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5章
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部屋に飛び込んでしまったエリスを追って、私と先王陛下が居室に入る。
すぐに目の前に呆然と立つエリスの姿があって、先王陛下が彼女の肩を掴む。
「へ、、陛下っ!陛下はどちらなの!?」
騒ぐ彼女の視線の先には、本来なら陛下がいると思われていたベッドがあるものの、それは、大人が寝られるような大きさではなくて、、、。
「残念ながら、ここはもうすぐ産まれる子どもの部屋よ!」
冷たく私が言うのと、先王陛下が彼女を居室の外に引き摺り出すのは同時で、、、。
ホールの床にへたり込んだ彼女と、呆然としているベルベルト卿を一瞥した先王陛下が
「侵入者と変わらん、捕らえろ!」
容赦なく厳しい声で近衛に指示を出す。
弾かれたように近衛達が彼らを取り囲むと
「そんな!私はただユリウス陛下に一目お会いしたくて!ただそれだけなんです!」
エリスが泣き叫び
「一目くらい合わせてもらってもいいではないですか!我々は王太子妃の父と姉ですぞ!えぇい!気安く触れるな!」
ベルベルト卿も見苦しく抵抗を示して怒鳴り散らしている。
なんとも見苦しい光景。
「慣例を破って王の私室まで踏み込むなんて、謀反と思われても仕方がない事だ。何のためにこの慣例があるのか理解も出来ていないと見える!とてもではないが、王太子妃の家の者がやることはおもえないぞ!」
なおも厳しい先王陛下の言葉が飛ぶが。
「そんな、私は陛下をお慰めしようと」
まだあきらめないエリスは涙ながらにどうやら先王陛下を説得しようとしているらしい。
しかしその言葉がどうやら先王陛下の逆鱗に触れた。
「そのような余計なことを誰に頼まれた!!陛下には、アルメリアーナ妃がいるだろう!」
「ですが王妃陛下はご妊娠中です!現にアナタ様もそうだったではございませんか!?」
ベルベルト卿が言い訳のように声を上げる。
年齢的にも先王陛下と同じ歳くらいの彼は、きっと先王陛下の時代の公妃問題の事も知っているのだろう。
しかし、それは地雷ではないだろうか?当時の状況を少しばかりしか聞いていない私でも、「あ!それ言っちゃう?」と思ったくらいだ。
しかしそんな事まで考えられるほど今のベルベルト卿に余裕はないらしい。
案の定、先王陛下の怒りの矛先は、娘のエリスから、ベルベルト卿に向いた。
そして
「そうさせたのは誰だ!」
先程とは違う、少し抑えた、、、しかし明確な怒気を含んだ声が、ホールに響く。
「私とて、公妃など取りたくは無かった!しかしそれをあえてさせたのはお前達革新派ではないのか!?妊娠中の大切な時期に、公妃を娶る事になって、エリーはずいぶんと辛い思いをしたのだ!
それはユーリがよく知っている!息子は母のような苦しみを妻にはさせるつもりはないのだよ!
私の時に上手く行ったからとて、それが通用すると思うな!」
悔しさなのだろうか、後悔なのだろうか、、、先王陛下の手は小さく震えている。
きっと20年以上、彼の中ではその時の事がずっと蟠って残っていたのだろう。
「連れて行け!」
もうこれ以上言うことはないと、彼らに背を向けた先王陛下について、私も階段を登る。
ここに来て自分達の行動のまずさに気がついたのか、はたまた拘束されると言う事実だけにショックを受けているのか、泣き喚くエリスと、許しを乞う侯爵の声が遠のいて行った。
「すまんね私が前例を作ってしまったばかりに」
階段を登り切ると、ゆっくりと息を吐いた先王陛下に、背中越しに詫びられる。
どんなお顔をしているのかは分からない。
「いえ、、、人の心を考えれば、普通ならば分かることが分かっていない彼等が悲しい人達なのです」
「なるほど、、、人の心か、、、」
そう自嘲気味に言った彼は、そのままホールを横切って、一つの扉の前でノックをすると、そのまま入室した。
「なんだか、、、随分と騒がしかったね」
リビングルームではユーリ様がソファに座って書類をめくっていた。
私達もソファに腰掛けると、アイシャがお茶を用意してくれた。
疲れたようにソファに背を預けた先王陛下が事の顛末を話すと、ユーリ様はなるほどと肩をすくめた。
「アイシャが機転を効かせてくれて、別の部屋から出てくれて良かったよ。もしこんな姿を彼らに見られたら終わりだからね。」
そう言ってお茶を出してきたアイシャに目配せする。
当のアイシャは「このくらいの事はなんでもございません」とニコリと笑った。
アイシャは幼い頃から私についているせいか、同じ王妃候補だった御令嬢達の事はある程度理解している。きっと相手がエリスだと知っていたからこそ、彼女が強行手段に出る事も予見できたのだ。おかげで今回は本当に助かった。
「しかし、相手はベルベルト卿かぁ。アースランの手前どのような扱いにすべきか迷う所だね」
書類を傍に置いて、お茶を飲んだユーリ様が、悩ましげに唸る。
ベルベルト卿の次女は王太子妃であるチェルシーだ。こちらの一存で処断するにはいささか扱いに困る人物である。
