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中編
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毎週恒例の自棄菓子会……もといもはやただのお菓子パーティをいつものように藍の家で開催している日曜午後。
「なあ眞白」
「んー?」
名前を呼ばれて振り向くと藍が例のラブレターを片手に悩ましげな表情を浮かべていた。何でこんな日常的なシーンでこいつは色気なんて放てるんだろう。藍って本当何やっても絵になるのな。
「なんでゆきちゃんってあんなに何通も熱烈なラブレター送ってくるのに直接俺のところに告白しに来ないんだろう」
思いがけずゆきちゃん(俺)の話題を振られ俺は飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになる。
「さあな。相当シャイな子なんじゃないか?知ってるのは名前だけでクラスもわかんないんだろ?」
俺は持っていたハンカチでジュースの垂れた口元を拭った。何だか藍の視線を感じる気がするけど多分気のせいだろう。
俺の返答にいまいち納得のいってなさそうな藍は「何とかして直接会って返事したいんだけどね」とため息をつく。
俺の計画では藍おちこむ→熱烈ラブラブ♡ラブレターをもらう→藍『俺ってこんなに想われてるんだぁ!てことはそんなに落ち込む必要もない……?』→藍立ち直って彼女できてハッピー☆で終わるはずだったのに……まさか藍がゆきちゃんをここまで気にするなんて。
「やっぱり俺の方から動くしかないかな」
ぼそっと藍が何か呟いたがあまりに小声だったので俺はゲームに熱中していてよく聞こえなかった。
翌朝教室に入ってみるとクラスの雰囲気が何やらいつもと違っていた。
「いやーっ、藍くんに本命ができたなんて誰か嘘って言ってよー!」
「でもまだ付き合ってないらしいよ。私はまだあきらめないんだからっ!」
え……藍に本命?
教室に入った瞬間、朝っぱらから何か聞き捨てならない言葉が耳に入ってきたんだけど。え?
「藍、どういうことだよ」
「本命ってお前まじ!?」
すっかり同性からのやっかみを買わなくなった藍はクラスの男子たちにからかわれている
そんな藍が手に持っているのは俺のお手製ラブレター…………おい、ちょっと待て。それを手に持ってるってことはーーー。
藍は勿論ラブレターの中身を開き皆に見せびらかしていた
やめろやめろやめろ!それだけはだめだ!
そのラブレターには俺の恥ずかしい片想い歴十年の全部が詰まってるんだ。藍に目の前で読まれるのすら恥ずかしいっていうのに他人に見られるなんてもっと恥ずかしいって!
でもゆきちゃんが書いたってことにしてるあのラブレターをまさか俺が書いたとは言えなくて、俺は手紙を取り返すこともできず平常心を保つのに精一杯だった。
そんな状況に耐えている俺のことなんて露も知らない藍たちの会話は尚も引き続き漏れ聞こえてくる。
「うん、まじ。でも俺にいつもラブレターくれるんだけど一回も直接会ったことないんだよね」
そういって藍が「あはは」と笑うとクラスメイト達が一斉に「お前それからかわれてるだけなんじゃね?」とバカにし始めた
すると藍は急に表情が変わり「そんなことない」と真面目な顔していった
「俺だって最初はそう思ったし表面的な褒め言葉しか書かれてなかったら多分こんな手紙気にもとめなかったよ。でもこの子俺のこと超知ってくれてるし書いてる内容からして俺のことむちゃくちゃ好きなんだもん。こんなの惚れるなって方が無理」
なんて今度ははにかんで見せる藍にクラス中の女子がきゃあああああと悲鳴を上げる。いや悲鳴をあげたいのは俺の方だけど!?
藍が好きだと思ってるのはあくまでゆきちゃんであって眞白じゃない。でもそのラブレターに認めた思いは紛れもなく俺のものだ……こんなの。こんなのドキドキすんなってほうが無理だろ!!
どうしてこんなことになった?
こんなことなら藍が勝手に立ち直るのをただ指くわえて見てればよかったんだろうか……
いや、どんなに悔やんでも一度やったことはもう取り消せない。
こうなったら藍が他の子に目移りするまでラブレターを書き続けるしかない……
まあ顔さえ知らない女のことなんてそのうちどうでもよくなるだろう。どうせこいつに告白する女子なんて次から次へと現れるだろうしな。
――なんて甘く考えていたことを俺は今猛烈に後悔している。
……なんで?
