目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO

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23① ー夢ー

 暗闇の中、ぽつねんとフィオナはそこにいた。
 前も後ろも真っ暗で、何も見えない。そして既視感を感じた。

(前と同じ、夢……?)
 
 セレスティーヌがフィオナを呼んでいるのだろうか。勝手にセレスティーヌの体を乗っ取り、彼女のふりをして生活をしているからと。

「セレスティーヌ、いるの!?」

 大きく叫んでも、声が響かない。自分の声だけが耳に届いて、シンとした何もない空間に閉じ込められたような気がする。

「私に用があるんじゃないの!?」

 もう一度叫んでみるが返る声はない。暗闇が濃く何も見えない空間にいると、夢だと分かっていても怖さがある。

 その時、ぞわりと悪寒を感じた。振り向いた先、何もなかった場所に座る者がいる。宙に浮いているのか、何かに座っているのか分からないが、片膝を抱えるようにしているのが見えた。
 何も見えないほどの暗闇なのに、そこに人がいることだけははっきりと分かる。

 首までのうねった癖毛の黒髪の男で、青白く見えるほどの肌の白さを持っていた。
 整った目鼻立ちは人間離れした美しさだったが、こちらを見る瞳は柔らかな青味を帯びた銀色で、その色にフィオナは後退さる。
 どこかで見たような顔。けれど、銀の瞳をした者など思い出せない。

 男がニヤリと口角を上げると、口端に鋭い牙が見えたような気がした。

『調子はどうかな。フィオナ?』

 低音の声音が耳に届く。まるで耳元で囁かれているように内耳に響いた。

「……どちら様ですか?」

 言い返したはいいが、冷や汗が流れそうになる。
 男はクスリと笑うが、銀色の瞳がどうにも笑っているように見えない。

『君は僕を覚えていかもしれないけれど、僕は君のことをよく知っているよ』
「どこかでお会いしたかしら?」

 フィオナは後退りしたい気持ちになりながら、問いかけた。目を逸らしたらいけないような気がして、男の姿をじっと見つめる。

『……会っているような。ないようなだね。それよりも、その体はどうかな? 丁度あいた体だけれども、君には合っていると思うんだ』
「言っている意味が分からないのだけれど?」
『分からない? その体を使っているのに?』

 男はふっと消えると、一瞬でフィオナの背後に現れる。宙に浮いたまま逆さになって、フィオナの顔の前にその顔を見せた。恐怖以外の何者でもない。恐ろしさに震えることもできず、ただ立ち尽くす。

『哀れな魂にその体を与えたのに、本人はご不満かな?』

 そう言ってまたパッと姿を消すと、再び宙に浮いて足を組む。

「……セレスティーヌはどこにいるの?」
『そこにいるよ』

 瞬間、フィオナの側で啜り泣く女性が現れた。涙を流し、こちらを見上げる。前に見たセレスティーヌだ。

『その体は私のものよ。どうして私がそこにいるの。私を返して』

 か細い声で嘆きながら、セレスティーヌは恨み言を口にする。その様を、男は眇めた目で見ていた。

「私も好きであなたの体を乗っ取ったわけじゃないわ。あなたは一体何をしたの!?」
『クラウディオ様の心がほしかっただけよ。あの方に見てほしかっただけよ。こちらを見つめてほしかっただけよ』

 セレスティーヌは啜り泣くが、一体何をしたらそうなったのか教えてくれない。
 男なら何か知っているはずだ。そちらに向いたら、またも瞬時に移動して、遠くでふわりと体を浮かせた。

『仕方がないよ。魂が離れてしまったのだから。けれど、君は運が良い。彼女の体がなければ死んでしまうところだった。僕に感謝すると良いよ』
「感謝? 一体何を感謝しろというの!?」

『体があって、魂があった。丁度良かったんだよ。僕を呼ぶ者がいるとは思わなかったけれど、できれば女ではなく男にしてほしいからね。ああ、そろそろ戻るといい。あまり長くいると、君が疲れてしまうから』

 その瞬間、体が飛ばされるような感覚を受けた。男の姿が遠退き、光に向かった気がした。

『僕の名前は、ヴァルラムだよ。また会おう』
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