1 / 103
プロローグ
もうひとりの私
しおりを挟む
ここは?病院?
気が付くと私は病院のベッドにいた。腕には点滴が刺さっている。身体中が痛いというか怠いというか、動かしづらい。
あれ?なんで病院なんかにいるの?何があった?
考えると頭が痛くなる。何故、病院にいるのか思い出せない。ぼーっとしていると病室の扉が開いた。首だけ回してそちらを見る。
「藤井さん、入りますよ。え!!!!!!」
白衣を着た看護士と思われる女の人が目を見開いて私を凝視していた。
「あの」
「藤井さん!目が覚めたんですね。よかった」
看護士さんはそそくさとナースコールで担当医を呼び出すと、私の家族に連絡をすると病室を出ていった。
「藤井さん。私は担当医の高梨と言います」
貫禄のある優しそうな先生だ。
「はあ」
「ご自分の状況は理解されていますか?」
「いいえ、全く。私は何故、病院にいるんですか?ここ、病院ですよね?」
「事故に遭われたことは覚えていますか?」
「事故、ですか?」
「はい。3月前」
「はいぃ?!!!」
3月前って言った、今?思わず話を遮ってしまうほどビックリしてしまった。
「ふむ。お名前は覚えていますか?」
私の反応に高梨先生は話題を変えた。
「藤井里英」
「職業は?」
「薬局で薬剤師をしています」
3月も仕事を休んだのだから、もう首になっているかもしれない。
「家族は?」
「兄夫婦と姪がふたりです。両親は他界しました」
「記憶に問題はなさそうですね。事故の記憶だけが抜けているようですが、これは、よくあることですから心配しなくていいですよ。ショックで記憶に蓋をしてしまうんです。生活に支障もなさそうですし、無理に思い出す必要もないでしょう」
事故に遭ったんだ。3月も眠ってたなんて・・・・。
「身体は幸い臓器に損傷はなく、足の骨折もこの3月で治っていますから、今後は体力を取り戻すことと歩くためのリハビリをしていきましょう」
その後、私が目覚めたと聞いて来てくれた兄夫婦に詳しく話を聞いたが、高梨先生とほとんど同じ説明だった。意識を取り戻した私は、翌日、個室から大部屋に移った。食事はお粥のような流動食に近いものばかりだ。3月も点滴だったんだから仕方ないか。ああ、お肉が食べたい。ケーキもついてくると更に嬉しい。コーヒーも暫くはお預けだ。何日かすると職場の同僚や店長、主任らがお見舞いに来てくれた。仕事は長期休養としてくれていて、歩けるようになれば復帰できるということだった。有り難いことだ。1月のリハビリの後、普通に歩けるようになった私は、無事に退院し、職場に復帰した。
私をよく知る人は、人が変わったみたいだと言う。私にその自覚はない。ただ・・・・。ふとしたときに心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じる。何かが足りないような、言い様のない漠然とした喪失感がつきまとう。
「前の里英だったら、絶対に選ばなかったよね」
「そうそう。意外と面食いっていうかさ」
「そうだったかなぁ。穏やかでいい人だよ」
「そういう人を選ぶような年になったってことじゃない」
「玉の輿だし」
「ああ。私ももっと粘ればよかったかなぁ」
「何言ってるの。子供3人も産んどいてさ」
「子供ね、かわいいんだよ。かわいいんだけど、中学生にもなると生意気で、腹が立つことの方が多くなる」
実は、私は半年後、担当医だった高梨さんと結婚する。なんだかとっても魅かれたのだ。あちらも同じだったと後から聞いた。救急車で運ばれてきた私に一目惚れしたとか。血塗れの怪我人に一目惚れとかちょっとあり得ないと思ったのは内緒だ。お互いに初婚。訳ありでは?とお互いに、お互いの周りから余計なお世話も受けたけれど、ちゃんと話をしてそういうわけではないと知っている。なにより、彼が誠実なのはお付き合いしてすぐに分かった。年齢も年齢だし、籍を入れるだけで式はしない。ただ、ウェディングドレス姿を見たいという乙女チックな高梨さんの要望を加味して、写真だけは撮ろうということになった。恥ずかしい気持ちもあるけれど、記念に。幸せだ、本当に。
私は、この人とこの世界で生きていく。この喪失感もいずれこの人が埋めてくれるだろう。私は一生気付かない。産まれる前からずっと一緒にいたかけがえのない存在が、私から離れてしまったことに。そして、その存在のお蔭でこうして無事でいられたことに。
気が付くと私は病院のベッドにいた。腕には点滴が刺さっている。身体中が痛いというか怠いというか、動かしづらい。
あれ?なんで病院なんかにいるの?何があった?
