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ベアトリス!あなたと息子の婚約は破棄させます!
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私はエラ・オールドフィールド38歳。
貧しい貴族の出身でしたが、運良く16歳の時に夫のブラッドリーに見染められて結婚。伯爵夫人になりました。
結婚当時30歳だった夫は事業に成功しており、私は何不自由なく暮らせるようになりました。
結婚の翌年には妊娠し、息子を出産。私と夫によく似た美しい男の子で、二人ともそれはもう大喜び。息子を溺愛しました。
しばらくの間、幸せな暮らしが続きました。しかし次第に夫の事業がうまくいかなくなり、彼はお酒を浴びるように飲むようになりました。
そんな中、息子のジェームズが20歳になり、美しい商家の娘ベアトリス・ハンティントンと婚約が決まりました。
夫の事業が傾きかけていた事もあり、裕福な家の娘さんとの結婚で資金繰りに余裕が出来そうだと夫も喜んでいました。
そしてある日私は青白い顔をした息子に話があると言われました。結婚式を前にして幸せいっぱいなはずなのにどうしたのでしょう。
「お母様、僕は見てしまいました」
「一体何をです?」
「ベアトリスが……彼女が……」
「まあ、ベアトリスが一体どうしたというの?」
「彼女、お父様とこっそり会っていたんです」
夫とこっそり会っていた? ベアトリスが?
「どういう事なの?」
息子は涙を浮かべ言いました。
「僕にはこれ以上言えません。探偵を雇って調べさせて下さい」
あまりに突然の事でしたが、息子の顔を見るに冗談ではなさそうでした。それで私は、彼の気がすむのならと夫には内緒で探偵を雇いました。
「奥様、こちらが調査の結果です」
探偵は一週間と経たずに証拠の写真を提出してきました。
そして、そこには夫と息子の婚約者ベアトリスが口付けを交わす姿が……。それどころか、別の写真では彼らは裸でベッドの上に居たのです。
「なんてこと!」
私は気を失いそうになりましたが、なんとか気つけ薬を飲んで耐えました。
夫に対する怒り、そして愛する息子を騙したベアトリス嬢への怒りに震えました。
私は息子を呼び、こう告げました。
「あなたの言うことはよくわかりました。この婚約は、お母様が責任を持って破棄にいたしますわ」
そして、探偵に引き続き協力を仰ぎました。
ある晩、探偵の電話を受けて私と息子はあるホテルに駆けつけました。
「奥様、よろしいんですね?」
「ええ、やってちょうだい」
探偵はとある部屋のドアをノックしました。
「ルームサービスでございます」
「あら、ありがとう」
ベアトリスの気取った声が聞こえてドアが開きました。
そして、目の前に立つ私と息子を見て彼女は目玉が飛び出んばかりに驚いた顔をしました。
「な、なぜここに……!?」
「ごきげんよう、ベアトリス。主人はいるかしら」
「え、あ、ご主人が? そ、そんなまさか。いるわけがないじゃ――」
その時部屋の奥から夫の声がして彼が姿を現しましたり
「どうしたベアトリス、何をしてるんだ? 私は腹が減ってるん――な、なんだ!? どうしてお前たちここに――」
夫は私たち母子を見て顔面蒼白になりました。彼はバスローブ一枚に濡れた髪の毛という、なんの言い訳もできない姿だったのです。
「ベアトリス。あなたと息子の婚約は破棄させます。それから……」
呆然としている夫に向かって更に言います。
「あなたとの離婚については、弁護士を通して話し合いましょう。それじゃあ、二人とも風邪をひかないようにお気を付けて」
こうして私は息子の婚約を破棄させました。
「お母様、ありがとうございました」
「いいえ、いいのよ。それよりも、あなたこそ良いの? 私は両親を頼って田舎に帰ってもいいのよ?」
夫の事業はうまくいっていませんでしたが、息子が始めた会社の方は軌道に乗り始めていました。息子は私の面倒を見るとまで言ってくれたのです。
