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第六話
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第六話
「……お、落ち着かないよぉ…。」
一人で横になるには広すぎるベッド。そこには驚くほど繊細なレースの天蓋が垂れ下がっている。
壁には美しい花模様が描かれ、鏡台や文机などの家具には豪華な彫刻が施されている。櫛や水くみ用の桶まで触れる物は全て超高級品。
そんなものに縁のなかった私にもわかってしまうほど、部屋は豪華絢爛な品々で溢れていた。
「お嬢様…いつまでそんなところにうずくまっているおつもりですか?」
部屋の隅。なんのために使う物なのか分からない大きな壺の影に体育座りをした私を見て侍女のリースがため息をつく。
「だって…こんな部屋で寛げるわけないじゃない…。どこを見ても高級品ばっかりだし、もし何かに触って壊したりしちゃったら…私には弁償できないわ。」
「将軍閣下はお嬢様に弁償なんてさせませんよ。それに寛げないからといって、部屋の隅にうずくまることはないでしょう。リコリス様はこの離宮の主なんですから。」
ここはドラガニア皇国首都。その中央にそびえるドラガニア城…から少し離れた場所にある離宮呼ばれる屋敷。
私が今まで暮らしていた別邸とは比べ物にならないほどの大豪邸。中華風な屋敷で平屋作りだが、中庭には小さな池がありそれを取り囲むように多くの部屋が並んでいる。一回部屋から出たら絶対に戻ってこられる自信がない。
この離宮はその昔、皇族の別荘として作られたものらしいが今は誰も使っていないからと私が住むために整えられたそうだ。
「主なんて、無理だよう…。」
「ご成婚まで半年しかないんですから、泣き言いわずに頑張ってくださいませ。」
私の18歳の誕生日まであと半年。成人になったら私はすぐにシュウ様と結婚することが先日の謁見で決まった。それまで私はこの国の作法や歴史を学び、淑女教育を受け、そしてこの離宮の管理をしなくてはならない。
「絶対…無理………。」
「メイドになるための勉強ではなく、淑女教育をやっておくべきでしたね。」
* * *
次の日の朝、落ち着かない部屋で浅い眠りから覚めた私は早朝からガヤガヤと人の気配がすることに気がついた。
「なに……?」
いまこの離宮には私とリースしかいない。信用できる者を使用人として選ぶために時間がかかると言われていた。
こんなに朝早くから誰が…?
手早く身支度を整えると玄関に向かった。この国のドレスはチャイナドレス風で一人でも着るのが楽だ。
広い屋敷に迷いそうになりながらなんとか声のするほうにたどり着くと、リースが立ち尽くしているのが見えた。
「リース…?どうかしたの?」
振り返った彼女は驚きの表情を浮かべていた。
「お嬢様…!ご覧になってください!」
「え?」
恐る恐る離宮の玄関にあたる広間を見ると、そこにはところ狭しと大小様様な箱が並べられていた。
「まだあと馬車1台分あるんですが、こちらに並べてしまってよろしいでしょうか?」
騎士服を纏った大柄な男性たちが次々と箱を運び込んでくる。赤い箱、青い箱、豪華な刺繍が施された箱はこの国の紋章入りだ。
「…これ何?」
「赤い箱は将軍閣下からの結納品です。金の紋章入りの箱はイアン殿下からの贈り物。その他はドラガニアの貴族たちからのお祝い品だそうです……。」
玄関と呼ぶにはあまりに広い場所があっという間に箱で埋め尽くされた。
「これで全部です。他にも必要なものがありましたら、なんなりとお申し付けください。」
隊長と思われる人は、私の父親ほど年上の人だ。
「朝早くからありがとうございます。」
騎士の方々に頭を下げると、皆慌てたように膝をつき胸に手を当てた。
「もったいないお言葉です。将軍閣下の奥方になられる御方のためであれば、我々はどこにでも馳せ参じる所存でございます。」
その言葉からはシュウ様への純粋な尊敬の気持ちが感じられ、自然と笑顔になった。騎士たちの誰も私を蔑むように見ることも気味悪がることもない。それもまた私にはとても嬉しいことだった。
「それでも、私のためにしてくださったことにお礼を言うのは当たり前のことですから。本当にありがとうございました。」
すると、膝をついた騎士たちの顔がみるみる赤くなった。
「は、あ、いえ…、こ、こんな美しい方のお力になれるのであれば、我々は幸せであります!」
……へ?
「本日、午後には離宮付きとなる侍女候補が参ります。好きなだけ雇って構わないと閣下から言付けられておりますのでどうぞお好きな者をお選びください。それでは!し、失礼いたします!」
呆気にとられたまま、騎士たちは早足で立ち去っていった。
「騎士様たちは交代で離宮の警備にあたってくださるそうです。本当に何から何まで公爵家とは違いますね。」
私はリースの言葉を上の空で聞いていた。えっいま私のことを美しいって言ったの?