あれから一ヶ月が経ち、藍の本命はゆきちゃんだと言うことは学年中に知れ渡っていた。そしてあろうことか皆でゆきちゃんを探そうと協力し出したのだ。
やっべー!日が経つにつれてどんどん事が大きくなってるぞ。
毎週末藍んちに行っても藍はゆきちゃんゆきちゃんうるさいし藍の家族までゆきちゃんのことを知ってるらしい。
俺がご両親にその話聞いた時羞恥のあまり叫び出さなかったのを誰か褒めてくれないかな?
あーあ、やっぱり最初の一通でやめときゃ良かった……
普通に偽名なんか使わないで俺として藍のこと褒めてやればよかった。そしたらこんなややこしいことにもならなかったのに。
――そろそろ潮時だよな。
ゆきちゃんからのラブレターは次の一通で終わりにしよう。
俺はそう決めると最後のラブレターを心を込めて今までで一番時間をかけて仕上げた。
そして翌朝七時に玄関を飛び出すと丁度藍が俺んちの前に突っ立っていた。……なんで?
「おはよう眞白」
「お、はよ……藍……」
「部屋の窓から眞白の部屋の電気が付いてるの見えたからさ。もう起きたのかなって思って待ってたんだ。今日は随分と早くからのご登校だな。帰宅部なのに」
「い、いや、たまたま早起きしたから学校で予習でもしようかなって……はは……」
「……ふーん。ま、いいや。俺も一緒に行っていいよね」
「えー?えええ??藍はもうちょっと寝てろよ!いつも朝よわいだろ?」
あーっダメだ。誤魔化そうとすればするほど不自然なリアクションを取ってしまう。勿論そんな俺にやましいことがあるなんてことは藍にはお見通しなようで「今日はたっぷり寝たから大丈夫。さ、行こっか」と爽やかスマイルで有無を言わさず押し切られた……なんか今日の藍、怖い。
学校に着いて下駄箱を開くと藍は「今日はラブレターないんだなー」とがっかりした様子で呟く。そんな藍に俺は励ますつもりで「そんな日もあるさ」と笑ってみせた。
「……あのさぁ眞白」
「うん?」
「最近眞白、時々朝早くに学校行ってるよね。でも俺が登校するといつも眞白に声を掛けられる。そんな日に限ってゆきちゃんからラブレターが届くんだよね。どうしてかな?」
いつもよりワントーン低いその声は絶対に藍本人のもののはずなのに俺の耳にはまるで知らない人の声みたいにきこえた。
「そん、なこと……俺に言われても」
しどろもどろになりながら返事をすると「ふうん、そっか」と吐き捨てられ冷たい目で藍に睨まれた。
それは朝から感じていた藍への謎の恐怖感が俺の中で限界突破した瞬間だった。もしかして……全部バレてる……っ?!
そう思うと「ひゅっ」と喉がなり、まず思ったのはここから逃げようということだった
何かここから逃げる理由を……と考えていると俺のそんな考えを見透かしたように藍に退路を塞がれた。壁ドンする藍かっこいい♡なんて思う余裕はまったくなかった。
「逃さないよ眞白」
嫌だ……
ゆきちゃんが俺だなんてバレたら藍に絶交される!怒った藍が皆に俺のこと言い触らして皆にからかわれて公開処刑にされる!
