偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌

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末路

16 誓いの鐘

 王都で、重苦しい鐘が鳴る。

 戦争の終わりを告げる鐘だ。

 戦の始まりも、あの音が鳴り響く中、兵が出兵していった。

 どれだけ罪の無い者の血が流れたのか。

 それでも、戦地となる場所へ赴かなければならなかった。

 騎士として国に誓いを立てた。

 でも、他国の者と言えど、平凡な生活を営んでいたはずの民衆を殺したくはない。

 例え聖女を殺した国の者と言えど、彼らも強欲な一部の連中の所業に巻き込まれた者達だ。

 町や村は焼き払われ、血と、炎と、煙が辺りを包む光景が思い出される。

 人間が生きたまま焼かれる臭いは、いつまでも鼻の奥に残っている。

 また、鐘が鳴る。

 重苦しい鐘が。

 この鐘は、数百年続いた平和な歴史に終わりを告げる音だった。

 ロズワンドへ本格的な侵攻を始めた直後から、大陸の上空に晴れ間が見えた。

 天が味方をしてくれている。我々の行いは正しく、神が赦したものだと、誰かが言った。

 聖戦だと口々に叫び、もはや我が国の中には罪悪を感じる者などいなかった。

 侵攻の足は一時も止まらなかった。

 王城を攻め落とし、悲劇の元凶となった王太子バージルを捕える。

 民の怒りは、国に連れ帰られたバージルに向けられた。

 腰布を一枚巻いただけの姿で城門前に鎖で繋ぎ、その周りを柵で囲っている。

 手足の腱は切られているから、自力で逃げることも叶わない。

 獣のように地面に手足をつき、怯えた姿で周囲を見回していた。

 そこには高貴な者の姿はない。

 神の怒りを鎮めるための、供物として捧げられた贄だ。

 人々は次々に石を投げ、厄災で親しき人を喪った悲しみをぶつけた。

 そうする事で穏やかな天候は続き、バージルには定期的に神聖魔法をかけることにより、傷を癒やし、長く生かされていた。

 聖女の命を奪った者への罰が、天の怒りを鎮める唯一の手段だったのだ。

 ロズワンド王国は、聖女エルナトを投獄した時点で、情報を一切もらさなかった。

 王家が民衆に知らせたのは、処刑の前日だった。

 我々の執行中止を求める声も間に合わず、彼女は殺された。

 その絶望は計り知れない。

 こんな者の命で償われるものではない。


『アリーヤ、私を助けてくれ』


 当初は聞こえていた叫び声も、今はもう聞こえない。

 あの者が正気を保っているのかはわからない。

 家畜のように飼われ、ただただ生かされているだけの存在だ。

 同情など、するはずもない。

 こんな奴らが、あの子の命を奪っていいはずがなかったんだ。

 私に残された唯一の家族だったのに。

 こんな事になるのなら、せめてあの子がいるあの国にいれば良かった。

 生き別れた私の妹。

 強欲な者達から両親があの子を連れて逃げるために、病弱だった私は人知れず預けられていた。

 私がそこで平穏に暮らせていることを知った両親は、とうとうあの子に私の存在を明かさなかった。

 お互いのためにならないと思ったのだろう。

 事実、私があの子の姉だと名乗り出ていたら、きっと今頃は一緒に処刑されていた。

 シャーロット。

 あの子が生まれた時に、神が囁いたその名前を私も聞いた。

 聖女エルナトではない。

 あの子はシャーロット。

 ただの人として生まれてこられなかったばかりに、悲惨な最期を迎えさせてしまった。

 王太子妃アリーヤは、同族の者に守られ未だ逃げ回っている。

 あの女の行方は分かっていない。

 唯一、あの子を救うことができた者なのに、あの女は自分の利益のために見殺しにしたのだ。

 その罪は、バージル以上だ。

 私は、残りの生涯をかけてあの女を見つけ出し、必ず報いを受けさせてやる。

 あの鐘の音に誓って、あの子の、ただ一人の血を分けた肉親として。










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