかとても落ち着いて堂々とした様子で、自身の訪問の経緯を話す。
どうやら彼らのいた北東部は僻地という事もあり、王都の情報は数日遅れで入ってくるので、この新聞記事の騒ぎに気づいたのもつい先日らしい。何ならユーリ様がジェイドに送った説明を求めるお手紙の方がわずかばかり、早く届いたらしい。
王都での混乱を把握したジェイドは視察の段取りを変更して、すでに帰路に着いているもののそれでも現地で済ませなければならない事はそれなりにあって、その様子をもどかしく思ったシェリン様が一足早く、お戻りになったという事らしい。
「まずはご挨拶もせぬまま、先に世間に話が広がってしまいまして大変申し訳ありません」
深々と頭を下げた彼女の艶のあるハチミツ色の髪がキラキラと、昼間の日差しを浴びて輝く。
伯爵令嬢ではあるものの、騎士職についてるためか、その顔には化粧っ気がない。
それなのに、くっきりとした目元や、形の良い唇、血色の良い肌はきちんと整っていて、素材の美しさが溢れ出ている。
途端に朝から侍女達にあれやと世話を焼かれて、決して濃いわけではない化粧やらヘアメイクなどで作り上げられている自分が恥ずかしいような気さえしてきた。
「そう、言われる、、、と言うことは、記事の件は真実と言うことかな?」
最初に言葉を発したのはユーリ様で、彼女の言葉にシェリンはしっかり頷く。
「大筋は記事との通りかと、、、本日のものにはまだ、目が通せておりませんが。」
やはり、彼女がジェイドの婚約者として話が動いているのは間違いないらしい。
胸の奥を掴まれたような感覚に、息苦しさを感じながらも、何とか彼女から視線を逸らすこと無く頷くしか出来なかった。
「我々の事はどの程度理解されているんだい?」
低く確認するように聞くユーリ様は。どこか彼女の事を警戒されているご様子で、彼女がどの程度の情報を握っているかを知った上で話を進める事を考えているらしい。
ユーリ様のお言葉に、シェリン嬢はやはりキリリとしたお顔つきのまま頷いた。
「陛下が幼い頃に患った熱病のせいでお子を望めないお身体になられている事、代わりにジェラルド殿下が王妃陛下との間にお子をもうけなければならない状況であると言う事は、聞かされております。」
ジェイドが何を考えているのか、ユーリ様の性別に関係する話はされていないらしい。
彼女の答えに、ユーリ様は深く頷かれて
「なるほど、、、アナタはそれを聞いて、それでもいいと思われた?」
ユーリ様の問いに彼女が僅かに頬を緩めた。
「はい。私は本来結婚などする気などは毛頭とありませんでしたが、殿下の熱心な説得に負けました」
ジェイドが熱心に説得をする?では最初に結婚を望んだのはジェイドという事で、彼女から声をかけたわけでもなく、ジェイドが選んだ。
彼は、何を考えて彼女を巻き込もうと思ったのだろうか?
「とにかく、そう言う事ならば、ここでこの話をこれ以上続けることはできないな?彼女を上にご案内するが、アルマいいかい?」
ここは、王宮の中でも比較的多くの者が出入りできる場所にある応接室で、、、外部から聞き耳を立てられている事を考えると、安全性が、保たれている私達のリビングルームの方がいいと、ユーリ様は判断したらしい。
それについては私も賛成なので、同意して頷けば「では」と言ってユーリ様とジフロードが椅子から立ち上がる。
私もシェリン嬢もそれに倣って立ち上がると、そのまま応接室を後にする。
立ち上がってみれば、やはり彼女は背が高くてそしてスタイルも良かった。
3人で足早に上に上がると、先ぶれがあったのだろう。
侍女達がお茶の用意を済ませており、私たちの入室を確認するとすぐに礼をとって出て行った。
そうして、それぞれソファに腰掛ける。話の続きを聞きたいけれど、、聞きたくない、そんな思いで両手を握る。
隣に座るユーリ様が「さて、、、」とどこから話を聞こうかと思案したところで、バタバタと部屋の外が騒がしくなった。
なにごとだろうか?と外を伺おうとジフロードが腰を浮かせだところで、リビングルームの扉が開いた。
この扉をノックも無しに、不躾に開ける人間はそうそういなくて、、、そして今その殆どの人間がこの部屋にいる。
そう、一人を除いては。
その一人、、ジェイドが扉の前で肩で息をしながら立っていた。
その髪は、馬をかけてきたらしく乱れていて、外す暇もなかったのか、所々葉っぱや塵のついた外套のままで、、、
とにかく急いで戻ってきた、、、そんな感じだ。
「あら、殿下。早かったですね」
唖然とする私達をよそにシェリン嬢が意外そうにつぶやいて、「もしかして夜も駆けてきたのですか?」と問う。
その言葉に、戸口に立ったまま、それでも扉をきちんと閉じたジェイドは眉を寄せる。
「勝手をするなとあれほど、言っただろ!なぜ俺を待てなかった!」
そう言って、シェリン嬢に怒りながら、ズカズカとこちらまでやって来たジェイドに、当のシェリン嬢は肩を竦めて
「でもタイミングが最悪でしょう?なるべく早くと思ったのです。」
悪びれた様子もなく言い放った。
その言葉に額に手を当てたジェイドは
「それはそうだが、お前がきちんと説明できるとも思えん」
とため息まじりに言うが
「それは心外です。」
と、とても冷静な声で返されていた。
なんとなく、これだけの会話でこの二人の関係性がわかるような気がしてしまう。
彼女とのやりとりに、疲れた様子でもう一度深くため息を吐いたジェイドは、ジフロードが持ってきた椅子に座ると、ユーリ様と私をしっかり見つめて。
「とにかく俺から、ゆっくり説明をさせてくれ」
そう言ってようやく外套を脱いだ。
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