貴方の隣で私は異世界を謳歌する

紅子

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プロローグ

もうひとりの私

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ここは?病院?

気が付くと私は病院のベッドにいた。腕には点滴が刺さっている。身体中が痛いというか怠いというか、動かしづらい。

あれ?なんで病院なんかにいるの?何があった?

考えると頭が痛くなる。何故、病院にいるのか思い出せない。ぼーっとしていると病室の扉が開いた。首だけ回してそちらを見る。

「藤井さん、入りますよ。え!!!!!!」

白衣を着た看護士と思われる女の人が目を見開いて私を凝視していた。

「あの」

「藤井さん!目が覚めたんですね。よかった」

看護士さんはそそくさとナースコールで担当医を呼び出すと、私の家族に連絡をすると病室を出ていった。

「藤井さん。私は担当医の高梨と言います」

貫禄のある優しそうな先生だ。

「はあ」

「ご自分の状況は理解されていますか?」

「いいえ、全く。私は何故、病院にいるんですか?ここ、病院ですよね?」

「事故に遭われたことは覚えていますか?」

「事故、ですか?」

「はい。3月前」

「はいぃ?!!!」

3月前って言った、今?思わず話を遮ってしまうほどビックリしてしまった。

「ふむ。お名前は覚えていますか?」

私の反応に高梨先生は話題を変えた。

「藤井里英」

「職業は?」

「薬局で薬剤師をしています」

3月も仕事を休んだのだから、もう首になっているかもしれない。

「家族は?」

「兄夫婦と姪がふたりです。両親は他界しました」

「記憶に問題はなさそうですね。事故の記憶だけが抜けているようですが、これは、よくあることですから心配しなくていいですよ。ショックで記憶に蓋をしてしまうんです。生活に支障もなさそうですし、無理に思い出す必要もないでしょう」

事故に遭ったんだ。3月も眠ってたなんて・・・・。

「身体は幸い臓器に損傷はなく、足の骨折もこの3月で治っていますから、今後は体力を取り戻すことと歩くためのリハビリをしていきましょう」

その後、私が目覚めたと聞いて来てくれた兄夫婦に詳しく話を聞いたが、高梨先生とほとんど同じ説明だった。意識を取り戻した私は、翌日、個室から大部屋に移った。食事はお粥のような流動食に近いものばかりだ。3月も点滴だったんだから仕方ないか。ああ、お肉が食べたい。ケーキもついてくると更に嬉しい。コーヒーも暫くはお預けだ。何日かすると職場の同僚や店長、主任らがお見舞いに来てくれた。仕事は長期休養としてくれていて、歩けるようになれば復帰できるということだった。有り難いことだ。1月のリハビリの後、普通に歩けるようになった私は、無事に退院し、職場に復帰した。


私をよく知る人は、人が変わったみたいだと言う。私にその自覚はない。ただ・・・・。ふとしたときに心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じる。何かが足りないような、言い様のない漠然とした喪失感がつきまとう。

「前の里英だったら、絶対に選ばなかったよね」

「そうそう。意外と面食いっていうかさ」

「そうだったかなぁ。穏やかでいい人だよ」

「そういう人を選ぶような年になったってことじゃない」

「玉の輿だし」

「ああ。私ももっと粘ればよかったかなぁ」

「何言ってるの。子供3人も産んどいてさ」

「子供ね、かわいいんだよ。かわいいんだけど、中学生にもなると生意気で、腹が立つことの方が多くなる」

実は、私は半年後、担当医だった高梨さんと結婚する。なんだかとっても魅かれたのだ。あちらも同じだったと後から聞いた。救急車で運ばれてきた私に一目惚れしたとか。血塗れの怪我人に一目惚れとかちょっとあり得ないと思ったのは内緒だ。お互いに初婚。訳ありでは?とお互いに、お互いの周りから余計なお世話も受けたけれど、ちゃんと話をしてそういうわけではないと知っている。なにより、彼が誠実なのはお付き合いしてすぐに分かった。年齢も年齢だし、籍を入れるだけで式はしない。ただ、ウェディングドレス姿を見たいという乙女チックな高梨さんの要望を加味して、写真だけは撮ろうということになった。恥ずかしい気持ちもあるけれど、記念に。幸せだ、本当に。



私は、この人とこの世界で生きていく。この喪失感もいずれこの人が埋めてくれるだろう。私は一生気付かない。産まれる前からずっと一緒にいたかけがえのない存在が、私から離れてしまったことに。そして、その存在のお蔭でこうして無事でいられたことに。
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