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2年生、始まる

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お兄様が卒業し、私たちは2年生なりました。今年は、レオナルド様の従妹が入学されます。本来なら、レオナルド様が案内役として王都の自宅からその方を案内するのですが・・・・。私とレオナルド様は、社交シーズンの終わった2の月の半ばに一緒に学園に戻ってきています。レオナルド様は、その従妹と魔力相性が非常に悪く、案内どころか、体調不良を起こしてしまうため、従妹がやって来る前に学園に避難することになったからです。学園の寮は、社交シーズンに関わらず一年中滞在可能ですから問題ありません。

「ロッテ。付き合わせてごめんね」

「構いませんわ。レオと居られるのは嬉しいですから」

「フフフ。私もロッテと居られるのは嬉しい。早く4年生になりたいよ」

「ま、まだ2年あります」

4年生になると仮婚約から婚約になった者は一緒の部屋で暮らせるのです。所謂、同棲というやつですが、過去世の経験から男性のあれこれを知っている者としては、そんな思春期に大丈夫なのかなぁ?と不安になってしまいます。

真っ赤になった私を「可愛い」とぎゅうしてくるレオナルド様に、一年強もの間我慢できるのか疑問が湧くのは仕方ないと思うのです。何故なら、双方とも19歳の誕生日を迎えるまで、結婚はできませんし、それまでは純潔であれ、というのが貴族の中では暗黙の了解なのです。なのに、同棲はOKなんて、矛盾してませんか?

「きっとロッテには嫌な思いもさせると思うんだ」

レオナルド様は私をいつものようにふんわりと、ではなく、ぎゅうっと痛くなるほど強く抱き締めてきました。

「お願い。嫌いにならないで」

掠れた声が私の耳を掠めました。

これ、ちょっと不味いかも。かなり精神的に不安定になっている気がします。いつもの余裕が全くありません。子供の頃一度だけこんなふうになったことがあったのを思い出しました。

あれは・・・・。




8歳の秋。

レオナルド様は誕生日を半年程過ぎ、魔力相性をはっきりと感じられるようになったと聞いた翌週のこと。

いつものようにお昼を過ぎた頃、レオナルド様がアーデルとやって来ました。裏庭でレオナルド様を待っていると、突然、挨拶もなく出迎えのために立っている私に無言でぎゅうっと痛いくらいに抱きついて肩に顔を埋めて来ました。

「ふぎゅ?!」

間抜けな声が出てしまったのは仕方ないと思います。本当に突然でしたし、レオナルド様の様子がいつもと違っていましたから。アーデルもそばで控えているクロエも護衛のお兄さんたちもビックリしています。

「レオ?」

呼び掛けても返事はありません。アーデルが狼狽して理由を尋ねますが、ただただ私にすがり付くように抱き締めたままです。本人が何もしゃべろうとしないのですから成す術はありません。結局、何処にも被害はないことから、アーデルは早々に匙を投げ、本人の気の済むまで放っておくことにしたようです。他のみんなもいつもの距離まで下がっていきます。え、私はいいの?と思いましたが、ポンポンとレオナルド様の背中を撫でて宥めることにしました。

「ロッテじゃなきゃ嫌だ」

周りに人がいなくなり暫くするとボソリとレオナルド様が溢しました。少しだけ落ち着いたようです。

「うん?私もレオがいいですよ?」

「本当に?」

「はい。何があったんですか?」

「父様が・・・・」

どうやら、お父様クリンデル公爵にレオナルド様の最高相性の相手が私の他にも見つかり、それが他国の王女様だと聞かされたようです。打診があるかもしれないと。断るのは難しいかもしれないとも。それを2日前に聞き、不安からおかしくなってしまったようです。

クリンデル公爵レオパパ、それ、8歳の子供に言ってはダメなやつですよ?

「お父様に相談しましょう?きっと大丈夫です。私もレオと離れたくはありません」

「ロッテぇ」

「グエ」

レオナルド様!首!絞まる!絞まってるから!