「お嬢様?この贈り物たちはいかがいたしますか?」
「えっ、あ、そうね。とりあえず朝食をとってから中身を確認しましょう。」
「かしこまりました。」
ドラガニアに到着してまだ2日しか経っていないのに、私は何度美しいと言われたんだろう。
「本当に…夢みたいだわ。」
「……お、落ち着かないよぉ…。」
一人で横になるには広すぎるベッド。そこには驚くほど繊細なレースの天蓋が垂れ下がっている。
壁には美しい花模様が描かれ、鏡台や文机などの家具には豪華な彫刻が施されている。櫛や水くみ用の桶まで触れる物は全て超高級品。
そんなものに縁のなかった私にもわかってしまうほど、部屋は豪華絢爛な品々で溢れていた。
「お嬢様…いつまでそんなところにうずくまっているおつもりですか?」
部屋の隅。なんのために使う物なのか分からない大きな壺の影に体育座りをした私を見て侍女のリースがため息をつく。
「だって…こんな部屋で寛げるわけないじゃない…。どこを見ても高級品ばっかりだし、もし何かに触って壊したりしちゃったら…私には弁償できないわ。」
「将軍閣下はお嬢様に弁償なんてさせませんよ。それに寛げないからといって、部屋の隅にうずくまることはないでしょう。リコリス様はこの離宮の主なんですから。」
ここはドラガニア皇国首都。その中央にそびえるドラガニア城…から少し離れた場所にある離宮呼ばれる屋敷。
私が今まで暮らしていた別邸とは比べ物にならないほどの大豪邸。中華風な屋敷で平屋作りだが、中庭には小さな池がありそれを取り囲むように多くの部屋が並んでいる。一回部屋から出たら絶対に戻ってこられる自信がない。
この離宮はその昔、皇族の別荘として作られたものらしいが今は誰も使っていないからと私が住むために整えられたそうだ。
「主なんて、無理だよう…。」
「ご成婚まで半年しかないんですから、泣き言いわずに頑張ってくださいませ。」
私の18歳の誕生日まであと半年。成人になったら私はすぐにシュウ様と結婚することが先日の謁見で決まった。それまで私はこの国の作法や歴史を学び、淑女教育を受け、そしてこの離宮の管理をしなくてはならない。
「絶対…無理………。」
「メイドになるための勉強ではなく、淑女教育をやっておくべきでしたね。」
* * *
次の日の朝、落ち着かない部屋で浅い眠りから覚めた私は早朝からガヤガヤと人の気配がすることに気がついた。
「なに……?」
いまこの離宮には私とリースしかいない。信用できる者を使用人として選ぶために時間がかかると言われていた。
こんなに朝早くから誰が…?
手早く身支度を整えると玄関に向かった。この国のドレスはチャイナドレス風で一人でも着るのが楽だ。
広い屋敷に迷いそうになりながらなんとか声のするほうにたどり着くと、リースが立ち尽くしているのが見えた。
「リース…?どうかしたの?」
振り返った彼女は驚きの表情を浮かべていた。
「お嬢様…!ご覧になってください!」
「え?」
恐る恐る離宮の玄関にあたる広間を見ると、そこにはところ狭しと大小様様な箱が並べられていた。
「まだあと馬車1台分あるんですが、こちらに並べてしまってよろしいでしょうか?」
騎士服を纏った大柄な男性たちが次々と箱を運び込んでくる。赤い箱、青い箱、豪華な刺繍が施された箱はこの国の紋章入りだ。
「…これ何?」
「赤い箱は将軍閣下からの結納品です。金の紋章入りの箱はイアン殿下からの贈り物。その他はドラガニアの貴族たちからのお祝い品だそうです……。」
玄関と呼ぶにはあまりに広い場所があっという間に箱で埋め尽くされた。
「これで全部です。他にも必要なものがありましたら、なんなりとお申し付けください。」
隊長と思われる人は、私の父親ほど年上の人だ。
「朝早くからありがとうございます。」
騎士の方々に頭を下げると、皆慌てたように膝をつき胸に手を当てた。
「もったいないお言葉です。将軍閣下の奥方になられる御方のためであれば、我々はどこにでも馳せ参じる所存でございます。」
その言葉からはシュウ様への純粋な尊敬の気持ちが感じられ、自然と笑顔になった。騎士たちの誰も私を蔑むように見ることも気味悪がることもない。それもまた私にはとても嬉しいことだった。
「それでも、私のためにしてくださったことにお礼を言うのは当たり前のことですから。本当にありがとうございました。」
すると、膝をついた騎士たちの顔がみるみる赤くなった。
「は、あ、いえ…、こ、こんな美しい方のお力になれるのであれば、我々は幸せであります!」
……へ?
「本日、午後には離宮付きとなる侍女候補が参ります。好きなだけ雇って構わないと閣下から言付けられておりますのでどうぞお好きな者をお選びください。それでは!し、失礼いたします!」
呆気にとられたまま、騎士たちは早足で立ち去っていった。
「騎士様たちは交代で離宮の警備にあたってくださるそうです。本当に何から何まで公爵家とは違いますね。」
私はリースの言葉を上の空で聞いていた。えっいま私のことを美しいって言ったの?
「お嬢様?この贈り物たちはいかがいたしますか?」
「えっ、あ、そうね。とりあえず朝食をとってから中身を確認しましょう。」
「かしこまりました。」
ドラガニアに到着してまだ2日しか経っていないのに、私は何度美しいと言われたんだろう。
「本当に…夢みたいだわ。」
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