貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子

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タルの街

さあ、捕縛劇の始まりだ!

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足音の主は、ザラムさんだった。そろそろあいつらの到着時間が近づいてきたので、詰め所からこちらに来たのだ。衛兵さんたちもギルドの外と中に待機中だという。

「やつらは、どの辺まで来た?」

「森を抜けて街道をこっちに向かってる。東門が近いな」

「わかった。伝える」

そう言って、ザラムさんは慌ただしく出ていった。

「さて、そろそろ私も下で待つことにしましょう。ガルドとシャナは、ここにいてください。シャナ、ガルドが下に来ても、ここにひとりでおとなしく・・・・・待っていられますか?」

コクン。

「良い子です」

リールさんは、あたしの頭をひとなでして、下へ行った。なんだか慌ただしい雰囲気に不安になり、緊張してきたわたしは、思わずガルの服をぎゅっと握りしめた。

「大丈夫」

そう言って、わたしの背中をポンポンしながら、頭の上にキスをおとす。先程までの緊張と不安は散務したが、今度はその甘さに居たたまれなくなったのだった。






その頃ギルドの1階では・・・・。

「陽も高いうちから、依頼も受けずにぐうたらしているなんて、良い身分ですね。あぁ、ランクが足りなくて、依頼を受けれないのですね。でしたら、今日はちょうどザラムも居ることですし、稽古をつけてもらっては、如何ですか?地下の練習場が空いていますよ」

ニッコリと笑ってリールは、そう提案した。それを聞いた俺も良い笑顔で周りの冒険者たちを見回した。

「あぁ、そりゃいい。ここのところ忙しくて、外に出れなかったからな。身体が鈍っちまう」

だが、それを聞いたその場にたむろしていた冒険者たちは・・・・、真っ青になってこっそりとギルドを出ていく者、バタバタと慌てて逃げていく者、嬉々としてその提案に乗ってくる者と様々に反応した。さすがに高ランクの冒険者たちは、リールと俺の微かな殺気に鋭く気づき、リールが何か言う前にさっさとギルドを出ていったがな。提案に乗ってきた者は、その殆どが、駆け出しのルーキーで、俺の扱きの過酷さを知らないものばかりだった。ニヤリと自分の口角が上がるのが分かった。

余分な冒険者たちを追い払い、結局ギルドの1階に残ったのは、冒険者の格好をした衛兵だけになった。


そして、5の鐘が鳴るころ、件の冒険者たちが、ギルドにやって来た。

俺は、地下にやって来た冒険者たちに足腰がたたなくなるほど稽古をつけた後、地下から出てこれないように出入り口に施錠の魔法を掛け、平然とカウンターの内側に身を隠している。ここなら全体が見渡せるし、奴等には見えない。冒険者の格好をした衛兵たちも同様に出入り口を塞ぐようにさりげなく移動している。





ガルは、ずっとわたしを膝の上に乗せて、頭に頬をつけてスリスリしたりしていた。抵抗したが無駄だった。が・・・・。

「来たようだな」

扉に視線を送る。

「うん」

「俺は下に降りるが、シャナはここにいろ。絶対降りてくるなよ」

「わかった」

神妙に答えるが、ガルの表情が、本当かよ?と言っている。

「ちゃんとおとなしくここに・・・居るよ!」

失礼なことにガルは、「ハァ」というとため息と共に出ていった。

失礼な!この部屋で、盗み聞きするだけだよ!
どうなるか、気になるじゃん!

わたしは、魔法でこの部屋に下からの声が届くようにした。





ガルドを毒殺しようとした奴等が来た。来ると分かっていても、実際に見るまでは半信半疑だった。自分達が殺したと思っている奴が所属しているかもしれないギルドに来るとは思えないだろう?アホな奴等だ。そいつらに殺されかけたガルドもアホだな。俺は、奴等の様子が見えるカウンターの死角に潜んで、やり取りを見守った。何も知らない4人の冒険者たちは、討伐した魔物の換金をしようとカウンターのギルド嬢のところにいる。

「よう、魔物の買い取りを頼む。女はお前だけなのか?」

「畏まりました。今日はみんなお休みなんですよ。普段は、3人はいるんですけどね。母親が急病で来れなくなった子がいますから、仕方ないですね。では、討伐した魔物を出してもらっても?」

