マイナス転生〜国一番の醜女、実は敵国の天女でした!?〜

塔野明里

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第七話

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 第七話

「…アスタリオに…贈り物を…?」

「はい。やっぱり…駄目でしょうか?」

 山のような贈り物がやってきた日の午後。侍女候補を連れて離宮にやってきたのはシュウ様だった。美しい池が見える応接室で二人になったとき私はずっと心残りだったことを話した。

 未来の旦那様のため、それはもう丹念に準備をさせられたのは言うまでもない。張り切ったのはもちろん侍女のリースだ。
 真赤なチャイナドレス風のドレスは様々な華の刺繍が施され、膝下からふわりと広がるマーメイドタイプの物、口紅もそれに合わせた真紅。瞳の色も赤いのにさすがにやりすぎじゃないかな。

「持参金も持たない私にこんなにたくさんの結納品を下さったうえに、我儘を言ってしまって…でもどうしても……。」

 私の頭に浮かぶのは公爵家の家族…ではなく最後までドラガニアに付いていくと言っていた執事のジョセフのことだ。

 
 私のドラガニア行きが決まった時、真っ先に付き添うと言ってくれたのはジョセフだった。
 彼は元々私のお祖母様の専属執事であり、私のことを本当に大切にしてくれていた。しかし、彼には家族がいる。いまだにラブラブな奥さんと息子さん、そして可愛いお孫さんたち。そんなジョセフを家族から引き離すわけにはいかなかった。

「お嬢様は私が責任持ってお世話いたします!ご心配には及びません!」

 そう言って彼を説得してくれたのは、もちろん侍女のリースだ。

 リースは元々アスタリオ島国の子爵家の長女だった。しかし、彼女もまたその容姿のせいで家族に虐げられていたのだ。そんな彼女を別邸で雇ったのも、お祖母様だった。

「私は生涯お嬢様にお仕えするつもりですから、どこまでも付いていきます。」

 リースはもうすぐ25歳になる。アスタリオでは貴族も平民もだいたい20歳前後で結婚するのが普通なので、彼女は行き遅れになるのだろう。そんなことどうだっていいと笑う彼女が私は大好きだ。

 ジョセフのため、別邸にある財は全て売り払いお金に替えた。しかし、そもそも私には自由になるお金などほとんどない。退職金と呼ぶには程遠いほどの金額しか渡すことができなかった。


「私を大切にしてくれた、本当の家族のような執事なのです。お金はいつか必ずお返しします。だからどうか…。」

「…返す必要は、ない。」

 一言も話さず私の話を聞いていたシュウ様は、真っ直ぐに私を見つめた。

「貴方の家族は、俺の家族だ…。返済の心配など…するな。」

 彼の言葉に私は驚きを隠せなかった。使用人を家族だと思うなんて貴族ではあり得ないことだ。正直、馬鹿にされるんじゃないかと思っていた。

「本当によろしいのですか?」

 大きく頷く彼を見て、私は安堵した。すると気が緩んだのかポロポロと涙が零れた。

「…!!!」

 この国は、いやこの人は、本当に私の知っている人間とは違うのだ。

「…すみません。嬉しくて…。良かった…。本当にありがとうございます…。」

 一度泣いてしまうと中々止めることができなかった。せっかく綺麗にお化粧してもらったのが台無しだ。

「…、………………。」

 その時ビリビリと何かを破くような音がした。見るとシュウ様が着ていた服の腰についていた飾り布を破いていた。

「…コレを…、次はハンカチを持ってくる…。」

 ハンカチを持ってないからって、まさか自分の洋服を破くなんて。私は差し出された布を受け取りながら笑ってしまった。

「ふふ…着てる物を破くなんて……ふふ…。」

 私が結婚するなんて考えたこともなかった。できるとも思っていなかった。だけど、結婚相手がこんな人なら…。
 私の未来の旦那様は、優しくてでも不器用で、自分の服には関心がないみたいだ。

「しかし…使用人にだけ金を送るのは…体裁が良くないな。」

 口元に手を当てたまま、シュウ様が何か考え込んだ。

「公爵家の人たちにどう思われようと関係ありません。あの人たちはもう私のことなんて忘れているでしょうから。」

 持参金どころか見送りさえもなかった。してほしいとも思わなかったが、向こうはお荷物を厄介払いできてきっと清々していることだろう。

「殺すな…そう言っただろう。」

「あのときはそう言うしかありませんでした。シュウ様がどんな方かも分からないのに…。」

 シュウ様に初めて会ったとき、私はたしかにそう言った。

「公爵家の人たちは家族ではありません。でももういいんです。関係ありませんから。」

 私の言葉を聞いて、シュウ様が何かを閃いたようだった。

「分かった…。」

 * * *

「「リコリス様これからどうぞよろしくお願いいたします。」」

 私の前に跪いたのは一組の男女の双子。二卵性のようで顔はあまり似ていなかった。男性はヤン。女性の名はリンだ。

「こちらこそよろしくお願いします。」

 茶色い髪を刈り上げ切れ長の瞳のヤンと、同じく茶色い髪をお団子に結ったリン。二人はシュウ様の強い推薦で私の侍女と執事になった。
 他には調理場に料理人が二人、庭師が一人。離宮の広さに比べたら少ないかもしれないが、あまり多くの人を使うことなんて私にはできないと思った。

「リコリス様!そのドレス本当にお似合いです!将軍閣下の色をお召しになるなんて!もうラブラブなんですね!」

 双子の妹、リンは元気で明るく可愛いらしい。兄のヤンは物静かで部屋の隅で私達を見守っている。
 でもラブラブってどういうこと?

「色を着るってどういう意味なの?」

「ドラガニアでは、想い人の髪の色や瞳の色を身につけることで好意を表すのです!将軍閣下も今日は黒をお召しでしたし、会ってすぐだと言うのにお二人はもう通じ合っているのですね!」

 たしかにシュウ様は今日黒い服を着ていた。でも本当にそんな意味を考えて着ていたのかしら。そこまで考えた服を簡単に破いたりする?

 そこで私は気がついた。今日、たくさんあるドレスの中からこの赤いドレスを選んだのはリースだ。他のやつには目もくれず、これを着せられた。

「リース!?リースどこにいるの?知ってたんでしょ!口紅もわざと真っ赤にしたのね!」

「リースお姉様はいま買い出しに行かれてますー。」

 そんな大切なことを知らなかった恥ずかしさと怒りで真っ赤になった私をリンとヤンが笑っていた。

 こうして私の生活は突然賑やかになった。

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