【本編完結】嫌味な男と婚約させられた令嬢ですが、ある日その婚約者が猫になっていました

翠月 歩夢

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47.猫になった婚約者とケーキ

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「ライル様、これ、へクセからですわ」


 ラッピングされた箱に入っていた猫用のケーキをライルへ見せる。

 ケーキは小ぶりだが、艶々と光って繊細な飾りが上に乗っていた。


「け、ケーキか!?」


 ライルは目を輝かせて、ハウスから這い出てきた。

 尻尾が床と垂直にピンと伸びている。足取りも軽い。ワクワクしていて嬉しそうだ。

 意外と甘党なのかもしれない。ケーキが好きなのだろうか。


「なぜソルシエールが俺にケーキを?」
「……どうやら、呪いが上手く解けなかったことに対するお詫びみたいですわ」
「わざわざ手紙に記して、寄越すとは義理堅い奴だな」
「ええ……呪いのこと、かなり悪いと思っているようですね」
「それに、ソルシエールの奴意外と達筆だな。想像の何倍よりも綺麗だぞ」
「へクセは基本的になんでも上手ですからね。私よりもできるものも多いです」


 へクセはあの性格や言動から侮られやすいが、大抵のことはできる上に、上達が早く上手い。

 どこで覚えたのかは知らないが、舞踊や音楽、芸術、スポーツ、学問、武芸……私が見た限りでは全てできていた。貴族ならば教養として、教え込まれるのも理解できる。

 しかし、へクセは貴族ではない。魔女という異質な存在ではあるものの、それ以外は至って普通。

 へクセ曰く、誰かから習ったわけではないが、見て学び、いつの間にかできるようになっているらしい。羨ましい能力だ。


「カレンよりも……? ソルシエールの奴、個性強くないか?」
「ええ、まあ」
「知れば知るほど、侮れない男だな」
「そうですね。へクセは敵に回したくない人です」
「……それは……そうだな」


 苦々しい顔をしてライルは頷く。怒らないという約束を破って、呪いをかけられた時のことを思い出しているのだろう。


「それよりケーキだ! 早く食べたいぞ!」


 そわそわして突然落ち着きのなくなったライルにケーキを渡す。

 食べられる位置に来れば、ライルは我慢もせずに食べ始めた。相当食べたかったようだ。


「美味しいですか?」
「うむ!」
「それ、有名なパティシエが作った猫用ケーキのようですよ」
「む!? なぜソルシエールがそんなものを手配できるのだ!?」
「さぁ……なぜでしょうね」


 人用と動物用のケーキを作っているパティシエらしい。手紙に名前が記されていたが、私でも聞いたことのある名前だった。

 それほど有名な人ならば、すぐには手配できないはずだが……へクセはどうやってこれを手に入れたのだろう。ますますへクセの謎が深まる。だが、聞いたところで結局はぐらかされて分からないのだろうな。


「ともかく、美味いケーキを食べられてよかった」
「もう食べたのですか?」
「うむ。ソルシエールに礼を言っておいてくれ!」
「ええ……分かりました」


 少し目を離した隙に、全て食べ終えていた。それほど美味しかったのか。

 ご満悦なライルを見て微笑ましくなりながら、へクセに礼を述べる手紙をしたためた。
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