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ステラⅣ
5 古の魔女、ジェネヴィーブ
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ディランさん達が出征していって十日。
当たり前のように学園で過ごしている日常が、変な感じがしました。
ミナージュ領は今、どうなっているのか。
大まかな情報しかわかりません。
一応の護衛対象であった王子殿下は、ここしばらく学園を休まれています。
仲の良かったソニアさんの不在が影響しているのでしょうか。
「ステラちゃん、元気ないね」
考え事をしながらボーッと椅子に座っていると、王子殿下がいなくてむしろ清々しいといった様子のダニエル様が声をかけてくれました。
「国境はまだ深刻な状況ではないらしいから、大丈夫だよ。あの“竜殺し”なんだから」
「貴方は気楽でいいものね。ダニエル・ギルマン」
アリソン様も、私の席まで来てくれました。
私を励ますように、お二人が交互に話しかけてくれます。
アリソン様やダニエル様と知り合えた事は、本当に学園に来て良かった事だと思います。
学園で賑やかな雰囲気で過ごせた反動なのか、植物園で一人になると、また、自分の中の不安が大きく膨れ上がってしまっていました。
でも、また私は助けられる事になります。
お姉様が来てくれたのです。
「桜の樹……懐かしい……」
お姉様は、植物園に入るなり、真正面に視線が釘付けになっていました。
「シリルにぃ様が、この植物園を侮辱したお詫びだと、贈ってくれました。お花はとても嬉しかったのですが、まだ、私とは会ってくれないようで……」
「みっともない姿を見せちゃったものね。さすがに逃げ回ったりはしないだろうから、気持ちの整理がついたら戻ってくるでしょ」
「はい」
でも、シリルにぃさまには感謝です。
お姉様は、サクラの木をすごく気に入ってくださっていました。
「貴女と桜をもう一度一緒に見られる日が来るとはね……」
感慨深いわと呟いていました。
お姉様と一緒に、お気に入りの椅子に座りました。
「貴女も不安でしょ。ディランは大丈夫とは言っても」
「はい」
ダニエル様が言った通り、本格的に戦闘に突入したわけではありませんが、斥候などの姿を確認されて、小規模の衝突が繰り返されているようで、心配でたまりません。
「ディランも、貴女に会いたいでしょうね」
「ディランさんは……そんな事はないと思います」
目の前の事に集中している姿しか思い浮かびません。
いい加減な方ではないので。
「いやいや、目の前に鮮明に思い浮かぶよ。確かに今頃は真面目な顔で、緊迫した任務に赴いているのでしょうけど、だからこそ絶対にステラの事も考えてるって。あのディランに、大切にしたい女性が現れた事が嬉しい。それがステラだというのがね」
「いえ、本当に違いますから」
「お互いに心を許せてる雰囲気がとても伝わってきてたよ。あなた達、何気ない時の二人の距離がとても近いのを自覚してないでしょ」
近いでしょうか?
「コイバナするなら混ぜてって、アリソンに怒られそう。それにしても、ステラは、こんな立派な植物園をよく一人で作れたね。珍しいものを探すのは大変ではなかった?」
お姉様は少し中側に歩いて行って、陽射しを浴びながらそれを尋ねてきました。
「そんな事はありません。私の力は微々たるものです。ほんの少しだけお手伝いをしただけです。この子達はとてもたくましいので」
「ステラと一緒ね。たくさん頑張ってるってことよ」
お姉様に褒められて、とても嬉しく思いました。
天井を見上げるお姉様も何だか悩んでいる様子でしたが、また私の隣に座ると、色々な魔道具のお話をしてくれました。
色々な国の話も教えてくれました。
言葉の端々に、お姉様の異国への憧れを感じます。
時々遠くを見る目は、誰かを思い返しているようでもありました。
「お姉様は、旅に出たいように思えます」
考えこむお姉様に、続けて言います。
「私は旅に出るのは少し怖いです」
ディランさんの顔が浮かびます。
もう、親しい人と離れたくないのだと思います。
「今は、待っている人もいますし……」
お姉様も、寂しそう見えました。
「シリルにぃ様に会いたいですか?」
「え?」
「あ、えっと、お姉様も寂しそうにされていたので」
「まぁ、あれだけずっといたから……急にいなくなるとね……」
お姉様にも、待っている方がいますよね。
私が寄り添ってあげる事ができていればいいけどと思いながら、お姉様の手を握りました。
