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第3章
第159話 リリス14歳 窮途末路1
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「リリス嬢・・・こっちへ」
スタイラスがリリスを呼ぶが、予想通り応じない彼女は堂々と立っている。二人を真っ直ぐに見る眼差しは冷たく、そして再び鼻息荒く言った。
「はあ?なんで私が貴方達と一緒に?何を言ってるのよ。それより早く私のメイルを何とかしなさいよ!」
小さくため息をついたスタイラス。アシュリーは彼の肩をポンと叩くと、首を振った。
このまま話し掛けても埒が明かない様子にリリスへゆっくり近付くスタイラスとアシュリー。視線はリリスへ向いていたが、獣の少しの動きも見逃さないように視界の端にとらえている。二人がジリジリと近付く間、リリスはギャーギャーと文句を捲し立てていた。
「あっ、なに近付いてるのよ!ちょっとこっちに来ないでよ!いいこと?私から半径3メートル以内に入っちゃダメなのよ!私の隣に立っていいのは、ヘンリーだけなの!ちょっと、ヤダ!やめて!来ーなーいーでーっ!」
二人は投げつけられる言葉を右から左へ聞き流し、手の届きそうな位置まで来る。するとリリスは後ずさりし、逃げる素振りをみせたため、スタイラスは手を伸ばし彼女の腕を掴んだ。
「つかまえた」
そう言ったスタイラスがニッコリ微笑むとリリスは悔しそうに涙を浮かべた瞳で睨んだ。そんな脅しは効かないスタイラスは笑顔を崩さない。しかしアシュリーの言葉にその笑顔も消え去った。
「あれマズくないか?ネージュが・・・」
アシュリーが指差す方を見ると、少し離れたところにいたネージュの様子が明らかにおかしい。全身を覆う白い毛は足元から黒く染まり出し、逆立っている。二本の尻尾は不規則に激しく揺れている。そしてその透き通ったブルーの瞳は、ドス黒い色へと変わっていた。
「どうなってるんだ・・・・」
スタイラスは頭が混乱した。いつもと違う様子の広場にリリスだけでなく、ネージュまでおかしくなり、いろいろな事が一度に起こりすぎている。
「やはりアイツが原因か・・」
大きく深呼吸し、そう言ったスタイラスの頭の中に先程のリリスのセリフがよみがえる。
『危険だと思ったら、迷わず逃げてね』
スタイラスのリリスの腕を掴む手が強張った。そしてフッと笑うと、リリスを真っ直ぐに見つめて呟いた。
「やっぱり君を置いて逃げるなんて無理だ」
リリスの瞳に映るのは、悩ましげにそして目の前の彼女を愛おしそうに見つめる男の姿だった。
「どうする?彼女の言った通り逃げるのか?」
答えの分かりきったアシュリーの問にスタイラスは「まさか。レディを見捨てるなんて、教えられてないんだ」とはっきり言った。その口には笑みがこぼれている。
「特にリリス嬢だからだろ?」
その言葉にスタイラスは少し驚いた後、苦笑した。
「アシュリー・・お前・・・」
「気付いてないと思ったか?何年友達やってると思ってるんだ?」
「まいったな・・・ああ、お前の言うとおりだ。彼女だから尚更引けないね」
素直に白状したスタイラスは、掴んだリリスの腕を力強くされど優しく引き寄せた。
「ぃやっ、痛いじゃない」
「ごめん」とひとこと口にしたスタイラスは、彼女の前に立ちネージュと獣の壁となった。アシュリーもその横に立った。獣はこちらを変わらずに見ている。そしてネージュは全身真っ黒な姿へ変わっていた。
「さあ、これからどうする?リリス嬢がこれだと、逃げるにしても一緒に逃げてくれるか怪しいぞ」
「そうだな。けど戦うにしたって、あの獣にネージュだ。僕たちのほうが不利だろ。助けが来るまで、どうにか時間稼ぎしたいよな」
「・・・イチかバチか逃げるか?どこかに隠れられれば・・リリス嬢にはその・・少し眠ってもらって、担いて行くとか」
「ちょっと何ゴチャゴチャ話してるのよ!もう早くしてよ?私の待つのは、いちばん嫌いなの!」
後ろで文句の止まらないリリスに二人は目を合わせお互い頷くと、アシュリーは言った。
「・・・やっぱり眠ってもらおう」
「ああ、仕方ないな。でもどうやって・・・いや、ちょっと待て・・」
その時、スタイラスはリリスの腕で鈍く光るブレスレットに気付いた。
「これって、いつも彼女が付けてるブレスレットだよな。こんな色に光ってたか?」
「いいや。光ってるところは見たことないな」
