【完結】君の記憶と過去の交錯

翠月 歩夢

文字の大きさ
7 / 18
記憶を巡って

七話

しおりを挟む
「まずは零が覚えていることを整理しよう!」

「う、うん」



 今日は土曜日。現在太陽は東の方角にある。調べる時間を沢山とれるよう早めに公園に来たためだ。まず手始めに生前の情報を整理することから始めようという話になったわけである。


「ということで、自己紹介をお願いしますっ!」

「えぇっ!?」


 突然話を振られると思っていなかったらしい零は目を丸くして裏返った声を出した。恥ずかしそうに顔を背ける。軽く咳払いした後、改まった口調で話し始めた。


「えーと……俺の名前は零。多分生きている時にこの街に住んでいたと思う。後は……あっ、春ヶ咲高校に通ってたかな」


 自分の服装を見て付け加えるように春ヶ咲高校に通っていたということを告げ、一度コクリと頷くとそれっきり話さなくなった。これで終わりという合図だろう。分かってはいたが覚えていることが少なすぎる。だが今、気になる単語があった。


「……春ヶ咲高校?」


 春ヶ咲高校は私の通っている全校生徒三百人程の小さい学校の名称である。零を初めて見た時に制服がうちの高校のものではないかと思ったのをすっかり忘れていた。 そもそもここ周辺は田舎ということもあってか高校が春ヶ咲くらいしかない。春ヶ咲以外では少し遠い隣町にしか高校はない。つまり、この街に住んでいたのならそこに通うのが当然の流れだろう。


 それなら春ヶ咲高校の生徒を調べれば零の名前が出てくるはずだ。もし在籍していれば名前以外にも多くのことを知れるだろう。それに、零について知っている人も出てくるかもしれない。何故こんな単純な手を今の今まで思いつきもしなかったのか、不思議でならない。灯台下暗し……というやつだろうか。


「ねぇ、零って何歳?」

「えっと、確か……15歳かな。一年生だった気がする。制服も新しい感じがするし……」


 確認するため、制服に目を向ける。確かに、零の制服は真新しそうだ。零は自分の服装から記憶を探っているのか、自信なさげに答えているが、私から見ても零の推測は間違っていないように感じる。

 零の話を参考にすると、私と零は同級生。しかし、私の学年にも先輩にも思い当たる節はない。もし私と在籍時期が被っていれば、亡くなったという噂を接点がなくとも知ることになるだろう。そう考えると、少なくとも零はここ三年間の生徒ではないということになる。私が入学する前、ひょっとしたらかなり前の生徒という線もある。ずっと前の……春ヶ咲高校の生徒……。


「桜空? どうかしたの?」


 零は姿勢を低くし、覗き込むように目を合わせてきた。急に黙ったのを心配してくれたのだろう。瞳に不安そうな色が混じっている。


「ううん、何でもない!」


 変に気を遣わせてはいけない。にっこりと笑顔を作り明るく返事を返せば、零はそっかとだけ応じる。



 それからもう少し詳しく零と話して調べるべき情報を整理していった。零の家族構成、住所、在籍時の人間関係……手がかりになりそうなことを箇条書きにしてまとめていく。大体出尽くしたであろう時には、辺りは既に薄暗くなっていた。いつの間にか日が暮れていたのだ。これ以上遅くなっては危ないと零に諭され、私は一人帰路についた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...