「仲良し姉妹って、素敵ね」
それは突然で、あり得ない事に天井から声がしたのです。
私とお姉様、同時に見上げました。
「貴女達の初対面の光景を見たわ。つまらなかったわぁ。お姉ちゃん。貴女、もうちょっとそこの元凶を罵ってくれてよかったのに。なんであんな、お小さい子が我慢できるのよ。最初の最初、あそこで全部が狂っていたのよ。ビックリしちゃったわ」
魔女、ジェネヴィーブの姿がありました。
10年前の姿のまま、空中の見えない椅子に座るかのような姿勢で足を組んでいました。
怖い。
その姿を認めた途端に、心の底から恐怖が呼び起こされますが、怯えてばかりはいられません。
ここに何しに来たのか、何の目的があるのか、とにかく、お姉様を守らなければ。
「ちょっと待って。あなた、私の親子鑑定した人じゃない!」
お姉様が、驚いたように声をあげました。
「そうそう。貴女、以前にも会ったことあるわね。貴女の父親が誰か鑑定してあげた。貴女のお母様、最高だったわ。恋をしたり、愛したり、その副産物が憎悪って素敵よね。何年経っても、何度見ても、心が躍るの。オードリーは素敵だったわ。一人で苦しんで、嘆いて、憎悪して、自棄になって、勝手に自滅して。愚かよね」
オードリー様を侮辱されたお姉様の怒りが、握りしめた手から伝わってきて、ギュッと腕にしがみつきました。
「お母様は、男を見る目がなかった。でも、子育てに関しては、誇りに思っているわ」
「そうです!!オードリー様の想いは、お姉様にちゃんと伝えられています!」
「ふふっ。可愛らしくて、いじらしいわね。それで、オードリーの娘。貴女、変わった気配を感じるわ。貴女が男爵の娘だとわかって、面白くなかったわ。結果がすぐにわかるように見せたから、嘘もつけなかったし。まぁ、いいわ。たくさん楽しんだから。それで、貴女に不可思議な魔力が纏わりついている気配も感じられるの。不思議よね」
艶のある赤い唇が歪んでいるのが目につきました。
いまだにここに来た目的がわからないまま、魔女は喋り続けています。
「私の誘いを断った子がいたわ。もしかしたら、その子がいた世界から貴女が来たのかしら。そう考えると、ますます不思議な縁よね。貴女、その子に何かを託されたんじゃない?」
「託されたって言っても、私は結局何一つ助けにはならなかった。二人は、自分で選んだ道を歩んでいて、自分の力で進んでいる。幼いステラが、一生懸命に考えて、頑張って、我慢した結果が今にあるのだから」
お姉様も、私の手をぎゅっと握りました。
「ふーん?あの子、とにかく勘がいい子だったわ。あら、じゃあ、もしかして……同じ子をスカウトしちゃったかしら?」
そこで魔女は、私にニヤリと笑いかけてきました。
「おかしいと思ったのよね。私の誘いを断る子が二人もいるだなんて。本当は今頃、グリース王国は戦争と病で滅ぶはずだったのに。邪魔されちゃって、腹立つわぁ。そこの貴女が作った薬で、楽に対処できちゃってる。まるで未来を知っていたかのような……あの子の入れ知恵かしら?そこのお姉ちゃん。魔法の素質はないけど、私と行く?違う世界から来たのなら、また違う世界にも行ってみたいと思わない?」
「ダメ!お姉様は連れて行かせません!」
「妹ちゃん。貴女でもいいのよ?私の弟子を二度も断ったひよこ魔女」
お姉様を守るように、さらにしがみつきました。
どこかに連れて行かれたら、そこはもう二度と、会いたい人と会うことができなくなる場所です。
魔女が揺さぶりをかけるように、魔力を全身に纏わりつかせるのを感じました。
何をされるのか、全力で警戒して、怖くても足が震えていても、魔女から視線を逸らさずに睨み続けていると、バンっと、勢いよく扉が開け放たれました。
思わずそちらを見ると、不機嫌全開で入ってきたのは、ギデオン様。
「残念ながら、こいつは俺の弟子だ。連れて行かせはしない」
腕組みをして、壁のように私と魔女の間に立ちました。
「暑苦しい男は嫌いよ。はー、この世界は魔法使いが多いから、表に出ると面倒なのよ」
魔女は、お手上げよと言うように腕を上げていました。
入り口を見ると、さらにジェレミー様の姿もありました。
こちらは、いつも通りの微笑を浮かべて魔女を見ています。
「貴女の事は知っているよ。永久を生きる魔女。厄災の魔女。破滅の魔女。世界を渡る魔女。呼び名はたくさんあるね。時代の転換期に現れる、古の魔女ジェネヴィーブ。この世界を訪れるのは二度目かな?」
「嫌ね、貴方。私と同じ無属性。時を操る魔法が使えるようね」
魔女は、顔を顰めてジェレミー様を見ています。