これは、本当に偶然だ。

「そうか。お前さんも大変だな。2体なんだが、ちと大きいんだ」

「討伐した魔物は、なんでしょうか?」

「コカトリスとファイヤーバードだ」

「それは・・・・、大物ですね。では、倉庫にお願いします。倉庫はあちらです。中に解体のカウンターがありますので、そちらに出して、証明書をもらってください」

「わかった」

カウンターにきた男だけが倉庫へと入っていく。他の3人は、カウンター付近に残った。予定通りだ。



倉庫へ行った男が、証明書をもらって戻ってきた。そこに先程の女性はおらず、笑顔でリールが座っている。他のカウンターも全員衛兵だ。

「さっきの姉ちゃんはどうした?」

「彼女でしたら、外にお使いに行きましたよ。夕飯の買い出しですね。それに今しか買えないスイーツがもう少しすると店頭に並ぶらしくて、急いで出ていきました」

これは、半分本当で半分は嘘だ。彼女の理由を利用して避難させた。

「・・・・、買い取り頼む」

男は、少し疑いながらも他のメンバーの様子から納得したようだ。

「パーティー全員のギルドカードをお預かりします」

男以外のメンバーもカードを渡す。パーティーでの討伐では、全員分のカードが必要だ。

「おや、コカトリスにファイヤーバードですか。Dランクのパーティーにしては、大物ですね」

コカトリスはCランク、ファイヤーバードはAランクの魔物だ。

「文句でもあるのかよ!」

男はいきりたった。仲間も腰の剣に手を掛けたり、詠唱を始めている。相手が男だということで、警戒を強めているうだ。それにしてもいきなり、臨戦態勢とはアホだな。

「いえいえ、とんでもありません。これだけの実力なら昇級可能だと思いましたので。どうですか?昇級しませんか」

ニッコリとリールは提案した。男たちは、顔を見合せ、ニヤリと笑い合っている。

「ああ、してやっても・・・・・・いいぜ」

「そうですか!していただけますか!昇級試験は、昨日、下位の冒険者が見かけたと言う、オークキングの群れの討伐をお願いします。オークキングとオーク数体の小規模な群れです」

「俺たちなら簡単だな」

他のメンバーも相変わらずニヤニヤと同意している。バカな奴等だ。

「今はたまたま、中・高ランクの冒険者が出払っていて、困っていたんですよ。ファイヤーバードを倒すだけの実力があるパーティーにこんな簡単な昇級試験で申し訳ありません。場所は、この辺りですね」

にこやかにそう言って、リールは、おもむろに地図で場所を示す。最初は乗り気だった男たちは、地図で場所を確認したとたん、顔を青くした。

「やっぱり、今回は辞めておくよ」

「おや、何故です?簡単な試験で昇級できるのですよ」

「なんでもだ。理由なんかねぇ!」

バン!とカウンターに手を叩きつけた。他のメンバーも頷く。

「都合の悪いことでもあるのですか?」

リールは、スッと目を細め更に追い詰めていく。

「そんなんじゃねぇ。とっとと買取を終わらせろ、つってんだろ!」

バン!

カウンターを叩いて急かしてくる。そうだそうだ、とばかりに他のメンバーもリールをねめつける。

「そうはいきません。一度昇級試験に同意し、内容を聞いたのですから。中止すると言うなら、ペナルティーが発生しますよ」

これは、正しい。昇級試験を選べなくするためだ。

「なんだと!俺たちは、昇級してやってもいい、と言っただけで、試験を受けるなんざぁ、言ってねえよ」

フッと笑うと勝ち誇ったように嗤った。

「ほぉ」

リールは、目を眇て軽く殺気を込めて4人を見た。4人は、青ざめてガタガタと震え始める。

「この程度の殺気で、そのような有り様では、とうていコカトリスやファイヤーバードなど倒せませんよ」

更に殺気を放つ。男たちは、その場にへたりこみそうなほどだ。あの程度の殺気で怯えるなよ。それでも震える声で、言い募った。

「そのに・・・・2体が・・よわ・・・・弱かった・ん・・・・じゃな・・・・いか」



「ほぉ、それなりには手応えがあったがな」

そこに不適な笑みを称えたガルドが姿を顕した。
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