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第3章

第130話 リリス14歳 婚約者は開いた口が塞がらない2

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「分かった。何度も言うけど、リリィ、お願いだから危ないことはしないで・・僕は君に何かあったら生きていられない。昨年の階段でのこと覚えてるだろう?あの時のような思いは二度としたくないんだ」

苦しさを滲ませ、彼の美しい顔が歪むのを見たリリスの心はチクリと傷んだ。そして手で胸元のネックレスを握りめる。

「うん・・私・・・こんな考えなしでごめんなさい。お願いだから、私のこと見捨てないで・・・」

そう口にしたリリスの瞳から涙がこぼれ落ちた。

(ここで泣くのはズルい。きっと泣きたいのはヘンリーなのに・・・でも止まらないの・・・・)

溢れる涙は途切れることなくリリスの頬を流れ落ちる。意志とは反して止めどなく流れる涙はネックレスを握る手を伝ってスカートにいくつものシミをつくった。リリスは泣いてしまった自分が情けなくなり、ギュと唇を噛み締める。

彼女の泣き顔にヘンリーは慌ててハンカチを取り出し、涙に触れる。そして、動揺した声で言った。

「ごめん。リリィ。そんなに泣かないで。僕も言い過ぎたよ。仕方ない部分もあったというのに・・・お願い・・」

思えば、リリスには昨年からいろんなことがあった。それまでの穏やかな生活に比べたら、ありすぎたと言っても過言ではない。
属性判定でリリスだけに起こった出来事。魔女や聖獣との出会い。学園の階段から落ちたこと。不思議な夢を見ること。そして今度は名前しか知らない魔女からの手紙。
以前からリリスの心の隅にあった小さな不安が一瞬で大きくなってしまった。自分だけなぜ他の誰とも違うのか。なぜ自分だけ皆に迷惑をかけてしまうのか。なぜ・・なぜ・・・

「それに、君を見捨てるなんてしないよ。例え天地がひっくり返ってもそんな事はしない!僕がどれだけ君に惚れてるか知ってるだろう」

淋しげに笑いかけるヘンリーは、リリスの顔を覗き込む。その視線を受け止めたリリスは頷くと、彼の首の後ろに手を回し、抱きついた。ヘンリーもまた彼女の背中に手を回し、優しく抱きしめる。
そうしていると、いつの間にか涙は止まっていた。そしてリリスは小さな声で言った。

「私、きっとひどい顔してる」

「・・・ちょっと人には見せられないかもね」

お互いにそう口にすると、どちらともなく身体を離した。リリスの泣きはらした顔を見たヘンリーが彼女の目と頬を優しく撫でる。

「目も真っ赤だ」

そう呟いたヘンリーは、屋敷に戻るように御者に声をかけた。そしてリリスに優しく笑いかけ言った。

「そんな顔みたら、みんな心配するでしょ。落ち着いてから、学園に行こう」

彼の言葉にリリスは素直に従った。

セルジュ家に戻ったリリスたちを見た使用人は驚いていたが、何も聞かずに腫れた目を冷やすための氷を用意してくれた。そしてヘンリーがリリスの腫れた目を冷やしてくれた。リリスは自分でやると断ったが「君を泣かせてしまった罪滅ぼし」と頑なな彼に押し切られてしまった。

そして落ち着いたリリスたちは、学園へと再び出かけていった。遅れてやってきたリリスをアリーナたちが心配したが、馬車が不具合を起こしてと、でまかせを言った。これはヘンリーと話を合わせた事だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そしてその日の放課後、リリスとヘンリーの姿は街の宝飾店にあった。朝、ヘンリーからリリスが身に付けるネックレスのメンテナンスがしたいと言われたのだ。彼の言うネックレスとは、リリスが14歳の誕生日に彼からプレゼントされたものだ。まだ身に着けて3ヵ月のほどしか経っていないため不思議に思ったが、大人しく従うことにした。

店に入ったヘンリーに気付いた店主が「これはこれはセルジュ様」と口にしながら、近寄って来た。店主にヘンリーは「メンテナンスを」と伝えると、ネックレスを見せる。店主は顎に手を当て「ほう」と呟くと片眼鏡を少し上げた。そして「こちらへ」と言うと、店の奥へと案内する。リリスも付いていこうとしたが、ヘンリーにここで待つように言われてしまった。

「打ち合わせするだけだよ。すぐ戻るからね。つまらない話を聞いてるより、綺麗な宝石を見ていたほうがいいだろう?」

そう言って有無を言わさない笑顔を見せるヘンリーに、リリスは「分かった」と渋々了承した。

メンテナンスを終えるのに1時間ほどかかるそうなので、その間、二人は街をブラブラすることにした。そうしている間、ヘンリーはリリスと手を繋いで片時も離さなかった。手を繋ぐことは珍しくなかったが、何だかその手にいつもより力が入ってることにリリスは気付いていた。

店へ戻るとメンテナンスは終わっていた。戻ってきたネックレスを見ても、どこをメンテナンスしたのかリリスには分からなかった。

「どこを直したの?」

リリスの問にヘンリーは「直したわけじゃないよ。ちょっと磨き直したってところかな」と微笑んだ。

「そうなの?」と不思議そうなリリスをヘンリーは後ろ向きにさせると、彼女の首にネックレスを付けた。胸元にネックレスが戻ってくるとリリスは安心した。いつも付けてい物が無くなると、やはり寂しい。嬉しさに口が緩んだリリスは振り返り、ヘンリーはネックレスを確認すると満足そうに頷いた。

「前も言ったけど、出かける時は特に忘れずに身に着けてね。僕だと思って」

「なんか大袈裟よ・・・でも分かってる」
 
そう口にしたリリスは頬を染め、微笑んだ。そして、そんな二人のやり取りを横で店主がニコニコ見つめていた。
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