しかし。国王の居室に許可なく侵入を計るなど、言語道断な行動であるのも事実。
少し面倒な事になってきたなぁと、3人で息を吐いた。
すぐに目の前に呆然と立つエリスの姿があって、先王陛下が彼女の肩を掴む。
「へ、、陛下っ!陛下はどちらなの!?」
騒ぐ彼女の視線の先には、本来なら陛下がいると思われていたベッドがあるものの、それは、大人が寝られるような大きさではなくて、、、。
「残念ながら、ここはもうすぐ産まれる子どもの部屋よ!」
冷たく私が言うのと、先王陛下が彼女を居室の外に引き摺り出すのは同時で、、、。
ホールの床にへたり込んだ彼女と、呆然としているベルベルト卿を一瞥した先王陛下が
「侵入者と変わらん、捕らえろ!」
容赦なく厳しい声で近衛に指示を出す。
弾かれたように近衛達が彼らを取り囲むと
「そんな!私はただユリウス陛下に一目お会いしたくて!ただそれだけなんです!」
エリスが泣き叫び
「一目くらい合わせてもらってもいいではないですか!我々は王太子妃の父と姉ですぞ!えぇい!気安く触れるな!」
ベルベルト卿も見苦しく抵抗を示して怒鳴り散らしている。
なんとも見苦しい光景。
「慣例を破って王の私室まで踏み込むなんて、謀反と思われても仕方がない事だ。何のためにこの慣例があるのか理解も出来ていないと見える!とてもではないが、王太子妃の家の者がやることはおもえないぞ!」
なおも厳しい先王陛下の言葉が飛ぶが。
「そんな、私は陛下をお慰めしようと」
まだあきらめないエリスは涙ながらにどうやら先王陛下を説得しようとしているらしい。
しかしその言葉がどうやら先王陛下の逆鱗に触れた。
「そのような余計なことを誰に頼まれた!!陛下には、アルメリアーナ妃がいるだろう!」
「ですが王妃陛下はご妊娠中です!現にアナタ様もそうだったではございませんか!?」
ベルベルト卿が言い訳のように声を上げる。
年齢的にも先王陛下と同じ歳くらいの彼は、きっと先王陛下の時代の公妃問題の事も知っているのだろう。
しかし、それは地雷ではないだろうか?当時の状況を少しばかりしか聞いていない私でも、「あ!それ言っちゃう?」と思ったくらいだ。
しかしそんな事まで考えられるほど今のベルベルト卿に余裕はないらしい。
案の定、先王陛下の怒りの矛先は、娘のエリスから、ベルベルト卿に向いた。
そして
「そうさせたのは誰だ!」
先程とは違う、少し抑えた、、、しかし明確な怒気を含んだ声が、ホールに響く。
「私とて、公妃など取りたくは無かった!しかしそれをあえてさせたのはお前達革新派ではないのか!?妊娠中の大切な時期に、公妃を娶る事になって、エリーはずいぶんと辛い思いをしたのだ!
それはユーリがよく知っている!息子は母のような苦しみを妻にはさせるつもりはないのだよ!
私の時に上手く行ったからとて、それが通用すると思うな!」
悔しさなのだろうか、後悔なのだろうか、、、先王陛下の手は小さく震えている。
きっと20年以上、彼の中ではその時の事がずっと蟠って残っていたのだろう。
「連れて行け!」
もうこれ以上言うことはないと、彼らに背を向けた先王陛下について、私も階段を登る。
ここに来て自分達の行動のまずさに気がついたのか、はたまた拘束されると言う事実だけにショックを受けているのか、泣き喚くエリスと、許しを乞う侯爵の声が遠のいて行った。
「すまんね私が前例を作ってしまったばかりに」
階段を登り切ると、ゆっくりと息を吐いた先王陛下に、背中越しに詫びられる。
どんなお顔をしているのかは分からない。
「いえ、、、人の心を考えれば、普通ならば分かることが分かっていない彼等が悲しい人達なのです」
「なるほど、、、人の心か、、、」
そう自嘲気味に言った彼は、そのままホールを横切って、一つの扉の前でノックをすると、そのまま入室した。
「なんだか、、、随分と騒がしかったね」
リビングルームではユーリ様がソファに座って書類をめくっていた。
私達もソファに腰掛けると、アイシャがお茶を用意してくれた。
疲れたようにソファに背を預けた先王陛下が事の顛末を話すと、ユーリ様はなるほどと肩をすくめた。
「アイシャが機転を効かせてくれて、別の部屋から出てくれて良かったよ。もしこんな姿を彼らに見られたら終わりだからね。」
そう言ってお茶を出してきたアイシャに目配せする。
当のアイシャは「このくらいの事はなんでもございません」とニコリと笑った。
アイシャは幼い頃から私についているせいか、同じ王妃候補だった御令嬢達の事はある程度理解している。きっと相手がエリスだと知っていたからこそ、彼女が強行手段に出る事も予見できたのだ。おかげで今回は本当に助かった。
「しかし、相手はベルベルト卿かぁ。アースランの手前どのような扱いにすべきか迷う所だね」
書類を傍に置いて、お茶を飲んだユーリ様が、悩ましげに唸る。
ベルベルト卿の次女は王太子妃であるチェルシーだ。こちらの一存で処断するにはいささか扱いに困る人物である。
しかし。国王の居室に許可なく侵入を計るなど、言語道断な行動であるのも事実。
少し面倒な事になってきたなぁと、3人で息を吐いた。
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