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第三話
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第三話
「うぅ……気持ち悪い……。」
「ちょ、リース大丈夫?甲板に出て風に当たったほうがいいんじゃない?」
青い顔をしてえづいている侍女の背中を擦りながら、私は小さな窓から外を眺める。そこにはどこまでも青い海が広がっていた。
「…リコリス様は大丈夫なんですか…?」
長年一緒に過ごしてきたリースのこんな弱々しい顔は初めて見る。それさえも私はちょっと嬉しかった。
「私は大丈夫みたい。あの屋敷を出られたのが嬉しくてたまらなくて。」
私の言葉にリースは小さく微笑んだ。
「うぅ……私はやっぱりダメみたいです…。」
「リース!しっかり!あとちょっとよ!」
そのとき、部屋のドアを小さくノックする音がした。
「ユノでございます。」
やってきたのは、シュウ将軍の側近であるユノさんだ。あの日将軍の隣にいた人。赤茶色の長い髪を束ねた彼の笑った口元からのぞく白い歯が眩しい。
「船酔いに効く薬湯をお持ちしました。もう少しで到着する予定ですので…。」
「ありがとうございます!リース、飲めそう?」
匂いからしてものすごく苦そうな薬を少しずつ飲ませるとリースをベッドに寝かせた。
「リコリス様はなんともないのですか?」
「はい、私は平気みたいです。」
それは良かったと笑うユノさんは私と目が合うと顔を真っ赤にして俯いた。
「も、も、申し訳ございません。じょ、女性の部屋に入ってしまい…。シュウ様にも怒られてしまいますので、失礼いたします!」
「あ、待って、シュウ様にはいつ…?」
「あちらに到着してからお会いになるそうですので!」
すごい早さでユノさんは部屋を出ていった。その間もずっと顔は真っ赤なまま。
「…本当なのかなぁ。」
謁見の間で私に求婚したシュウ将軍と私はあの日から一度も会っていないのだ。
* * *
「リコリス…様。どうか、俺の妻になっていただきたい。」
私の前に跪いた将軍を見て、最初に声をあげたのは姉のリリアナだった。
「…え……?いま…なんと仰っいまして?そのブスと?」
目を見開き、驚愕の表情を浮かべるリリアナをシュウ将軍は睨みつけた。その眼を見て姉は震え上がった。
「ユノ…そいつをつまみ出せ。」
「かしこまりました。」
ドラガニアの兵士たちに腕を掴まれ、リリアナは連れ出されていった。そのまま他の令嬢たちも部屋を出ていく。あっという間に広い部屋には私と将軍様、その付き人、ユノさん?だけになってしまった。
「あの…将軍様?」
「シュウ…。」
「えっ…?」
「シュウだ。」
将軍様改めシュウ様に見おろされている私はまさに蛇に睨まれた蛙状態。顔はたしかに格好いいけど、その目付きの鋭さはやっぱり怖い。
身長差のせいで私はものすごく首をあげないと目も合わせられない。
「…シュウ様。私はこんな見た目で、多分この国で一番の醜女です。」
するとシュウ様は不思議そうに首を傾げた。
「シュウ様はこの国で一番美しい娘を探しておられるはずです。私には当てはまりません。」
その後も私は自分がいかに醜女として扱われてきたか、家族から忌み嫌われているかを話した。しかし、イマイチ伝わってない感じがする。首を傾げるシュウ様の後ろでお付きの人が苦い顔をしていた。
「…公爵ともあろう者が、実の娘を虐げるとは。この国はつくづく腐っているようですね。いかがされますか将軍?」
「……あとで…殺そう…。」
顔色も変えずそんなことを話されるシュウ様はやはり怖い人なのかな。
「それは…どうかおやめくださいませ。どれだけ虐げられていても…家族なのです。どうか……。」
「そうか…じゃあやめよう…。」
なんだろう…。怖い人なんだけど、時々ものすごく子どもっぽい気がする。
「美しい方は心もお美しいのですね。」
ユノさんの言葉に、うんうんと頷くシュウ様はやはり私の話が通じていないみたいだ。
「あの…私はそのような美しい人間ではありません。だから、結婚相手は他の方を探されたほうが…。」
「……俺との、結婚は嫌だ、と…?」
「いいえ!嫌ではないのです。ただ、私は…。」
嫌ではないと言った瞬間、場の空気が変わった気がした。
「…そ、れは承諾ととっても…?」
「?はい、もちろん。」
こんな状況で私には拒否権なんてないもの。そう思って見上げたシュウ様の顔。ずっと無表情に見えていたその顔がふわりと柔らかく笑った。
「…決まりだ…。」
「おめでとうございます!シュウ様!」
そのままトントン拍子に話が進み、たった一週間で私はこうして船に揺られている。
「なのに、会えないってどういうことなの?」
ふと、窓の外の景色が変わった。
「あれが…ドラガニア…?」
青い海の先に現れた大きな大陸。あれがこれから私が暮らす国。
「本当に…わたしで良かったのかなぁ。」
私がどうしてそんなに美しいと言われるのか。それはどうやら私がドラガニア皇国の伝説に登場する天女の姿にそっくりだかららしい。そのおかげでドラガニアでは私の容姿を蔑まれることはない…らしいけど。
「そう言われても全然会ってくれないし、簡単に信じられないよ。」
