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ステラⅣ
9 たくさんの幸せ
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学園での成り済まし事件から、すでに二十日ほどが経っていました。
その間はずっと王都で過ごしていましたが、お姉様達から惜しまれながらも、私の役目が終わったのと同時に学園へ通う事も無くなりました。
ジェレミー様やギデオン様は事後処理で忙しくされているようですが、私は植物園で静かに過ごさせてもらっていました。
でも今日はどうやら、静かな一日にはなりそうにありません。
いつの間にかディランさんが音も無く植物園に訪れていたかと思うと、扉の横に座って壁にもたれて寝てしまっていたのです。
ディランさんも、ミナージュ領での事後処理に色々と忙しくされていたのだと思います。
ずっと雪が降る野営地で過ごされていたから、ゆっくりもできなかったでしょうし。
あの時あのまま別れてしまって、しばらく会えなかったので、今日ここで会えたのは嬉しいのですが、また副隊長さんに色々と押し付けて逃げてきたのかなと思いながらも、ソロソロと近付いてちょっとだけ寝顔を眺めていました。
こんな機会はなかなか無いので。
前髪が以前よりも伸びたように見えます。
銀色の髪がキラキラしていて、それに触れたいと思いました。
起こさないようにそーっと手を伸ばして、でも、寝ていると思ったのに、髪に触れた途端に、パシっと手を掴まれて、驚く間も無く、ディランさんの頬に添えるように動かされると、極自然に手の平に唇が触れていました。
それは、ほんのわずかな時間で、すぐにディランさんの顔は手から離れていましたが、
「いい、いっ、いまっ」
顔がものすごく熱をもって、触れられた手の平もものすごく熱を持ってて、手を握られたままプルプルと震えていると、顔を俯かせていたディランさんの肩が揺れている事に気付きました。
笑っているのです。
盛大に笑っているのです。
酷いです!
またからかって!
ちらっと、上目遣いに見る紫の瞳は、しばらく私を観察するようにジッと見つめていましたが、ニヤリと笑って最後にイタズラが成功した事を喜んでいました。
「もう手を離してください!」
「それは聞いてやれないな。どうやら草は生えていないらしい」
ディランさんは、すぐには離すつもりはないようで、手の平を見つめています。
握られたままの手を振り払う事なんかできるわけもなく、諦めてディランさんにされるがまま、でも、聞きたい事を尋ねる事にしました。
「怪我はないですか?」
「ああ」
「風邪は引いていませんか?」
「大丈夫だ」
無事に帰って来てくれた。
それだけで、胸がいっぱいになりました。
「学園で暴れたらしいな」
「暴れてなんかいません」
ラシャド様に聞いたのでしょうか?
「大丈夫だったか?ステラこそ、怪我はしていないか?」
「はい。大丈夫です。でも……」
会えなくて寂しかったとは、なかなか言いにくいものですが……
「ディランさんの事、待っていました。私のわがまま、溜まっています」
「全部聞いてやる。それで、まずは何だ?」
「あ、えっと……」
手を握られたまま話すのは、気恥ずかしいものがありましたが、考えていた事を言葉にしました。
「カフェに行きたいです。新しくオープンするお店があって、お姉様に教えてもらいました」
「ああ。コーヒー飲めるのか?」
「飲めます!お砂糖をたくさん入れて、ミルクもたくさん入れたら……」
「頼むのはコーヒー以外にしとけ。それから?」
「暖かくなったら野原に行きたいです」
「弁当も作る。それと?」
「少し先になりますが、アリソン様のお誕生日パーティーに、一緒に参加してください」
「わかった」
「ダンスの練習をしておきなさいって言われました」
「俺が教える」
「歌劇団が王都で公演している“ルサルカ”が素敵だから、一度観に行ってみてはと、アリソン様に勧められました」
「手配しておく」
ディランさんは、何でも事もなげに返事をしてくれていました。
「ディランさんは、何かないですか?私ばかりお願いしているので」
「お前の願いをまだ聞き足りないが、明後日、騎士団の慰労パーティーがある。来るか?」
「お邪魔してもいいのなら」
「みんな、家族や恋人を連れてくる。だから、気軽に参加すればいい」
騎士団のパーティーは賑やかな雰囲気を想像しますが、アリソン様から招待されたパーティーも同様に、そんな所に行こうと思うのが、自分の中で変わったなと思うことでした。
それは、ディランさんが一緒だからというのが大きいですが。
「親父が、お前を早く連れて来いと言っていた」
「はい。改めてご挨拶したいと思います」
「その前に、エステルとシリルに相談しなければならないが」
「日程をでしょうか?」
「そうだな。どうせ伝わっていないだろうから、お前が成人するまでの約二年。時間はあるから、ゆっくり進めるつもりだ」
「はい」
「とりあえずは、行くか」
「どこにですか?」
「ラシャドに、お前を連れて来てくれって頼まれている。茶でも一緒に飲むつもりだろ」
「えっ、早く行かないと、お待たせしていますよね!?」
ディランさん、普通に寝ていましたけど。
「まだ、時間はある。その前にエステル達も来てるはずだ。行くか」
私一人が焦っていましたが、手を握られたまま立ち上がると、お姉様とは図書館近くの回廊で待ち合わせされているそうで、そこへ歩いて移動しました。
ディランさんの横を何も気にせずに歩ける事は、とても幸せな事でした。
