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学院編
デビュタント
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今日は、デビュタントする者たちのために王家が開く夜会の日。俺は、オーシャック侯爵家にルナを迎えに来たのだ。
「バウンキース殿下。ようこそおいでくださいました」
「バルス。出迎えありがとう。お祖父様は?」
俺は、今年15歳になったルナに合わせて、今日デビュタントを迎える。マリーは去年ナージュと共に、レン兄様は、一昨年アンジェリーナ嬢と共にデビュタントした。ネルロワイエ異母兄は15歳で王妃様をエスコートしてデビュタントしたらしい。何故、アンジェリーナ嬢に合わせなかったかは、誰にも分からない。王妃様たちのやることは理解できないことが多い。
「もうきおったのか、キース。まだ時間には早いぞ?ルナは支度中だ」
「少しでも早くルナに会いたいからね」
「相変わらずだな」
「お祖父様もルナと踊るでしょ?」
「もちろんだ。ベンジャミンに自慢せねばならんからな」
「フフ。それなら、俺もデビュタントでエスコートしたことを自慢できるな」
俺たちは、こうやってよく亡きオーシャック侯爵のことを話題にする。ルナに哀しい思い出として欲しくないからだ。お祖父様といろんな話で盛り上がっていると、扉がノックされた。
「お祖父様。キース様」
恥ずかしげに扉から顔を出したのはルナ。俺の贈ったデビュタント用の白いドレスと俺の瞳の色の宝石で作った装飾品を身に着けている。もうね。妖精と見紛うくらい可憐で思わず惚けてしまった。
「あの、変ですか?」
俺としたことが、見惚れすぎてルナを不安にさせるなんて。お祖父様は隣で涙ぐんでいた。
「妖精が顕れたのかと思って、見惚れてた」
不安だったルナの表情が、照れたような微笑みに変わった。うん。誰にも見せたくないな。
「ああ。とても綺麗だ。ベンジャミンが向こうで羨ましがっとるぞ」
「そうだと嬉しいですわ」
「さあ、お手を。俺の妖精姫」
俺は、恭しくルナに手を差し伸べた。はにかみながらのせられたルナの指先に口づける。花が開いたような微笑みに目を奪われた。
「お祖父様、ルナが可憐すぎて危険です。デビュタント、辞めませんか?」
「何馬鹿なことを言っとるか。孫娘のこと、よろしく頼んだぞ」
デビュタントしなくては、ルナと婚姻できない。仕方なく、ルナを連れて夜会に臨んだ。控え室にはマリーとナージュ、レン兄様とアンジェリーナ嬢が既にいて、適度に寛いでいた。俺は、腐っても王族だから、入場は最後に近い。
「ルナ。緊張してる?」
「はい」
緊張からかルナの指が少し冷たい。
「あら、キースから離れなければ大丈夫よ。わたくし達も近くにいるわ」
「デビュタントですもの。緊張しますわよね」
初々しいルナをふたりは微笑ましそうに見ている。
「ねぇ、そのドレス。キースでしょう?そういうセンスはあるのよね。今期はそれが流行りそうよ」
マリーがルナのドレスに注目した。ルナのドレスは踊ると妖精が羽根を広げたように見える。そうなるようにデザイナーと試行錯誤した逸品だ。
「とても素敵ですわ。ルナによく似合ってましてよ」
女性たちで楽しそうにしているのを横目に見ながら、俺はコソッとふたりに注意喚起した。
「ナージュ。マリーのそばを絶対に離れるなよ?レン兄様もアンジェリーナ嬢をひとりにしないようにな」
「キース?」
何かあるのか?とレン兄様の目が聞いてくる。
「招待されてないはずのミナレア王女がこちらに向かってきている。ネルロワイエ異母兄のパートナーだろうな」
レン兄様は、天を仰いでしまった。デビュタントのためのこの夜会は、国内の貴族だけに招待状が送られている。たとえ、親類縁者であろうとも、国外の者は参加できない規則になっている。それを堂々と破るネルロワイエ異母兄と王妃様にこの国の常識も慣例も通用しないだろう。この夜会、何事もなく終わればいいな。