いや、この際皆にからかわれるのは良い。俺が何より怖いのは藍に拒絶されることだ……
「な、何?どうしたんだよ藍……っ」
喉がカラカラで、心臓はバクバク言ってて最早これが現実なのかどうかもわからないが何とか俺は一言声を発することができた
「どうしたんだよ、じゃないよ。ねえ?眞白。俺、前回ゆきちゃんからラブレターもらった時……見たんだよね。眞白が俺の下駄箱に何か入れるの。で、その後下駄箱を確認したらゆきちゃんからのラブレターが入ってたんだ。これってそういうことだよね?」
「……っ!」
そんな。ラブレターを出すときは細心の注意を払ってたはずなのに一番見られたくない相手に見られてたなんて……
だから藍は朝からあんな険しい顔して俺のこと待ち伏せしてたんだ。
きっと、俺がゆきちゃんだってわかって気持ち悪いって思ったよな。手紙に書いたことは全部俺の本音だけどかっこいいとか大好きとか俺なんかに言われても気持ち悪いだけだよな。
「なあ眞白」
「んー?」
名前を呼ばれて振り向くと藍が例のラブレターを片手に悩ましげな表情を浮かべていた。何でこんな日常的なシーンでこいつは色気なんて放てるんだろう。藍って本当何やっても絵になるのな。
「なんでゆきちゃんってあんなに何通も熱烈なラブレター送ってくるのに直接俺のところに告白しに来ないんだろう」
思いがけずゆきちゃん(俺)の話題を振られ俺は飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになる。
「さあな。相当シャイな子なんじゃないか?知ってるのは名前だけでクラスもわかんないんだろ?」
俺は持っていたハンカチでジュースの垂れた口元を拭った。何だか藍の視線を感じる気がするけど多分気のせいだろう。
俺の返答にいまいち納得のいってなさそうな藍は「何とかして直接会って返事したいんだけどね」とため息をつく。
俺の計画では藍おちこむ→熱烈ラブラブ♡ラブレターをもらう→藍『俺ってこんなに想われてるんだぁ!てことはそんなに落ち込む必要もない……?』→藍立ち直って彼女できてハッピー☆で終わるはずだったのに……まさか藍がゆきちゃんをここまで気にするなんて。
「やっぱり俺の方から動くしかないかな」
ぼそっと藍が何か呟いたがあまりに小声だったので俺はゲームに熱中していてよく聞こえなかった。
翌朝教室に入ってみるとクラスの雰囲気が何やらいつもと違っていた。
「いやーっ、藍くんに本命ができたなんて誰か嘘って言ってよー!」
「でもまだ付き合ってないらしいよ。私はまだあきらめないんだからっ!」
え……藍に本命?
教室に入った瞬間、朝っぱらから何か聞き捨てならない言葉が耳に入ってきたんだけど。え?
「藍、どういうことだよ」
「本命ってお前まじ!?」
すっかり同性からのやっかみを買わなくなった藍はクラスの男子たちにからかわれている
そんな藍が手に持っているのは俺のお手製ラブレター…………おい、ちょっと待て。それを手に持ってるってことはーーー。
藍は勿論ラブレターの中身を開き皆に見せびらかしていた
やめろやめろやめろ!それだけはだめだ!
そのラブレターには俺の恥ずかしい片想い歴十年の全部が詰まってるんだ。藍に目の前で読まれるのすら恥ずかしいっていうのに他人に見られるなんてもっと恥ずかしいって!
でもゆきちゃんが書いたってことにしてるあのラブレターをまさか俺が書いたとは言えなくて、俺は手紙を取り返すこともできず平常心を保つのに精一杯だった。
そんな状況に耐えている俺のことなんて露も知らない藍たちの会話は尚も引き続き漏れ聞こえてくる。
「うん、まじ。でも俺にいつもラブレターくれるんだけど一回も直接会ったことないんだよね」
そういって藍が「あはは」と笑うとクラスメイト達が一斉に「お前それからかわれてるだけなんじゃね?」とバカにし始めた
すると藍は急に表情が変わり「そんなことない」と真面目な顔していった
「俺だって最初はそう思ったし表面的な褒め言葉しか書かれてなかったら多分こんな手紙気にもとめなかったよ。でもこの子俺のこと超知ってくれてるし書いてる内容からして俺のことむちゃくちゃ好きなんだもん。こんなの惚れるなって方が無理」
なんて今度ははにかんで見せる藍にクラス中の女子がきゃあああああと悲鳴を上げる。いや悲鳴をあげたいのは俺の方だけど!?
藍が好きだと思ってるのはあくまでゆきちゃんであって眞白じゃない。でもそのラブレターに認めた思いは紛れもなく俺のものだ……こんなの。こんなのドキドキすんなってほうが無理だろ!!
どうしてこんなことになった?
こんなことなら藍が勝手に立ち直るのをただ指くわえて見てればよかったんだろうか……
いや、どんなに悔やんでも一度やったことはもう取り消せない。
こうなったら藍が他の子に目移りするまでラブレターを書き続けるしかない……
まあ顔さえ知らない女のことなんてそのうちどうでもよくなるだろう。どうせこいつに告白する女子なんて次から次へと現れるだろうしな。
――なんて甘く考えていたことを俺は今猛烈に後悔している。
……なんで?