「学園内にカティック家の物を残したり、わざわざ証拠品が揃った廃屋に呼び寄せたり、焚き付けたわりに悪戯が過ぎるようだけど、貴女はもう、十分に楽しんだのでは?そろそろ、この世界から出て行ってもらえないかな」
「ジェレミー。逃すつもりか?」
「彼女を捕らえる事は不可能だよ。今はね。それなら、御退場願った方がいい」
私達の視線の先にいる魔女は、余裕の表情を崩しません。
「そうね。まぁ、いいわ。ひよこ魔女、またどこかで会いましょう。私の最後のプレゼント、受け取ってね」
魔女は赤い唇を三日月型に動かして怖い微笑みを残すと、鏡が割れたような歪みが空間に現れて、あっさりとその姿は消えていました。
「お、終わったのでしょうか?」
シーンとした空気の中、いつまでも緊張が解けません。
「うん。この世界にいる限りは、もうジェネヴィーブに関わる事はないよ」
ジェレミー様のその言い方も、何だか怖いものでした。
生まれ変わりがあるのだとしたら、また、どこかの世界で遭遇する可能性もあるのだと。
あの魔女が存在している限りは。
私は何も覚えていなくても、どうやらあの魔女に勧誘を受けたのは二度目のようですし。
今の段階では、ジェレミー様も手が出せない存在。
「不安がるな。つけ込まれるぞ」
ギデオン様が私を窘めます。
「お前が死ぬまでに対策を考えればいいって事だろ」
「大丈夫。もう、ジェネヴィーブをステラには近付けさせないよ」
ジェレミー様の微笑は、最初から最後まで変わりません。
「これくらいで動揺するなら、お前にはまだ修行が必要なようだな」
その言葉に、私の中では魔女に対する恐怖よりも、青汁に対する恐怖が勝ってしまっていました。
最後に、そっとお姉様が肩を抱き寄せてくれて、それで、もう、ここからいなくなった魔女を怖がるのはやめようと思っていました。
当たり前のように学園で過ごしている日常が、変な感じがしました。
ミナージュ領は今、どうなっているのか。
大まかな情報しかわかりません。
一応の護衛対象であった王子殿下は、ここしばらく学園を休まれています。
仲の良かったソニアさんの不在が影響しているのでしょうか。
「ステラちゃん、元気ないね」
考え事をしながらボーッと椅子に座っていると、王子殿下がいなくてむしろ清々しいといった様子のダニエル様が声をかけてくれました。
「国境はまだ深刻な状況ではないらしいから、大丈夫だよ。あの“竜殺し”なんだから」
「貴方は気楽でいいものね。ダニエル・ギルマン」
アリソン様も、私の席まで来てくれました。
私を励ますように、お二人が交互に話しかけてくれます。
アリソン様やダニエル様と知り合えた事は、本当に学園に来て良かった事だと思います。
学園で賑やかな雰囲気で過ごせた反動なのか、植物園で一人になると、また、自分の中の不安が大きく膨れ上がってしまっていました。
でも、また私は助けられる事になります。
お姉様が来てくれたのです。
「桜の樹……懐かしい……」
お姉様は、植物園に入るなり、真正面に視線が釘付けになっていました。
「シリルにぃ様が、この植物園を侮辱したお詫びだと、贈ってくれました。お花はとても嬉しかったのですが、まだ、私とは会ってくれないようで……」
「みっともない姿を見せちゃったものね。さすがに逃げ回ったりはしないだろうから、気持ちの整理がついたら戻ってくるでしょ」
「はい」
でも、シリルにぃさまには感謝です。
お姉様は、サクラの木をすごく気に入ってくださっていました。
「貴女と桜をもう一度一緒に見られる日が来るとはね……」
感慨深いわと呟いていました。
お姉様と一緒に、お気に入りの椅子に座りました。
「貴女も不安でしょ。ディランは大丈夫とは言っても」
「はい」
ダニエル様が言った通り、本格的に戦闘に突入したわけではありませんが、斥候などの姿を確認されて、小規模の衝突が繰り返されているようで、心配でたまりません。
「ディランも、貴女に会いたいでしょうね」
「ディランさんは……そんな事はないと思います」
目の前の事に集中している姿しか思い浮かびません。
いい加減な方ではないので。
「いやいや、目の前に鮮明に思い浮かぶよ。確かに今頃は真面目な顔で、緊迫した任務に赴いているのでしょうけど、だからこそ絶対にステラの事も考えてるって。あのディランに、大切にしたい女性が現れた事が嬉しい。それがステラだというのがね」
「いえ、本当に違いますから」
「お互いに心を許せてる雰囲気がとても伝わってきてたよ。あなた達、何気ない時の二人の距離がとても近いのを自覚してないでしょ」
近いでしょうか?
