ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子

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悔しさ

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ブローバードとの戦闘が終わりほっとしたのも束の間。あろうことか、避難しているはずのセアベルテナータ殿下たちが現れたのだ。私はすぐにロッテを背後に隠した。ランスもミリーに同じことをしているのが視界に入る。相変わらず、こいつとは会話にならない。アレクとの不毛なやり取りを見守っていると背後からロッテの苦しそうな声がした。はっとして後ろを振り向くとロッテが崩れ落ちる寸前だった。それを咄嗟に抱き留める。

「ロッテ!ロッテ!」「ミリー!!!」

隣でランスの声が響いた。どうやらミリーも同じ状態のようだ。

「妃たちの苦しむ姿は見たくはないが、今後同じことを起こさぬようその身にしっかりと刻むことだ」

「きさま!何をした!!!」

ランスが吠えた。私はグッと叫び出しそうな自分を抑え、ロッテに神経を集中させた。ロッテのどんな言葉も些細な動きも逃すわけにはいかない。

「罰を与えると言ったであろう?聞いていなかったのか?」

「術を解いてもらおうか」

感情を圧し殺したアレクの声がした。冷たさを通り越して氷の刃のような声音だ。

「それはできない相談だな。何、多少精神が壊れても子を生むのには問題ない。さて、我の妃たちを渡してもらおうか」

「何を言っているんだ、この男は?」

心底理解できないと言う隊長の心情はよく分かる。その時、微かにロッテの唇が動いた。耳を近づける。

「レオ・・・・キンジュツ・・・・ハアハア・・レオノマ・リョク・デ・・・・オオ・テ。ハアハア・・アラガウ・・・・マリョク・・オク・・テ」

禁術だと?私はすぐさまロッテを自分の魔力で覆い、少しずつ慎重に送り始めた。

「分かった。ロッテはそっちに集中して。隊長、殿下たちを拘束してください。禁術を使った疑いがあります。ランス、ミリーを魔力で覆った後、ミリーに魔力を少しずつ送り続けるんだ。慎重にな?それが禁術に抗う糧になるらしい」

「分かった!」

ランスもミリーを抱え込んで魔力を送り始めた。

「こいつらを拘束しろ!」

一番始めに動いたのは、アレクだった。真っ直ぐにセアベルテナータ殿下に向かい、一番キツい魔法で拘束している。その上で魔力を封じる拘束具を着けていた。かなりえげつないが誰も何も言わない。

「離さんか!我は禁術など使っておらんわ!代々伝わる秘術を改良した魔法を行使したまで!」

「殿下にこのような扱い、我が国が黙ってはいないぞ!」

「不当な拘束だ!」

「禁術などと言いがかりだ!」

ギャーギャーと煩いな。

「精神を崩壊させるような魔術など禁術でなくて何だと言うんだ?それを使った時点で拘束案件だろ?」

隊長の言うとおりだ。話が通じないのは知っていたが、こんなに馬鹿だとは想定外だ。馬鹿には付き合う義理はないし、今はロッテとミリーが心配だ。

「私たちはロッテとミリーを連れて学園に戻ります」

「ふたりだけで行けるか?表層域とはいえ、この先魔獣が出るぞ?」

「私がついていきます」

ランスとふたりでも脅威となる魔獣は居ないが、アレクがいれば心強い。

「分かった。こっちは任せておけ」

「はい。では」

「何処へ行く?!妃たちを連れていくことは許さん!」

セアベルテナータ殿下が後ろで騒いでいるが知ったことではない。私はロッテを、ランスはミリーを大切に抱え、アレクの先導で学園を目指した。アレクが鬼神のごとく魔獣を蹴散らし、私たちの道を作ってくれたお蔭で、思っていたよりも早く街の入り口に辿り着いた。

「ブローバードは片付いたが、怪我人が出た。学園の生徒だ。すぐに学園に向かう」

アレクは門を守る衛兵に簡単に事情を説明し、自分の身分証を見せている。私たちの分は後日ということになった。学園ではナンザルト先生が寮の入り口で待ち構えていた。

「!なんだ?何があった?!」

「他の生徒は?」

「全学年、寮の自室で待機だ」

「このふたりを同じ部屋に。レオとランスも一緒にいられる部屋はありますか?」

「特別室なら寝室が4部屋にリビング、ダイニング付きだ」

「そこがいい。事情は私からふたりを休ませた後で」

「分かった」

アレクがナンザルト先生と話をつけてくれた。今はロッテだけに集中していたいから本当に助かる。ランスは青ざめた顔をして、今にも倒れそうだ。少しフォローがいるかもしれない。