考えると頭が痛くなる。何故、病院にいるのか思い出せない。ぼーっとしていると病室の扉が開いた。首だけ回してそちらを見る。
「藤井さん、入りますよ。え!!!!!!」
白衣を着た看護士と思われる女の人が目を見開いて私を凝視していた。
「あの」
「藤井さん!目が覚めたんですね。よかった」
看護士さんはそそくさとナースコールで担当医を呼び出すと、私の家族に連絡をすると病室を出ていった。
「藤井さん。私は担当医の高梨と言います」
貫禄のある優しそうな先生だ。
「はあ」
「ご自分の状況は理解されていますか?」
「いいえ、全く。私は何故、病院にいるんですか?ここ、病院ですよね?」
「事故に遭われたことは覚えていますか?」
「事故、ですか?」
「はい。3月前」
「はいぃ?!!!」
3月前って言った、今?思わず話を遮ってしまうほどビックリしてしまった。
「ふむ。お名前は覚えていますか?」
私の反応に高梨先生は話題を変えた。
「藤井里英」
「職業は?」
「薬局で薬剤師をしています」
3月も仕事を休んだのだから、もう首になっているかもしれない。
「家族は?」
「兄夫婦と姪がふたりです。両親は他界しました」
「記憶に問題はなさそうですね。事故の記憶だけが抜けているようですが、これは、よくあることですから心配しなくていいですよ。ショックで記憶に蓋をしてしまうんです。生活に支障もなさそうですし、無理に思い出す必要もないでしょう」
事故に遭ったんだ。3月も眠ってたなんて・・・・。
「身体は幸い臓器に損傷はなく、足の骨折もこの3月で治っていますから、今後は体力を取り戻すことと歩くためのリハビリをしていきましょう」
その後、私が目覚めたと聞いて来てくれた兄夫婦に詳しく話を聞いたが、高梨先生とほとんど同じ説明だった。意識を取り戻した私は、翌日、個室から大部屋に移った。食事はお粥のような流動食に近いものばかりだ。3月も点滴だったんだから仕方ないか。ああ、お肉が食べたい。ケーキもついてくると更に嬉しい。コーヒーも暫くはお預けだ。何日かすると職場の同僚や店長、主任らがお見舞いに来てくれた。仕事は長期休養としてくれていて、歩けるようになれば復帰できるということだった。有り難いことだ。1月のリハビリの後、普通に歩けるようになった私は、無事に退院し、職場に復帰した。
私をよく知る人は、人が変わったみたいだと言う。私にその自覚はない。ただ・・・・。ふとしたときに心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じる。何かが足りないような、言い様のない漠然とした喪失感がつきまとう。
「前の里英だったら、絶対に選ばなかったよね」
「そうそう。意外と面食いっていうかさ」
「そうだったかなぁ。穏やかでいい人だよ」
「そういう人を選ぶような年になったってことじゃない」
「玉の輿だし」
「ああ。私ももっと粘ればよかったかなぁ」
「何言ってるの。子供3人も産んどいてさ」
「子供ね、かわいいんだよ。かわいいんだけど、中学生にもなると生意気で、腹が立つことの方が多くなる」
実は、私は半年後、担当医だった高梨さんと結婚する。なんだかとっても魅かれたのだ。あちらも同じだったと後から聞いた。救急車で運ばれてきた私に一目惚れしたとか。血塗れの怪我人に一目惚れとかちょっとあり得ないと思ったのは内緒だ。お互いに初婚。訳ありでは?とお互いに、お互いの周りから余計なお世話も受けたけれど、ちゃんと話をしてそういうわけではないと知っている。なにより、彼が誠実なのはお付き合いしてすぐに分かった。年齢も年齢だし、籍を入れるだけで式はしない。ただ、ウェディングドレス姿を見たいという乙女チックな高梨さんの要望を加味して、写真だけは撮ろうということになった。恥ずかしい気持ちもあるけれど、記念に。幸せだ、本当に。
私は、この人とこの世界で生きていく。この喪失感もいずれこの人が埋めてくれるだろう。私は一生気付かない。産まれる前からずっと一緒にいたかけがえのない存在が、私から離れてしまったことに。そして、その存在のお蔭でこうして無事でいられたことに。
98
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる