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序章

side ー 聖男 1

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《sideナルシス・アクラツ》

 僕の名前はナルシス・アクラツ。

 僕には秘密がある。

 誰も信じないことだけど、この世界は男女貞操概念が逆転した世界なんだ。
 何を言っているんだって? ふふ、僕はね。前世の記憶があるんだ。

 僕は前世で死を迎えて、この世界に転生したんだ。
 生まれたばかりの僕は十歳ぐらいだったかな。
 それから三年で自分の境遇について、理解することができた。
 
 僕はアクラツ男爵家の長男として生を受けた。
 男性が少ないので、女性の庇護下に入ることが義務付けられている。
 母さんに当たるアクラツ男爵は、僕を産んだことで狂ってしまった。

 男爵の爵位って、面倒でね。
 貴族だけど収入はあまりないんだ。
 それなのに税金だけはバカ高くて、貧乏は当たり前。
 だけど、男子が生まれたことで、他の家々が将来の僕への投資とばかりに、アクラツ男爵家に好意にするような手紙やプレゼント、金銀を送ってくる。

 僕を金ヅルって理解した母さんは狂ってしまった。
 送られてくる品物が悪ければ悪態をついて、高くて位がある人に媚びるようになった。
 
 見ていて気持ち悪い人だった。

 僕に対して金ズルだと思いながらも、まともな食事も与えない。
 殴る蹴るはなかったけど、十五歳になって成人を迎えたら、伯爵家に売り飛ばして一生遊んで暮らす契約を結ぼうとしていた。

 伯爵家には三人の女性がいて、全員がとんでもなくブサイクだった。

 いや、この世界では美人なのかな? だけど、前世の記憶がある僕からしたらありえない。
 人を見た目で判断するな? そんなことを言うなら変わってくれよ。

 僕は絶対に嫌だ。

 せっかく男が優遇されて、綺麗な女性がたくさんいる世界に転生したんだから、僕は美人でお金持ちな女の人と結婚したい。

「母さん、聞いて」
「ふん、なんだい?」
「僕ね。女王の花婿になりたいな」
「なっ! そんな大それたことが可能なはずがないだろ!?」
「そうかな? 母さん見てよ」

 十三歳になった体を母に見せた。
 男性に飢えているこの世界だ。
 それが母であろうと関係ない。
 痩せ細ってはいるけど、必死に食べられる物を食べて鍛えた体は飢えた女性にとっては綺麗に映るだろう。

「なっ! あっ、あんた」
「母さんはどんな男性と僕を作ってくれたの? 僕よりもかっこいい? それとも綺麗だった?」

 僕は鏡を見て、中性的で美しい容姿をしている自分の姿を知っている。

 それは女性たちにとって組み伏せやすく、自分の物にしたいという情欲を掻き立てる。

「あっああァァ」

 母さんは見た目は綺麗な人だったけど、お金の亡者になって狂ってしまってからは、次第に自分の美しさよりもお金を集めることだけに執着していった。

 そんな母さんだけど、僕は許すよ。

 だって、僕からしたら血の繋がった他人だから。

 体は血が繋がっているかもしれないけど、心は全くの別物。

「ねぇ、母さん。僕のお願い聞いてくれる?」
「あっ、ああ。ナルシスの好きにすればいいよ。どれだけお金が掛かろうと私がなんとかしてあげる。だから、私を愛しておくれ」
「もちろんだよ。僕は母さんを愛しているよ」

 僕は美しい。

 そして、この世界は男性が優位に立てる世界なんだ。
 なら、それを上手く使って成り上がってやるよ。

「ナルシス?」
「ねぇ、母さん。いらない物がたくさんあるよね。これを孤児院に寄付しよう」
「えっ? だけど」

 物に執着する母さんを説き伏せる。

「いいんだ。僕は女王様の花婿になるためには位が足りない」
「あっ」
「だから、もう一つ欲しいものがあるんだ」

 この世界には、聖女の代わりになる聖なる男と呼ばれる称号がある。

 聖男。

 神様に認められた聖なる男性だそうだ。

 別に特別な力があるわけじゃない。
 聖人君子のように、笑顔を絶やすことなく女性に優しくすれば、自ずと呼ばれるようになる。

 他の貴族から送られてくる品物は全てが消費できたり、使える物ばかりじゃない。それらの処分ができて、感謝されるなら、これほど効率がいい慈善事業はないよね。

「そうだ。母さん。伯爵様にはお断りをしておいて。僕は伯爵程度で収まる器じゃないんだ」
「あっ、ああ、わかったよ。ナルシスは女王陛下の花婿になる男だ」

 ふふ、母さんは狂っている。
 そして、僕に溺れている。
 もう僕なしでは生きてはいけないだろう。

 だけど、僕にとっては母さんも踏み台に過ぎない。

 狙うのはこの国の頂点。

 そのために邪魔になるならどんな相手でも蹴落としてやる。

 上位貴族? 男性貴族?

 ふふ、そいつらはこの国で生まれて、この国のルールで生きているんでしょ? なら僕が負けるはずがないよ。
 
 だって、僕には前世の知識があるだけじゃない。

 手が光を帯びていく。

 それは、僕を聖なる男として祭り上げてくれるためのもう一つの力。

「男は魔力が低い? それは幼い頃から練習をしないでサボってばかりいるからだろ? 男なんだ。魔力も筋力も女性よりも強くなる。僕は三年間、筋トレも魔力トレーニングも怠ったことはない。その辺の男が束になっても負ける気がしないね」

 あ~、楽しみだな。

 あと二年もしたら、貴族の女性だけが通える学園がはじまるだって。
 そこは女性たちの楽園でありながら、男性が数名通うことが許されている。
 それは上位貴族の女性たちが未来の花婿をゲットするためだそうだ。

 くくく、なら僕が全ての女をいただいてやるよ。

 他の男なんて、醜く太って相手にもならない。

 この力があれば脅してどうとでもなるはずだ。

 あ~、未来を思うと楽しくて仕方ないなぁ~。
 それまでしっかりと準備をしておくけどね。
 勉強も、魔法も、爪は磨いておくに限る。
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