「くる、くるし・・・・れ゛・・お」

「ごめん!」

私とレオナルド様は今の話をお父様に話したところ、生真面目すぎるクリンデル公爵に呆れてはいましたが、協力してもらうことができました。国としてあまり意味うまみのない相手だからできたことです。どんな手を使ったのかは知りませんが、その王女様は、他国の王子様と仮婚約を結ぶことになったそうです。




「レオ。そんなことで私はレオを嫌いにはなりませんよ?レオは私が不安にならないようにちゃんと話してくれたでしょう?それにレオは私の側に居てくれるのですよね?大丈夫です。その従妹さんからは私が守って差し上げます」

「ロッテが守ってくれるなら安心だね」

腕の力が緩くなりました。まだ瞳には不安そうな色が見えますが、少しは落ち着いたようです。それにしても、会う前からレオナルド様をこんなに追い詰める従妹って、どんな方なのでしょうか。



レオナルド様が少しだけおかしくなった日から2週間が経ち、私たちは2年生になりました。クラスはAクラスのまま。男爵となったフィリップス様の代わりにエルシア様の仮婚約ローランド様がAクラスに入ってきましたが、週一の自主訓練に参加していたため、何の違和感もなくクラスに溶け込んでいます。フィリップス様はクレマチス様と同じCクラスです。寮の部屋も変わったとレオナルド様が教えてくれました。

「今年はクラスのメンバーに若干の変更があった。フィリップスがCクラスに入り、Aクラスにはローランドが、Bクラスにはグリフォル族連合王国よりセアベルテナータ第1王子殿下が編入した。最高相性の相手を見つけるのが目的だろう。外交の授業で学んだと思うが、あの国は国王に限り一夫多妻だ。仮婚約者がいても関係なく奪っていく。外交問題になっているのは知ってるな?気を付けろよ?」

何故か視線はレオナルド様に向いています。そして、レオナルド様もその意味を正確に捉えているのか頷いているのが気になります。まさか、あり得ませんよね?

「ローランドのことはよく知っていると思う。自己紹介は必要ないな?よし。次だ。今年から選択授業がある。来年の専門コースを選択するにあたり、興味のある科目は取っておくように。コース選択上、必須となる科目もある。しっかり調べておけ。2週間のお試し期間はあるが、人気の科目はその期間に出席していないと後から追加はできない。また、他のクラスとの交流も出てくる。問題は起こすなよ?以上。質問は?なければ解散だ」

選択科目ですか。

来年からの専門コースには、魔法師コース、騎士コース、文官コース、淑女コース、経営コースがあります。

私とレオナルド様は魔法師コースです。魔法師団と医療師団を希望する者は、このコースを卒業しなければなりませんから、私たちに選択の余地はありません。同じような理由でミリーナ様とランスロット様は騎士コースになるでしょう。ナンザルト先生はあのように言っていましたが、人気の科目は高位貴族から優先で受付です。家業に関わってくるのでありがたい措置です。

「ロッテ。この間決めたのでいい?」

「はい。大丈夫ですよ。先ほど、ナンザルト先生と何かありましたか?」

「何?お前らもう決めたの?」

ランスロット様とミリーナ様が横から私とレオナルド様のカリキュラムを覗いてきました。

「げっ」「あらまあ」

「ミリー。ごめん。俺、さすがにここまでは無理だわ」

「大丈夫よ。わたくしもここまでは望みませんわ。鬱陶しくなりそう」

「だよな」

「うるさいよ」

まあ、こう言われるのは分かっていました。だって、私とレオナルド様のカリキュラムは、ほぼ同じ。違うのはレオナルド様が騎士コースや経営コースの科目を取っている時間、私は淑女コースの科目をとっているところくらいです。呆れられるのは承知の上。お互いに納得しているのですから問題なしです。カリキュラムの話しに話題が逸れてしまい、レオナルド様にナンザルト先生とのことを聞き出す機会を逸してしまいました。
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