「お母様、僕は気が動転してしまって自分一人では今回のことをどうする事も出来ないところでした。感謝しています。ですから、どうか僕が未来の妻と結婚出来るまではそばにいさせて下さい」
end
貧しい貴族の出身でしたが、運良く16歳の時に夫のブラッドリーに見染められて結婚。伯爵夫人になりました。
結婚当時30歳だった夫は事業に成功しており、私は何不自由なく暮らせるようになりました。
結婚の翌年には妊娠し、息子を出産。私と夫によく似た美しい男の子で、二人ともそれはもう大喜び。息子を溺愛しました。
しばらくの間、幸せな暮らしが続きました。しかし次第に夫の事業がうまくいかなくなり、彼はお酒を浴びるように飲むようになりました。
そんな中、息子のジェームズが20歳になり、美しい商家の娘ベアトリス・ハンティントンと婚約が決まりました。
夫の事業が傾きかけていた事もあり、裕福な家の娘さんとの結婚で資金繰りに余裕が出来そうだと夫も喜んでいました。
そしてある日私は青白い顔をした息子に話があると言われました。結婚式を前にして幸せいっぱいなはずなのにどうしたのでしょう。
「お母様、僕は見てしまいました」
「一体何をです?」
「ベアトリスが……彼女が……」
「まあ、ベアトリスが一体どうしたというの?」
「彼女、お父様とこっそり会っていたんです」
夫とこっそり会っていた? ベアトリスが?
「どういう事なの?」
息子は涙を浮かべ言いました。
「僕にはこれ以上言えません。探偵を雇って調べさせて下さい」
あまりに突然の事でしたが、息子の顔を見るに冗談ではなさそうでした。それで私は、彼の気がすむのならと夫には内緒で探偵を雇いました。
「奥様、こちらが調査の結果です」
探偵は一週間と経たずに証拠の写真を提出してきました。
そして、そこには夫と息子の婚約者ベアトリスが口付けを交わす姿が……。それどころか、別の写真では彼らは裸でベッドの上に居たのです。
「なんてこと!」
私は気を失いそうになりましたが、なんとか気つけ薬を飲んで耐えました。
夫に対する怒り、そして愛する息子を騙したベアトリス嬢への怒りに震えました。
私は息子を呼び、こう告げました。
「あなたの言うことはよくわかりました。この婚約は、お母様が責任を持って破棄にいたしますわ」
そして、探偵に引き続き協力を仰ぎました。
ある晩、探偵の電話を受けて私と息子はあるホテルに駆けつけました。
「奥様、よろしいんですね?」
「ええ、やってちょうだい」
探偵はとある部屋のドアをノックしました。
「ルームサービスでございます」
「あら、ありがとう」
ベアトリスの気取った声が聞こえてドアが開きました。
そして、目の前に立つ私と息子を見て彼女は目玉が飛び出んばかりに驚いた顔をしました。
「な、なぜここに……!?」
「ごきげんよう、ベアトリス。主人はいるかしら」
「え、あ、ご主人が? そ、そんなまさか。いるわけがないじゃ――」
その時部屋の奥から夫の声がして彼が姿を現しましたり
「どうしたベアトリス、何をしてるんだ? 私は腹が減ってるん――な、なんだ!? どうしてお前たちここに――」
夫は私たち母子を見て顔面蒼白になりました。彼はバスローブ一枚に濡れた髪の毛という、なんの言い訳もできない姿だったのです。
「ベアトリス。あなたと息子の婚約は破棄させます。それから……」
呆然としている夫に向かって更に言います。
「あなたとの離婚については、弁護士を通して話し合いましょう。それじゃあ、二人とも風邪をひかないようにお気を付けて」
こうして私は息子の婚約を破棄させました。
「お母様、ありがとうございました」
「いいえ、いいのよ。それよりも、あなたこそ良いの? 私は両親を頼って田舎に帰ってもいいのよ?」
夫の事業はうまくいっていませんでしたが、息子が始めた会社の方は軌道に乗り始めていました。息子は私の面倒を見るとまで言ってくれたのです。
「お母様、僕は気が動転してしまって自分一人では今回のことをどうする事も出来ないところでした。感謝しています。ですから、どうか僕が未来の妻と結婚出来るまではそばにいさせて下さい」
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