あれから一ヶ月が経ち、藍の本命はゆきちゃんだと言うことは学年中に知れ渡っていた。そしてあろうことか皆でゆきちゃんを探そうと協力し出したのだ。
やっべー!日が経つにつれてどんどん事が大きくなってるぞ。
毎週末藍んちに行っても藍はゆきちゃんゆきちゃんうるさいし藍の家族までゆきちゃんのことを知ってるらしい。
俺がご両親にその話聞いた時羞恥のあまり叫び出さなかったのを誰か褒めてくれないかな?
あーあ、やっぱり最初の一通でやめときゃ良かった……
普通に偽名なんか使わないで俺として藍のこと褒めてやればよかった。そしたらこんなややこしいことにもならなかったのに。
――そろそろ潮時だよな。
ゆきちゃんからのラブレターは次の一通で終わりにしよう。
俺はそう決めると最後のラブレターを心を込めて今までで一番時間をかけて仕上げた。
そして翌朝七時に玄関を飛び出すと丁度藍が俺んちの前に突っ立っていた。……なんで?
「おはよう眞白」
「お、はよ……藍……」
「部屋の窓から眞白の部屋の電気が付いてるの見えたからさ。もう起きたのかなって思って待ってたんだ。今日は随分と早くからのご登校だな。帰宅部なのに」
「い、いや、たまたま早起きしたから学校で予習でもしようかなって……はは……」
「……ふーん。ま、いいや。俺も一緒に行っていいよね」
「えー?えええ??藍はもうちょっと寝てろよ!いつも朝よわいだろ?」
あーっダメだ。誤魔化そうとすればするほど不自然なリアクションを取ってしまう。勿論そんな俺にやましいことがあるなんてことは藍にはお見通しなようで「今日はたっぷり寝たから大丈夫。さ、行こっか」と爽やかスマイルで有無を言わさず押し切られた……なんか今日の藍、怖い。
学校に着いて下駄箱を開くと藍は「今日はラブレターないんだなー」とがっかりした様子で呟く。そんな藍に俺は励ますつもりで「そんな日もあるさ」と笑ってみせた。
「……あのさぁ眞白」
「うん?」
「最近眞白、時々朝早くに学校行ってるよね。でも俺が登校するといつも眞白に声を掛けられる。そんな日に限ってゆきちゃんからラブレターが届くんだよね。どうしてかな?」
いつもよりワントーン低いその声は絶対に藍本人のもののはずなのに俺の耳にはまるで知らない人の声みたいにきこえた。
「そん、なこと……俺に言われても」
しどろもどろになりながら返事をすると「ふうん、そっか」と吐き捨てられ冷たい目で藍に睨まれた。
それは朝から感じていた藍への謎の恐怖感が俺の中で限界突破した瞬間だった。もしかして……全部バレてる……っ?!
そう思うと「ひゅっ」と喉がなり、まず思ったのはここから逃げようということだった
何かここから逃げる理由を……と考えていると俺のそんな考えを見透かしたように藍に退路を塞がれた。壁ドンする藍かっこいい♡なんて思う余裕はまったくなかった。
「逃さないよ眞白」
嫌だ……
ゆきちゃんが俺だなんてバレたら藍に絶交される!怒った藍が皆に俺のこと言い触らして皆にからかわれて公開処刑にされる!
いや、この際皆にからかわれるのは良い。俺が何より怖いのは藍に拒絶されることだ……
「な、何?どうしたんだよ藍……っ」
喉がカラカラで、心臓はバクバク言ってて最早これが現実なのかどうかもわからないが何とか俺は一言声を発することができた
「どうしたんだよ、じゃないよ。ねえ?眞白。俺、前回ゆきちゃんからラブレターもらった時……見たんだよね。眞白が俺の下駄箱に何か入れるの。で、その後下駄箱を確認したらゆきちゃんからのラブレターが入ってたんだ。これってそういうことだよね?」
「……っ!」
そんな。ラブレターを出すときは細心の注意を払ってたはずなのに一番見られたくない相手に見られてたなんて……
だから藍は朝からあんな険しい顔して俺のこと待ち伏せしてたんだ。
きっと、俺がゆきちゃんだってわかって気持ち悪いって思ったよな。手紙に書いたことは全部俺の本音だけどかっこいいとか大好きとか俺なんかに言われても気持ち悪いだけだよな。
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