そんな私の不安をよそに、船はどんどん陸地に近づいていった。
「うぅ……気持ち悪い……。」
「ちょ、リース大丈夫?甲板に出て風に当たったほうがいいんじゃない?」
青い顔をしてえづいている侍女の背中を擦りながら、私は小さな窓から外を眺める。そこにはどこまでも青い海が広がっていた。
「…リコリス様は大丈夫なんですか…?」
長年一緒に過ごしてきたリースのこんな弱々しい顔は初めて見る。それさえも私はちょっと嬉しかった。
「私は大丈夫みたい。あの屋敷を出られたのが嬉しくてたまらなくて。」
私の言葉にリースは小さく微笑んだ。
「うぅ……私はやっぱりダメみたいです…。」
「リース!しっかり!あとちょっとよ!」
そのとき、部屋のドアを小さくノックする音がした。
「ユノでございます。」
やってきたのは、シュウ将軍の側近であるユノさんだ。あの日将軍の隣にいた人。赤茶色の長い髪を束ねた彼の笑った口元からのぞく白い歯が眩しい。
「船酔いに効く薬湯をお持ちしました。もう少しで到着する予定ですので…。」
「ありがとうございます!リース、飲めそう?」
匂いからしてものすごく苦そうな薬を少しずつ飲ませるとリースをベッドに寝かせた。
「リコリス様はなんともないのですか?」
「はい、私は平気みたいです。」
それは良かったと笑うユノさんは私と目が合うと顔を真っ赤にして俯いた。
「も、も、申し訳ございません。じょ、女性の部屋に入ってしまい…。シュウ様にも怒られてしまいますので、失礼いたします!」
「あ、待って、シュウ様にはいつ…?」
「あちらに到着してからお会いになるそうですので!」
すごい早さでユノさんは部屋を出ていった。その間もずっと顔は真っ赤なまま。
「…本当なのかなぁ。」
謁見の間で私に求婚したシュウ将軍と私はあの日から一度も会っていないのだ。
* * *
「リコリス…様。どうか、俺の妻になっていただきたい。」
私の前に跪いた将軍を見て、最初に声をあげたのは姉のリリアナだった。
「…え……?いま…なんと仰っいまして?そのブスと?」
目を見開き、驚愕の表情を浮かべるリリアナをシュウ将軍は睨みつけた。その眼を見て姉は震え上がった。
「ユノ…そいつをつまみ出せ。」
「かしこまりました。」
ドラガニアの兵士たちに腕を掴まれ、リリアナは連れ出されていった。そのまま他の令嬢たちも部屋を出ていく。あっという間に広い部屋には私と将軍様、その付き人、ユノさん?だけになってしまった。
「あの…将軍様?」
「シュウ…。」
「えっ…?」
「シュウだ。」
将軍様改めシュウ様に見おろされている私はまさに蛇に睨まれた蛙状態。顔はたしかに格好いいけど、その目付きの鋭さはやっぱり怖い。
身長差のせいで私はものすごく首をあげないと目も合わせられない。
「…シュウ様。私はこんな見た目で、多分この国で一番の醜女です。」
するとシュウ様は不思議そうに首を傾げた。
「シュウ様はこの国で一番美しい娘を探しておられるはずです。私には当てはまりません。」
その後も私は自分がいかに醜女として扱われてきたか、家族から忌み嫌われているかを話した。しかし、イマイチ伝わってない感じがする。首を傾げるシュウ様の後ろでお付きの人が苦い顔をしていた。
「…公爵ともあろう者が、実の娘を虐げるとは。この国はつくづく腐っているようですね。いかがされますか将軍?」
「……あとで…殺そう…。」
顔色も変えずそんなことを話されるシュウ様はやはり怖い人なのかな。
「それは…どうかおやめくださいませ。どれだけ虐げられていても…家族なのです。どうか……。」
「そうか…じゃあやめよう…。」
なんだろう…。怖い人なんだけど、時々ものすごく子どもっぽい気がする。
「美しい方は心もお美しいのですね。」
ユノさんの言葉に、うんうんと頷くシュウ様はやはり私の話が通じていないみたいだ。
「あの…私はそのような美しい人間ではありません。だから、結婚相手は他の方を探されたほうが…。」
「……俺との、結婚は嫌だ、と…?」
「いいえ!嫌ではないのです。ただ、私は…。」
嫌ではないと言った瞬間、場の空気が変わった気がした。
「…そ、れは承諾ととっても…?」
「?はい、もちろん。」
こんな状況で私には拒否権なんてないもの。そう思って見上げたシュウ様の顔。ずっと無表情に見えていたその顔がふわりと柔らかく笑った。
「…決まりだ…。」
「おめでとうございます!シュウ様!」
そのままトントン拍子に話が進み、たった一週間で私はこうして船に揺られている。
「なのに、会えないってどういうことなの?」
ふと、窓の外の景色が変わった。
「あれが…ドラガニア…?」
青い海の先に現れた大きな大陸。あれがこれから私が暮らす国。
「本当に…わたしで良かったのかなぁ。」
私がどうしてそんなに美しいと言われるのか。それはどうやら私がドラガニア皇国の伝説に登場する天女の姿にそっくりだかららしい。そのおかげでドラガニアでは私の容姿を蔑まれることはない…らしいけど。
「そう言われても全然会ってくれないし、簡単に信じられないよ。」
そんな私の不安をよそに、船はどんどん陸地に近づいていった。
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