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第3章

第163話 リリス14歳 ご対面1

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広場へ向かう途中、ヘンリーの腕の中でリリスが身じろぎした。それに気付いたヘンリーは慌てて近くの草の上へ彼女をそっと下ろす。

「リリィ・・」

名前を呼ぶと、リリスはゆっくりと目を開けた。ランタンの明かりに眩しそうに目を細めた彼女は「・・・・ヘンリー・・どうしてここに・・・」と呟いた。ヘンリーはリリスをそっと抱きしめ、彼女の長い髪に顔をうずめて小さく息を吐いた。

「無事で良かった・・」

ポツンと呟いたヘンリーにリリスは「えっと・・ありがとう・・・」とお礼を言った。リリスは自分がおかしくなってからの記憶がないので、今の状況を理解できなかった。訳の分からないといった表情のリリスにスタイラスとアシュリーがここまでの経緯を大雑把に話した。そして最後にヘンリーは聞いた。

「リリィ、そういう訳だから時間がない。広場へ一刻も早く向かいたいんだ。歩けるかい?」

リリスは頷くと、ヘンリーの手を借り立ち上がる。そして「また巻き込んでしまって、ごめんなさい」と言うと、深々と頭を下げた。ヘンリーは慌てて彼女の身体を起こすと「そんな事言わないの。ほら、ネージュとメイルのことも心配だ。行こう」と微笑んだ。スタイラスたちも頷いている。リリスは皆を見回し、泣きそうな笑顔を見せると、一度大きく頷いた。こうして四人は、再び広場へと足を進めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


広場に到着したリリスたちは、アルバスたちを探すがまだ来ていないようだった。とりあえず到着を待つ為、木の陰に隠れ広場の様子を窺っていた。サラマンデルの木は相変わらず青い炎をあげている。真っ暗な森で炎の青い光だけが木々を照らしていた。メイルとネージュの姿は見えず、そして金の獣の姿もなかった。

「誰もいないみたいだな」

「ああ・・しかし信じられないな。炎が青いなんて・・・いったい何が起こってるんだ」

ヘンリーは目の前の光景に驚きの視線を向けている。リリスは彼の手を取り、ギュッと握った。ヘンリーはその手を優しく握り返し「大丈夫だよ。側にいるから」と微笑んだ。

「ネージュとメイルもどこに行ったんだ?メイルだけはここにいると思ったんだけどな」

「メイル、大分慌ててたよね」

皆が姿の見えない聖獣を心配していると、その当の聖獣が姿を見せた。森の奥からひょっこり現れたのは、メイルだった。その様子は大分落ち着きは取り戻しているようだったが、キョロキョロと周囲を見回して何かを探しているようにリリスたちには見えた。

「あっ、メイル!」

「ああ、無事みたいだね」

「何か探してるのか?キョロキョロしてるぞ」

「私たちのこと探してるんじゃない?見てあの表情・・・不安そうにしてるわ。出て行っていい?いいよね?放っておけないもの」

そう質問し、同意を求めたリリスは、三人を順に見る。しかし誰も出ていく許しをくれなかった。「ねえ、ヘンリー・・誰もいないし、メイルを連れてくるだけだから・・」とヘンリーにお願いするが、彼は首を横に振った。

「先生たちが来るまでもう少しだから、それまで我慢して。この暗さじゃ、どこで見られてるか分からないよ」

それに渋々といった様子でリリスは頷いた。

(うぅ・・すぐそこにメイルがいるのに・・・もし獣が戻ってきて、メイルを襲ったら・・でもヘンリーの言うとおりだわ。焦ったらダメよ。ここは我慢よ、我慢)

そんなやり取りの直後、さっきメイルが現れた森の奥に一番会いたくなかった生き物の姿をリリスたちは視界に捉えた。それはあの金の獣だった。その金色の毛は、青い炎で今は銀色に輝いて見える。

「チッ・・アイツのほうが早かったか・・・」

舌打ちをしたスタイラスの肩にアシュリーが手を置いて「ツイてないな」とため息混じりに言った。

「どうしよう、獣が来ちゃったよ。メイルが・・私、やっぱり助けに行く!」

今にも飛び出しそうなリリスを押さえ「ダメだ!」とヘンリーは言った。スタイラスも「そうだよ。さっき僕達はアイツに襲われたんだ。見つかったら、また襲ってくる」と言って、助けに行くこと許してくれなかった。アシュリーに至っては「却下だね」の一言だった。
リリスは自分を止めるヘンリーたちを見るが、彼らの表情に固い意志を感じ取ると、悔しそうに唇を噛み締め「・・・・分かった」とポツンと言った。

その時、獣は瞳をリリスたちの隠れる方向へ向け、ゆっくりと歩き出した。

「マズい!こっちに来るぞ!」

「先生・・早く来て・・・」

「逃げるか?」

「でも今度もうまく逃げられるとは、限らないよ」

「だからって、このまま動かないのか!?」

そうこうしてる間にも、その足はゆっくりとそして着実にリリスたちに近付いて来る。そして、その存在がないかのようにメイルの横を通り過ぎる。やがて、隠れるリリスたちまであと数メートルといったところで獣は足を止めた。リリスたちは口を閉じ、大木の陰に息を殺して隠れている。

『そこにいるんだろ?ブレスレットは気に入ったか?』

それは、金の獣が喋った瞬間だった。
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