ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子

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一難去って

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ブローバードと対峙しながら、隊長さんは指示を飛ばしていきます。私たちについていた諜報部の人たちは、生徒の誘導と安全確保を、それぞれのパーティーについている騎士に知らせに走りました。ドミニク様たちは、護衛のお姉様たちと離脱済みです。ブローバードを確認した時点で、学園と冒険者ギルドには緊急信号を発してあります。私たちが取り逃がせば、ブローバードは森から出る可能性も否定できません。

「レオとロッテはやつの翼をなんとかしろ!火は使うなよ?森に引火すると大惨事だ」

飛ばないようにしろと言うことですね?分かりました!レオナルド様も同じことを考えたようで、私に視線を寄越し頷いています。

「「はい!」」

「アレク、ドルーガはやつの気を引け!」

「了解」

「また、面倒なところを。フウ。分かりました」

お兄様は顔を顰めています。

「ダイスは首、サイラスは尻尾を押さえろ!ランスとミリーはふたりの補助だ」

「「「「はっ!」」」」

戦闘が始まりました。私とレオナルド様は、森の木の枝を魔法で操り、ブローバードの翼に絡ませますが、すぐに引き千切られてしまいます。凍らせても簡単に氷を砕かれ傷ひとつ与えられませんが、飛び立つことだけは阻止できています。

「さすがに、・・簡単にはいかないね」

「ええ。第6部隊の人たちは流石ですわね」

ランスロット様は鋭い嘴の攻撃を間一髪で避け、ミリーナ様は鈎爪を持つ足で踏み潰されるのを辛うじて避けています。本当にギリギリです。それに比べて隊長さんを含む第6部隊の人たちは・・・・。戦闘狂・・・・。嬉々として剣で切りつけ、鎖のついた大きな鎌を振り回しています。

ギャッ!

ブローバードが大きく翼を広げました。ブローバードの得意とする爆風が放たれる前の動きです。

「させるか!ロッテ!」

「はい!」

レオナルド様の言葉に、私は正面から広げた翼目掛けて水で横向きに竜巻を作り、レオナルド様がそれを凍らせてブローバードの翼に叩きつけました。致命傷は与えられませんでしたが、翼は傷を負い、爆風は防ぎました。

くぇぇぇぇぇぇぇ!

身体のあちこちに深く浅く傷を負い、分が悪いと悟ったのかブローバードが飛び立つべく翼を動かし始めました。

「ロッテ!」

「はい!」

私とレオナルド様はすかさず高く飛び、ブローバードの翼の付け根目掛けて先程と同じ魔法を3度、放ちました。少しは効いたでしょうか?

「レオ、ロッテ!良くやった。こいつはもう飛べない。ダイス、サイラス!留目だ」

「「イエッサー♪」」

隊長さんを含む3人は嬉々としてブローバードの首に正確に致命傷を与えていきます。3時間ほどの激闘を経て、漸くブローバードを狩ることができました。が、周りは大惨事です。夏なのに氷が飛び散り、霜が降りています。木は薙ぎ倒され剥き出しの地面が痛々しく抉れています。

「後の始末は・・・・」

「おやおや。ここに居ないはずの我の妃たちが見えるのは気のせいか?」

「げっ・・・・」

「何故、生徒がここにいる!帰れと命令を出したはずだ」

本来なら避難しているはずのセアベルテナータ殿下とその側近たちが今戦闘を終えたばかりのこの場所に何故いるのでしょうか?

「隊長!申し訳ありません。帰るように事態の説明をしたのですが、この国の命令に従う義務はないと、珍しい魔獣ならその目で確かめたいと訊かず・・・・」

隊長さんは眉を顰めています。

「いくら他国の王太子であっても、こういった不測の事態では従っていただかねば困ります。最悪の事態になれば命の保証はできません。国家間の問題に発展するのを分かっておいでか?」

隊長さんの言うとおりです。何を考えているのでしょうか?

「我の命に従わなかった妃たちには罰が必要だな」

「セアベルテナータ殿下!聞いておられるのか!」

苦言を無視された形になった隊長さんは、厳しい顔をしていますが、これはいつものことです。お兄様が隊長さんに向かって首を振って溜め息混じりに無駄だと伝えると口を閉ざしました。

「寝言は寝てから言ってください、セアベルテナータ殿下。ああ、あなたの妃たちとはダイスとサイラスのことでしたか。失礼しました。殿下にそういったご趣味があったとは存じませんでした。ダイス、サイラス。君たちどんな命令をされたのさ?」

突然お兄様から問題発言を振られたふたりは「「え?え~?!」」と目を白黒させています。

「おや、義兄殿もおられたのか。貴殿も聞いておったであろう?我と共に参加することを野外実習の条件にしたことを。それを破ったのだ。罰が必要だとは思わんか?」

この人は心底それが正しいと思っている自己中なナルシストなのだから、手に負えません。

「全く思いませんね。なにしろ、ここにあなたの妃などいませんから」

「さて、ふたりの罰だが・・・・」

お兄様のこと言うことなんて全然聞いてないし!

成り行きをレオナルド様の背後から見守っていた私に、突然、得体の知れない衝撃が襲いました。

「グハ・・・・ハア・・ンク・・・・」

「ウック・・グ・・・・グハ・・・・」

その衝撃のキツさに立っていられず、崩れ落ちるところをレオナルド様に抱き止められました。

「ロッテ!ロッテ!」「ミリー!!!」

私は必死に冷静になろうと勤め、この衝撃の原因を探っていきます。

「妃たちの苦しむ姿は見たくはないが、今後同じことを起こさぬようその身にしっかりと刻むことだ」

セアベルテナータ殿下の声が遠くから聞こえます。

「きさま!何をした!!!」

ランスロット様の声が頭に突き刺さるようです。

「罰を与えると言ったであろう?聞いていなかったのか?」

「術を解いてもらおうか」

冷静なお兄様の声がぐわんぐわんと頭に響いてきます。

「それはできない相談だな。何、多少精神が壊れても子を生むのには問題ない。さて、我の妃たちを渡してもらおうか」

「何を言っているんだ、この男は?」

「レオ・・・・キンジュツ・・・・ハアハア・・レオノマ・リョク・デ・・・・オオ・テ。ハアハア・・アラガウ・・・・マリョク・・オク・・テ」

それ以上、もうしゃべる気力もありません。ぐったりとレオナルド様に身体を預けて、私は全神経を術の解呪に向けました。
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