「バウンキース殿下。ようこそおいでくださいました」
「バルス。出迎えありがとう。お祖父様は?」
俺は、今年15歳になったルナに合わせて、今日デビュタントを迎える。マリーは去年ナージュと共に、レン兄様は、一昨年アンジェリーナ嬢と共にデビュタントした。ネルロワイエ異母兄は15歳で王妃様をエスコートしてデビュタントしたらしい。何故、アンジェリーナ嬢に合わせなかったかは、誰にも分からない。王妃様たちのやることは理解できないことが多い。
「もうきおったのか、キース。まだ時間には早いぞ?ルナは支度中だ」
「少しでも早くルナに会いたいからね」
「相変わらずだな」
「お祖父様もルナと踊るでしょ?」
「もちろんだ。ベンジャミンに自慢せねばならんからな」
「フフ。それなら、俺もデビュタントでエスコートしたことを自慢できるな」
俺たちは、こうやってよく亡きオーシャック侯爵のことを話題にする。ルナに哀しい思い出として欲しくないからだ。お祖父様といろんな話で盛り上がっていると、扉がノックされた。
「お祖父様。キース様」
恥ずかしげに扉から顔を出したのはルナ。俺の贈ったデビュタント用の白いドレスと俺の瞳の色の宝石で作った装飾品を身に着けている。もうね。妖精と見紛うくらい可憐で思わず惚けてしまった。
「あの、変ですか?」
俺としたことが、見惚れすぎてルナを不安にさせるなんて。お祖父様は隣で涙ぐんでいた。
「妖精が顕れたのかと思って、見惚れてた」
不安だったルナの表情が、照れたような微笑みに変わった。うん。誰にも見せたくないな。
「ああ。とても綺麗だ。ベンジャミンが向こうで羨ましがっとるぞ」
「そうだと嬉しいですわ」
「さあ、お手を。俺の妖精姫」
俺は、恭しくルナに手を差し伸べた。はにかみながらのせられたルナの指先に口づける。花が開いたような微笑みに目を奪われた。
「お祖父様、ルナが可憐すぎて危険です。デビュタント、辞めませんか?」
「何馬鹿なことを言っとるか。孫娘のこと、よろしく頼んだぞ」
デビュタントしなくては、ルナと婚姻できない。仕方なく、ルナを連れて夜会に臨んだ。控え室にはマリーとナージュ、レン兄様とアンジェリーナ嬢が既にいて、適度に寛いでいた。俺は、腐っても王族だから、入場は最後に近い。
「ルナ。緊張してる?」
「はい」
緊張からかルナの指が少し冷たい。
「あら、キースから離れなければ大丈夫よ。わたくし達も近くにいるわ」
「デビュタントですもの。緊張しますわよね」
初々しいルナをふたりは微笑ましそうに見ている。
「ねぇ、そのドレス。キースでしょう?そういうセンスはあるのよね。今期はそれが流行りそうよ」
マリーがルナのドレスに注目した。ルナのドレスは踊ると妖精が羽根を広げたように見える。そうなるようにデザイナーと試行錯誤した逸品だ。
「とても素敵ですわ。ルナによく似合ってましてよ」
女性たちで楽しそうにしているのを横目に見ながら、俺はコソッとふたりに注意喚起した。
「ナージュ。マリーのそばを絶対に離れるなよ?レン兄様もアンジェリーナ嬢をひとりにしないようにな」
「キース?」
何かあるのか?とレン兄様の目が聞いてくる。
「招待されてないはずのミナレア王女がこちらに向かってきている。ネルロワイエ異母兄のパートナーだろうな」
レン兄様は、天を仰いでしまった。デビュタントのためのこの夜会は、国内の貴族だけに招待状が送られている。たとえ、親類縁者であろうとも、国外の者は参加できない規則になっている。それを堂々と破るネルロワイエ異母兄と王妃様にこの国の常識も慣例も通用しないだろう。この夜会、何事もなく終わればいいな。
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