その禍々しい色にリリスの豹変の一端があるとにらんだスタイラスは、それを取ろうと手を伸ばした。
スタイラスがリリスを呼ぶが、予想通り応じない彼女は堂々と立っている。二人を真っ直ぐに見る眼差しは冷たく、そして再び鼻息荒く言った。
「はあ?なんで私が貴方達と一緒に?何を言ってるのよ。それより早く私のメイルを何とかしなさいよ!」
小さくため息をついたスタイラス。アシュリーは彼の肩をポンと叩くと、首を振った。
このまま話し掛けても埒が明かない様子にリリスへゆっくり近付くスタイラスとアシュリー。視線はリリスへ向いていたが、獣の少しの動きも見逃さないように視界の端にとらえている。二人がジリジリと近付く間、リリスはギャーギャーと文句を捲し立てていた。
「あっ、なに近付いてるのよ!ちょっとこっちに来ないでよ!いいこと?私から半径3メートル以内に入っちゃダメなのよ!私の隣に立っていいのは、ヘンリーだけなの!ちょっと、ヤダ!やめて!来ーなーいーでーっ!」
二人は投げつけられる言葉を右から左へ聞き流し、手の届きそうな位置まで来る。するとリリスは後ずさりし、逃げる素振りをみせたため、スタイラスは手を伸ばし彼女の腕を掴んだ。
「つかまえた」
そう言ったスタイラスがニッコリ微笑むとリリスは悔しそうに涙を浮かべた瞳で睨んだ。そんな脅しは効かないスタイラスは笑顔を崩さない。しかしアシュリーの言葉にその笑顔も消え去った。
「あれマズくないか?ネージュが・・・」
アシュリーが指差す方を見ると、少し離れたところにいたネージュの様子が明らかにおかしい。全身を覆う白い毛は足元から黒く染まり出し、逆立っている。二本の尻尾は不規則に激しく揺れている。そしてその透き通ったブルーの瞳は、ドス黒い色へと変わっていた。
「どうなってるんだ・・・・」
スタイラスは頭が混乱した。いつもと違う様子の広場にリリスだけでなく、ネージュまでおかしくなり、いろいろな事が一度に起こりすぎている。
「やはりアイツが原因か・・」
大きく深呼吸し、そう言ったスタイラスの頭の中に先程のリリスのセリフがよみがえる。
『危険だと思ったら、迷わず逃げてね』
スタイラスのリリスの腕を掴む手が強張った。そしてフッと笑うと、リリスを真っ直ぐに見つめて呟いた。
「やっぱり君を置いて逃げるなんて無理だ」
リリスの瞳に映るのは、悩ましげにそして目の前の彼女を愛おしそうに見つめる男の姿だった。
「どうする?彼女の言った通り逃げるのか?」
答えの分かりきったアシュリーの問にスタイラスは「まさか。レディを見捨てるなんて、教えられてないんだ」とはっきり言った。その口には笑みがこぼれている。
「特にリリス嬢だからだろ?」
その言葉にスタイラスは少し驚いた後、苦笑した。
「アシュリー・・お前・・・」
「気付いてないと思ったか?何年友達やってると思ってるんだ?」
「まいったな・・・ああ、お前の言うとおりだ。彼女だから尚更引けないね」
素直に白状したスタイラスは、掴んだリリスの腕を力強くされど優しく引き寄せた。
「ぃやっ、痛いじゃない」
「ごめん」とひとこと口にしたスタイラスは、彼女の前に立ちネージュと獣の壁となった。アシュリーもその横に立った。獣はこちらを変わらずに見ている。そしてネージュは全身真っ黒な姿へ変わっていた。
「さあ、これからどうする?リリス嬢がこれだと、逃げるにしても一緒に逃げてくれるか怪しいぞ」
「そうだな。けど戦うにしたって、あの獣にネージュだ。僕たちのほうが不利だろ。助けが来るまで、どうにか時間稼ぎしたいよな」
「・・・イチかバチか逃げるか?どこかに隠れられれば・・リリス嬢にはその・・少し眠ってもらって、担いて行くとか」
「ちょっと何ゴチャゴチャ話してるのよ!もう早くしてよ?私の待つのは、いちばん嫌いなの!」
後ろで文句の止まらないリリスに二人は目を合わせお互い頷くと、アシュリーは言った。
「・・・やっぱり眠ってもらおう」
「ああ、仕方ないな。でもどうやって・・・いや、ちょっと待て・・」
その時、スタイラスはリリスの腕で鈍く光るブレスレットに気付いた。
「これって、いつも彼女が付けてるブレスレットだよな。こんな色に光ってたか?」
「いいや。光ってるところは見たことないな」
その禍々しい色にリリスの豹変の一端があるとにらんだスタイラスは、それを取ろうと手を伸ばした。
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