父に連れられて遥々海を渡った私は、異母姉に不幸をもたらした元凶だったようです

奏千歌

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エステル

男爵と応報

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 幼なじみのオードリーとの結婚を控えたこの日。

 信頼できる女性をパートナーとして迎える準備を行いながらも、私は商談のために、タリスライト王国を訪れていた。

 はじめての国外。

 はじめての大きな商談が控えている。

 小規模の商隊は、林の中を進んでいた。

 そこは整備された街道があり、さほど危険はないはずだった。

 しかし、突如として現れた魔物の群れが我々の進行を阻んでいた。

 絶体絶命の危機に、そこに現れたのが、美しい炎を操る神秘的な女性。

 それが、パトリシアとの出会いだった。

 彼女に命を救われた私であったが、私達はお互いを見つめ合うと、一目で恋に落ちていた。

 オードリーに悪いと思いながらも、この奇跡のような出会いの中で彼女に惹かれる自分を止める事ができなかった。

 彼女がタリスライトで伯爵の地位にあると知ったのは、彼女と深い仲になった後だった。

 私は結婚間近の婚約者がいる身でこんな関係が許されるわけもなく、彼女との関係は一度きりと自分に言い聞かせ、国に帰ってオードリーと結婚。

 しかし結局、パトリシアの事が忘れられずに何度もタリスライトに足を運んだ。

 そんな私の事を彼女は受け入れてくれて、そして、私達の間にステラが生まれたのは出会って三年目の事だった。

 ステラの誕生は、私にとって何よりも幸せな事だった。

 だから、それからずっと男爵家の家に帰る事ができなくなっていた。

 パトリシアの妊娠がわかった時に、エステルがすでに生まれてきた事は知っていたが、自分の中で多くの言い訳をし、私はステラとパトリシアのそばにいる事を選んだのだ。

 だが、幸せな時は長くは続かなかった。

 エステルが生まれて六年が経った時、私の元へ一つの訃報が伝えられた。

 長く会っていなかったオードリーが自殺したと。

 その手紙に、一体何が書かれているのか理解できなかった。

 オードリーは従順で、いつも黙って私の帰りを待ってくれていたはずだった。

 それが、こんな事になるとは。

 いや、私はこんな日がいつか訪れるであろう事は予想できていたのに、何も言わない、何も言えないオードリーに甘えて。

 慌ててグリース王国の我が家へ帰ったが、そこで感情を失ったエステルと初めて会って、ようやく自分の罪を思い知った。

 母親を失ったばかりのエステルを一生懸命に気遣ったが、とうとう彼女から何か反応を得られる事はなく、また、逃げるようにタリスライトに戻ると、私を待っていたのは、今度は最愛のパトリシアの訃報だった。

 肝心な時に家を空け、ステラに不安な思いをさせて、パトリシアを一人で逝かせてしまった。

 パトリシアがこの世を去ったのは、私がグリース王国に旅立ってわずか三ヶ月後の事だった。

 私の絶望は計り知れなかったが、シリル様が向けてくる視線の意味は明白で、“ほら、貴様は彼女達を悲しませた。彼女を諦めと失望の中で死なせた”と、その責める視線に耐えられなかった。

 パトリシアを失った今、今度はステラをどうするかが問題だった。

 私はステラを認知していない。

 オードリーに全てがバレる事は彼女に悪いと思って、ステラの存在を隠したかったのだ。

 こんな状況の中、ステラをグリース王国で育てるわけにはいかず、何よりもタリスライトとシリル様からの許しが得られるとは思わなかったが、今はまだ、ステラから離れられなくて、グリースに一時的に連れて行く事を決めた。

 それに、ステラを連れて帰れば、エステルは心を開いてくれるのではと考えていた。

 幼い子供同士なのだから、家族を失った姉妹はすぐに仲良くなれるはずと。

 ステラは近いうちに必ずタリスライトとシリル様に取り上げられ、私のそばに最後に残るのはエステルだけになる事はわかっていたから、とにかくエステルとの関係を修復しなければと考えていた。

 しかし、その考えも間違ったものだった。

 ステラを会わせた直後にエステルが倒れたのを見て、それほどまでにショックを与えてしまったのかと後悔した。

 病床のエステルに申し訳なくて、しばらくステラに会うことができなかったが、エステルはそれから五日が過ぎても目を覚まさず、その姿を見続ける事に耐えられなくて、私はまた、仕事の場へと戻っていた。

 幸い、男爵家の使用人達は、幼いエステルを育ててきただけあって、子供の相手には慣れている。

 二人を安心して任せる事ができた。

「私は重要な商談に行ってくる。後の事は、良きように任せた。エステルを頼む」

 特に病床のエステルを気にかけてもらいたかった。

 私がいなくても二人の娘は大丈夫。

 逃げるように屋敷を後にした。

 この時点では、二度とステラに会えなくなるとは思ってもいなかったのだ。



 オードリーを追い詰めて死なせ、パトリシアを看取ることも叶わず、自分が雇った者の手でステラが虐げられ死に追いやられ、唯一残ったエステルは私を視界に入れようともしない。



 ステラの葬儀が終わり、埋葬が済むと、悲しみから目を逸らすように、新たな商談の場へと向かっていた。

 ステラの遺骨は、タリスライトへ送る事はできなかった。

 私がシリル様から報復を受ける事はわかっていたから、あの方と向き合う事が恐ろしかったのだ。

 当分の間、タリスライトには近付かないつもりでいたのに、しかし、私は船上で何者かに拉致されると、目が覚めた時には、シリル様の前まで連れて行かれていた。

「楽にその生を終わらせてやるつもりはない。この先、残りの人生で安寧を得られると思うな」

 子供ながらに私を憎悪の視線で睨みつけてくる姿は、彼が王族である事を知らしめていた。

 彼の前に連れて行かれると、拘束され、床に跪かされていた。

「貴様は俺からステラを奪った。だから代わりに、貴様のもう一人の娘の人生を滅茶苦茶にしてやる」

「お願いします。エステルには手を出さないでください。私が、いくらでも罪を償います。オードリーを、エステルを、蔑ろにし続けてここまできてしまったのに、これ以上、私のせいでエステルに犠牲を強いるような事は」

「すべて貴様の責任だ!!」

 シリル様は私を射殺すように見て、魔道具を首に取り付けた。

 勝手に移動を行うと、それが起爆し、首が吹き飛ぶ。

 私は、グリース王国とエステルに近づく事を禁じられた。

 その後、監視のものからシリル様とエステルとの仲睦まじい様子の写真を見せられるたびに、いずれ裏切られるであろう娘を案じる虚しい日々が続いた。

 彼からステラを奪わなければよかった。

 無責任にステラを、グリース王国に連れて行ったために、守られるはずだった忘れ形見の二人を失う事になって。

 初めて己の罪を思い知り、私に出来ることは後悔する事しかなかった。

 それからの残りの人生、シリル様に無理難題を押し付けられ、使い潰されるように利用され、どれだけ願っても、娘に会える日は来なかった。

 無責任な行動を犯し続け、その結果、私の手の中に残ったものなど何一つ無かった。













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