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2章

55 攻守逆転②

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「まぁ、霜苓様! どうなさったのです? もしや正体がばれてしまったのですか!?」

 慌てて居室に駆け込めば、珠樹の寝台の横に腰掛けていた蘭玉が、立ち上がって駆け寄って来るので、霜苓はブンブンと首を振って、その場にズルリとへたりこんだ。

大した距離を走ってはいないのに、呼吸が乱れているのが分かって、霜苓は胸のうちで「なんなのだこれは!?」と自問する。

「いや……それは無事に済んだ。ただ少し……陵瑜がおかしくて」

「殿下が……でございますか?」

 両手で頬を覆い、霜苓は大きく息を吐く。
 どういう説明をしているのかよくわからないが、蘭玉は霜苓と陵瑜の、この夫婦関係が任務として結ばれている事は知らされていないらしいのだ。
 そんな彼女に、「陵瑜が、周兄妹の前で、随分と霜苓に惚れているような言葉を吐いて、しかもそれが演技ではないと言うのだ」と話したとしても「妃にするのだから、それくらいの事を言うのは当然では?」と今更そんな事に動揺している霜苓を不審に思うだろう。

 説明出来ずに言葉を失う霜苓を、彼女の長いまつげで縁取られた大きな瞳がじっと見つめる。数拍して、その瞳が少しずつ輝いて彼女の顔が彼女の兄を彷彿するように綻んで行くのを見て、霜苓は徐々に嫌な予感を覚える。

「さては殿下、春芽を撃退するために、霜苓様への愛を散々並べ立てましたわね! 普段から私共の前では随分霜苓様が愛しくて仕方がないと仰っているのに、御本人にはそんな素振りを見せないが不思議なくらいでしたのに……ふふふっ真っ赤になってしまわれてお可愛らしい!」


「っ! 言っているの!? 蘭玉達の前で!?」

「えぇ、それはもう! 霜苓様がいかに素晴らしく、姫様がいかに、可愛らしいかを嬉しそうにお話になりますわ!」
 蘭玉の言葉に、息を飲む。
 誰もが憧れる皇太子であり、妻になる事を望む者も多く、きっと経験も豊かであろう陵瑜が、愛など知る事のない霜苓を戯れに揶揄ったのだろう……そう自分に言い聞かせて、心を落ち着けようとしていたのだ。
 そんな事を聞いてしまったら、落ち着くどころか、ますます混乱してしまう。

 先ほど陵瑜に撫でられた頬や唇がまた熱を持ち出した。




 
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