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奪還編

第46部分 到着、そして潜入準備

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 俺たちは二日かけて『クライスト魔樹海』を抜けた。

「あれが『ジュラディーズ』か…………」

 まだ距離があるので詳細は分からないが、それでもその大きさは分かる。

 大型のドラゴンが中にいることを考えると当然のことかも知れない。

 それに厄介なのは場所だった。
 三方向を崖に囲まれている。
 唯一の道である正面の門には強固な城壁や深い堀が確認できる。

 大軍で攻め込んでも簡単には落とせない。
 まして、それを四人で突破するなんて論外だ。

 かといって、空からの潜入も難しそうだった。

「ワイバーンが飛んでいるな」

 レリアーナさんが望遠鏡を覗きながら、言った。

 ワイバーンなら強行突破できる。

 しかし、そんな派手な侵入をすれば、その後に『ジュラディーズ』の全戦力を相手にすることになるだろう。
 それに敵が王女様を人質にしてきたら、俺たちは何もできなくなる。

 だから、俺たちはこっそり潜入して、姫様を救い出す必要がある。



「何か策はあるのか?」
 レリアーナさんが尋ねる。


 俺は日暮れを待ち、ジュラディーズ下の崖に移動した。

「あります。穴を掘りましょうか」

 それを聞いたレリアーナさんが難しい表情になった。

「それは冗談か?」

「冗談じゃありませんよ、リザ、出来そうかい?」

「ちょっと堅そうだけど行けそうだ」

 リザは崖に手を当てる。
 穴が出来た。

「驚いた。こんなに精密な魔法を使えるのか?」
「私の半分はエルフ、魔力操作は得意だ。でも、この調子でジュラディーズまでのトンネルを作るのは難しいかもしれない」

「途中までで大丈夫だよ。中に広い空間が出来れば、俺に考えがあるんだ」
「んっ? そうなのか? 分かった」

 リザは洞窟を拡張していく。
 そして、俺の言った通りの広い空間を作ってくれた。

「さて、始めようか。『サンドワーム』を召喚」

 広い空間が必要だと言ったのは、こいつを召喚するためだった。

 サンドワーム
 レベル③属性(地) 召喚コスト1500
 攻撃力1000 体力2000
『地中の生物を土ごと飲み込んで捕食する。岩を嚙み砕く鋭い牙を持つ』

 見た目は巨大化した茶色のヤツメウナギのようだった。

 リザはあまり驚いていなかったが、香とレリアーナさんは引いていた。

「巨大ミミズですか!」と香が叫ぶ。
「長くてうねうね動く奴は苦手なんだ…………」と距離を取るレリアーナさん。

 心なしか、サンドワームがしゅん、とした気がする。

「ごめんな、俺はお前のことは嫌いじゃないから」

 ポンポン、とサンドワームの頭を触ると嬉しそうだった。

「ここから上に道を作ってくれないか? 出口は出来るだけ見つかりづらいところに頼むよ」

 俺の言葉を理解したサンドワームは穴を掘り始めた。

「リザ、崩れたらまずいからこの空間の土を強化できるか?」

「簡単」とリザは言う。

「さて、あとはサンドワームが道を繋げるのを待とうか」

「中に侵入できたとして、シャルロッテ様の居場所はどうやって見つけるつもりだ?」
 レリアーナさんが尋ねる。

「とりあえず侵入して柔軟に臨機応変に対応する」
 俺は視線を逸らしながら言った。

「なんだ、その抽象的で具体案の無い作戦は?」
 レリアーナさんが目を細めた。

「言い換えると行き当たりばったり、ってことだろ」
 リザは呆れ顔だった。

「おっ、今の突っ込みは調子が戻って来たんじゃないか?」
「あからさまに話題を逸らすな。この先の良い考えがないんだろ?」
「…………はい、ありません」

 一同少しの間、沈黙する。

「『魔狼の群れ』はどうですか?」
 香が提案する。

「いや、城内に普段見かけない狼が居たら、不審に思われる」

「じゃあ、もっと小さいモンスターはどうでしょうか?」

「いないこともないけど、監視を掻い潜るくらい小さいモンスターだと、探索や捜索に適しているとは思えないモンスターばかりだよ。…………あっ、そうか、見えなければいいんだ」

「何か手段があるのか?」とレリアーナさん。

「あるにはあるんですけど…………そうだ、俺一人で行ってきますね」
「いや、敵中に一人は危険すぎる。四人でいくことは出来ないのか?」
「いえ、出来なくはないんですけど…………」

 それは三人に申し訳ない。

「ハヤテ君、ここは敵のど真ん中だ。遠慮をして取り返しのつかないことになったら、私は悔やみきれない。私に出来ることは何でも言ってくれ」

「そうですよ。今まで一緒にやって来たのに水臭いじゃないですか」
 香もレリアーナさんに同意する。

「分かりましたよ。じゃあ、説明しますね。その上で断ることは認めますけど、やった上での苦情は受け付けませんからね」

 俺は作戦を説明した。
 なるべく無表情、真面目を装う。
 少しだけ楽しみとか、喜んでいるとかバレたら、あとで何をされるか分からない。
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