こんな日が訪れるだなんて、ちょっと前までは想像もできなくて、いろんな人達に感謝して、自分と繋がれている大きな手を意識しながら、幸せを噛み締めていました。
その間はずっと王都で過ごしていましたが、お姉様達から惜しまれながらも、私の役目が終わったのと同時に学園へ通う事も無くなりました。
ジェレミー様やギデオン様は事後処理で忙しくされているようですが、私は植物園で静かに過ごさせてもらっていました。
でも今日はどうやら、静かな一日にはなりそうにありません。
いつの間にかディランさんが音も無く植物園に訪れていたかと思うと、扉の横に座って壁にもたれて寝てしまっていたのです。
ディランさんも、ミナージュ領での事後処理に色々と忙しくされていたのだと思います。
ずっと雪が降る野営地で過ごされていたから、ゆっくりもできなかったでしょうし。
あの時あのまま別れてしまって、しばらく会えなかったので、今日ここで会えたのは嬉しいのですが、また副隊長さんに色々と押し付けて逃げてきたのかなと思いながらも、ソロソロと近付いてちょっとだけ寝顔を眺めていました。
こんな機会はなかなか無いので。
前髪が以前よりも伸びたように見えます。
銀色の髪がキラキラしていて、それに触れたいと思いました。
起こさないようにそーっと手を伸ばして、でも、寝ていると思ったのに、髪に触れた途端に、パシっと手を掴まれて、驚く間も無く、ディランさんの頬に添えるように動かされると、極自然に手の平に唇が触れていました。
それは、ほんのわずかな時間で、すぐにディランさんの顔は手から離れていましたが、
「いい、いっ、いまっ」
顔がものすごく熱をもって、触れられた手の平もものすごく熱を持ってて、手を握られたままプルプルと震えていると、顔を俯かせていたディランさんの肩が揺れている事に気付きました。
笑っているのです。
盛大に笑っているのです。
酷いです!
またからかって!
ちらっと、上目遣いに見る紫の瞳は、しばらく私を観察するようにジッと見つめていましたが、ニヤリと笑って最後にイタズラが成功した事を喜んでいました。
「もう手を離してください!」
「それは聞いてやれないな。どうやら草は生えていないらしい」
ディランさんは、すぐには離すつもりはないようで、手の平を見つめています。
握られたままの手を振り払う事なんかできるわけもなく、諦めてディランさんにされるがまま、でも、聞きたい事を尋ねる事にしました。
「怪我はないですか?」
「ああ」
「風邪は引いていませんか?」
「大丈夫だ」
無事に帰って来てくれた。
それだけで、胸がいっぱいになりました。
「学園で暴れたらしいな」
「暴れてなんかいません」
ラシャド様に聞いたのでしょうか?
「大丈夫だったか?ステラこそ、怪我はしていないか?」
「はい。大丈夫です。でも……」
会えなくて寂しかったとは、なかなか言いにくいものですが……
「ディランさんの事、待っていました。私のわがまま、溜まっています」
「全部聞いてやる。それで、まずは何だ?」
「あ、えっと……」
手を握られたまま話すのは、気恥ずかしいものがありましたが、考えていた事を言葉にしました。
「カフェに行きたいです。新しくオープンするお店があって、お姉様に教えてもらいました」
「ああ。コーヒー飲めるのか?」
「飲めます!お砂糖をたくさん入れて、ミルクもたくさん入れたら……」
「頼むのはコーヒー以外にしとけ。それから?」
「暖かくなったら野原に行きたいです」
「弁当も作る。それと?」
「少し先になりますが、アリソン様のお誕生日パーティーに、一緒に参加してください」
「わかった」
「ダンスの練習をしておきなさいって言われました」
「俺が教える」
「歌劇団が王都で公演している“ルサルカ”が素敵だから、一度観に行ってみてはと、アリソン様に勧められました」
「手配しておく」
ディランさんは、何でも事もなげに返事をしてくれていました。
「ディランさんは、何かないですか?私ばかりお願いしているので」
「お前の願いをまだ聞き足りないが、明後日、騎士団の慰労パーティーがある。来るか?」
「お邪魔してもいいのなら」
「みんな、家族や恋人を連れてくる。だから、気軽に参加すればいい」
騎士団のパーティーは賑やかな雰囲気を想像しますが、アリソン様から招待されたパーティーも同様に、そんな所に行こうと思うのが、自分の中で変わったなと思うことでした。
それは、ディランさんが一緒だからというのが大きいですが。
「親父が、お前を早く連れて来いと言っていた」
「はい。改めてご挨拶したいと思います」
「その前に、エステルとシリルに相談しなければならないが」
「日程をでしょうか?」
「そうだな。どうせ伝わっていないだろうから、お前が成人するまでの約二年。時間はあるから、ゆっくり進めるつもりだ」
「はい」
「とりあえずは、行くか」
「どこにですか?」
「ラシャドに、お前を連れて来てくれって頼まれている。茶でも一緒に飲むつもりだろ」
「えっ、早く行かないと、お待たせしていますよね!?」
ディランさん、普通に寝ていましたけど。
「まだ、時間はある。その前にエステル達も来てるはずだ。行くか」
私一人が焦っていましたが、手を握られたまま立ち上がると、お姉様とは図書館近くの回廊で待ち合わせされているそうで、そこへ歩いて移動しました。
ディランさんの横を何も気にせずに歩ける事は、とても幸せな事でした。
こんな日が訪れるだなんて、ちょっと前までは想像もできなくて、いろんな人達に感謝して、自分と繋がれている大きな手を意識しながら、幸せを噛み締めていました。
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