「コイバナするなら混ぜてって、アリソンに怒られそう。それにしても、ステラは、こんな立派な植物園をよく一人で作れたね。珍しいものを探すのは大変ではなかった?」
お姉様は少し中側に歩いて行って、陽射しを浴びながらそれを尋ねてきました。
「そんな事はありません。私の力は微々たるものです。ほんの少しだけお手伝いをしただけです。この子達はとてもたくましいので」
「ステラと一緒ね。たくさん頑張ってるってことよ」
お姉様に褒められて、とても嬉しく思いました。
天井を見上げるお姉様も何だか悩んでいる様子でしたが、また私の隣に座ると、色々な魔道具のお話をしてくれました。
色々な国の話も教えてくれました。
言葉の端々に、お姉様の異国への憧れを感じます。
時々遠くを見る目は、誰かを思い返しているようでもありました。
「お姉様は、旅に出たいように思えます」
考えこむお姉様に、続けて言います。
「私は旅に出るのは少し怖いです」
ディランさんの顔が浮かびます。
もう、親しい人と離れたくないのだと思います。
「今は、待っている人もいますし……」
お姉様も、寂しそう見えました。
「シリルにぃ様に会いたいですか?」
「え?」
「あ、えっと、お姉様も寂しそうにされていたので」
「まぁ、あれだけずっといたから……急にいなくなるとね……」
お姉様にも、待っている方がいますよね。
私が寄り添ってあげる事ができていればいいけどと思いながら、お姉様の手を握りました。
「仲良し姉妹って、素敵ね」
それは突然で、あり得ない事に天井から声がしたのです。
私とお姉様、同時に見上げました。
「貴女達の初対面の光景を見たわ。つまらなかったわぁ。お姉ちゃん。貴女、もうちょっとそこの元凶を罵ってくれてよかったのに。なんであんな、お小さい子が我慢できるのよ。最初の最初、あそこで全部が狂っていたのよ。ビックリしちゃったわ」
魔女、ジェネヴィーブの姿がありました。
10年前の姿のまま、空中の見えない椅子に座るかのような姿勢で足を組んでいました。
怖い。
その姿を認めた途端に、心の底から恐怖が呼び起こされますが、怯えてばかりはいられません。
ここに何しに来たのか、何の目的があるのか、とにかく、お姉様を守らなければ。
「ちょっと待って。あなた、私の親子鑑定した人じゃない!」
お姉様が、驚いたように声をあげました。
「そうそう。貴女、以前にも会ったことあるわね。貴女の父親が誰か鑑定してあげた。貴女のお母様、最高だったわ。恋をしたり、愛したり、その副産物が憎悪って素敵よね。何年経っても、何度見ても、心が躍るの。オードリーは素敵だったわ。一人で苦しんで、嘆いて、憎悪して、自棄になって、勝手に自滅して。愚かよね」
オードリー様を侮辱されたお姉様の怒りが、握りしめた手から伝わってきて、ギュッと腕にしがみつきました。
「お母様は、男を見る目がなかった。でも、子育てに関しては、誇りに思っているわ」
「そうです!!オードリー様の想いは、お姉様にちゃんと伝えられています!」
「ふふっ。可愛らしくて、いじらしいわね。それで、オードリーの娘。貴女、変わった気配を感じるわ。貴女が男爵の娘だとわかって、面白くなかったわ。結果がすぐにわかるように見せたから、嘘もつけなかったし。まぁ、いいわ。たくさん楽しんだから。それで、貴女に不可思議な魔力が纏わりついている気配も感じられるの。不思議よね」
艶のある赤い唇が歪んでいるのが目につきました。
いまだにここに来た目的がわからないまま、魔女は喋り続けています。
「私の誘いを断った子がいたわ。もしかしたら、その子がいた世界から貴女が来たのかしら。そう考えると、ますます不思議な縁よね。貴女、その子に何かを託されたんじゃない?」
「託されたって言っても、私は結局何一つ助けにはならなかった。二人は、自分で選んだ道を歩んでいて、自分の力で進んでいる。幼いステラが、一生懸命に考えて、頑張って、我慢した結果が今にあるのだから」