「ランス。大丈夫だ。ロッテが今、術を特定している。解呪方法がわかれば教えてくれるだろう。それに、魔道具もちゃんと機能してる」

私とロッテの開発した魔道具は、しっかりと解呪の信号を出している。ミリーに解呪できなくてもロッテの解呪を待つことはできるだろう。

「分かってる。分かってるんだ。でも、精神が壊れるかもしれないほどの術なんだろう?」

「だから、私たちが魔力を流している。それが精神を繋ぎ止める鍵なんだと思うよ。だから、少しずつ出来るだけ長く魔力を流せるようにするんだ。しっかりしろよ?お前が呑まれたらミリーは戻れなくなるぞ?」

「そうだな。レオと魔力操作を鍛えておいて本当によかったぜ」

ランスは漸く少し笑えるようになり、いつもの調子に戻ってきた。

「この部屋だ」

通されたのは、恐らく他国の要人などが学園の視察に来たときに使う部屋だと思う。その広さと豪華さは公爵令息の私ですらびっくりする。

「寝室はこことここ。それから反対側に2つ。食事はこのボタンを押せば、10分ほどで寮の食堂と同じものがここに届くように手配しておく。バス、トイレは各部屋に。長くかかるのか?」

「いえ。長くとも10日はかからないでしょう」

「なら、このくらい知っておけばいいな。さあ、アレク。事情を聴こうか?」

ナンザルト先生とアレクは私たちに気を遣ったのか部屋を出ていった。ここまでずっとロッテを見てきたが、全く反応がない。魔力を流していなければ、生きているかすら不安になるほどだ。

「ミリー」

ポツンと零れ落ちたランスの声が無駄に広い室内に響いた。それから、ロッテを抱き締め、片時も離さずに2日が過ぎた。ランスが不安がるので、結局ベッドが2つある部屋に一緒にいる。私も気が気ではない。そして、3日目の朝、ロッテがうっすらと目を開けた。その瞳に生気はまだない。

「カイジュ、ウケトッテ」

「!!!・・・・」

力のない声でそれだけ言うと躊躇いなく私の舌に術式を載せてきた。ロッテの甘い魔力と柔らかい感触に一瞬理性が飛びそうになったが、辛うじて堪え、ロッテから術式を受け取った。それに魔力をのせるとロッテがそれを再び自分の元に戻し体内に取り込んだようだ。つまり、これをランスにもさせろと・・・・?術式自体は簡単ではないが、複雑すぎることもない。が、・・・・いろんな意味で出来るだろうか?

「本当にこれでミリーは助かるんだな?」

顔が赤いのは仕方ない。きっと私も同じだろう。お互いに暗黙の了解で見なかったことにした。

「ロッテが解呪だと言うんだから間違いない」

「分かった。やる」

それからランスは真っ赤な顔で最初はどうにかこうにか組み立てた術式を恐る恐るミリーに渡していた。が、それをミリーが受け取ったと分かるとすごい集中力で術式を組み立てていた。初めこそ10回に1回程度の成功率だった術式の構築も、半日もすると術式の構築に慣れたようだ。半分くらいは途中で散霧しているようだったが、それでも根気よく続けていた。解呪に努めること2日。

「くそっ!ミリーが受け取ってくれない!」

「ロッテもだよ。大丈夫だ」

あれ以降、ロッテは何の反応も示さない。術式を受け取っているのは感覚で分かるが、それ以外は全くだ。私も不安じゃないと言ったら嘘になる。ロッテのことを信じていても、不安なのは変わらない。

「ひとまず、今は休憩だ。次にどのくらいかかるか分からないからね。私たちも今は一息いれよう」

「そうだな」

私はロッテを抱え魔力を流し続けたまま、「フウ」と力を抜いた。ここに来てから4日ほどか?だんだんと時間の感覚が麻痺してきた。魔力が混ざらない方がいいと誰もここには来ない。だから、セアベルテナータ殿下たちがどうなっているのかも野外実習はどうなったのかもさっぱり分からない。

それからも1時間おきに術式を渡してみたが、結局次に受け取ってくれたのは翌日の朝だった。それから半日。ロッテが目を覚ました。ミリーはまだのようだ。だから、気を散らさないようにロッテを抱き締めるだけで声はかけない。代わりにたくさんのキスを降らせた。ミリーが目を覚ましたのは、それから更に1日経ってからだった。
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