お姉様も、私の手をぎゅっと握りました。
「ふーん?あの子、とにかく勘がいい子だったわ。あら、じゃあ、もしかして……同じ子をスカウトしちゃったかしら?」
そこで魔女は、私にニヤリと笑いかけてきました。
「おかしいと思ったのよね。私の誘いを断る子が二人もいるだなんて。本当は今頃、グリース王国は戦争と病で滅ぶはずだったのに。邪魔されちゃって、腹立つわぁ。そこの貴女が作った薬で、楽に対処できちゃってる。まるで未来を知っていたかのような……あの子の入れ知恵かしら?そこのお姉ちゃん。魔法の素質はないけど、私と行く?違う世界から来たのなら、また違う世界にも行ってみたいと思わない?」
「ダメ!お姉様は連れて行かせません!」
「妹ちゃん。貴女でもいいのよ?私の弟子を二度も断ったひよこ魔女」
お姉様を守るように、さらにしがみつきました。
どこかに連れて行かれたら、そこはもう二度と、会いたい人と会うことができなくなる場所です。
魔女が揺さぶりをかけるように、魔力を全身に纏わりつかせるのを感じました。
何をされるのか、全力で警戒して、怖くても足が震えていても、魔女から視線を逸らさずに睨み続けていると、バンっと、勢いよく扉が開け放たれました。
思わずそちらを見ると、不機嫌全開で入ってきたのは、ギデオン様。
「残念ながら、こいつは俺の弟子だ。連れて行かせはしない」
腕組みをして、壁のように私と魔女の間に立ちました。
「暑苦しい男は嫌いよ。はー、この世界は魔法使いが多いから、表に出ると面倒なのよ」
魔女は、お手上げよと言うように腕を上げていました。
入り口を見ると、さらにジェレミー様の姿もありました。
こちらは、いつも通りの微笑を浮かべて魔女を見ています。
「貴女の事は知っているよ。永久を生きる魔女。厄災の魔女。破滅の魔女。世界を渡る魔女。呼び名はたくさんあるね。時代の転換期に現れる、古の魔女ジェネヴィーブ。この世界を訪れるのは二度目かな?」
「嫌ね、貴方。私と同じ無属性。時を操る魔法が使えるようね」
魔女は、顔を顰めてジェレミー様を見ています。
「学園内にカティック家の物を残したり、わざわざ証拠品が揃った廃屋に呼び寄せたり、焚き付けたわりに悪戯が過ぎるようだけど、貴女はもう、十分に楽しんだのでは?そろそろ、この世界から出て行ってもらえないかな」
「ジェレミー。逃すつもりか?」
「彼女を捕らえる事は不可能だよ。今はね。それなら、御退場願った方がいい」
私達の視線の先にいる魔女は、余裕の表情を崩しません。
「そうね。まぁ、いいわ。ひよこ魔女、またどこかで会いましょう。私の最後のプレゼント、受け取ってね」
魔女は赤い唇を三日月型に動かして怖い微笑みを残すと、鏡が割れたような歪みが空間に現れて、あっさりとその姿は消えていました。
「お、終わったのでしょうか?」
シーンとした空気の中、いつまでも緊張が解けません。
「うん。この世界にいる限りは、もうジェネヴィーブに関わる事はないよ」
ジェレミー様のその言い方も、何だか怖いものでした。
生まれ変わりがあるのだとしたら、また、どこかの世界で遭遇する可能性もあるのだと。
あの魔女が存在している限りは。
私は何も覚えていなくても、どうやらあの魔女に勧誘を受けたのは二度目のようですし。
今の段階では、ジェレミー様も手が出せない存在。
「不安がるな。つけ込まれるぞ」
ギデオン様が私を窘めます。
「お前が死ぬまでに対策を考えればいいって事だろ」
「大丈夫。もう、ジェネヴィーブをステラには近付けさせないよ」
ジェレミー様の微笑は、最初から最後まで変わりません。
「これくらいで動揺するなら、お前にはまだ修行が必要なようだな」
その言葉に、私の中では魔女に対する恐怖よりも、青汁に対する恐怖が勝ってしまっていました。
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