幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し

文字の大きさ
2 / 36

2話 底にある希望

しおりを挟む
 幼馴染パーティーから追放処分を受け、初恋の人を寝取られて失意のどん底まで落ちた俺は、逃げるようにワープポイントでダンジョンタワーの1階まで戻ってきていた。

 何もかも失ってしまって、天国から地獄へと突き落された気分だ。きっと、俺が舞い上がっていたことが悪いんだろう。無知は罪だ。あそこまでコケにされていたのに、追放されるまで気が付かなかったなんてな。

 それによくよく冷静になって考えてみると、幼馴染ってだけでそんなに仲が良かったわけじゃないような気がする。所詮は他人なのに、幼馴染というだけで俺が勝手に仲間意識を持ってたのかもしれない。アリーシャに恋心を抱いていたのは本当だが、あんな醜悪な姿を見たら割り切れるしむしろこれでよかったんだと思える。

 あいつらより出世することで見返してやりたいという気持ちもあるが、一人で何かできるはずもなく俺のモチベーションは底をついてしまっていた。このまま故郷にでも帰ろうかな。

「……」

 大勢の人間が集まる1階の大広間、冒険者たちは目を輝かせてボスルームパネルに見入ってる様子。ここに初めて来たとき、俺もそうだったなあと思い出して感慨にふける。

「――お、おい、あいつがいるぞ! 錬金術師のリューイってやつ!」

「あ、ホントだ。確か『ボスキラー』の一人だよね!?」

「凄いですう!」

 参ったな。俺の噂をされてる。けど今の自分は一人だから無力だし、自信を完全になくしちゃってるわけで、有名人だと寄ってこられてもがっかりさせるだけだ。気付かない振りをしてとっとと帰ろうか。

「でもさ、あの錬金術師、なんの役にも立ってなかったよな」

「そ、それは失礼よ! 確かにいてもいなくても一緒っぽかったけど、ただのお荷物系だったんでしょ!」

「なるほどー。一人でここにいるし、追放されちゃったのかもですねえ」

「「「アハハッ!」」」

「……」

 なるほど、これが俺に対する本当の評価だったのか。確かに地味だとは思うが、ここまで侮られると悔しいもんだ。お前たちに何がわかる。

 81階でウォーレンが瀕死に陥ったときだって俺がポーションを即座に投げてなきゃ死んでるし、セシアを踏み潰そうとした93階のボス、ギガントゴーレムに対しては俺の劇薬でとどめを刺した。これは氷山の一角で、威力は確かに低いかもしれないが所々での判断の早さは誰にも負けてなかったのに……。

 まあ、もう何もかも終わったことだ。俺がここに一人でいることを見られたことで、『ボスキラー』のパーティーを追放されたという噂もいずれ大々的に広まるだろうし、俺がこれからどうあがこうと仲間すら作れずに終わることだろう。

 俺は失笑が上がる中、ダンジョンタワーの出入口に向かって歩き始めた。100階まで上り詰めることができただけでもよかったんだと前向きに捉え――

「――あの、そこの人、ちょっといいですかね?」

「……」

「そこの錬金術師さん!」

「……」

「あの『ボスキラー』のリューイ氏ですよね!?」

「……ん?」

 なんだ、また冷やかしか? 振り返ると、盗賊っぽい格好をした男が感激した様子で駆け寄ってきて俺の両手を握ってきた。な、なんだ……?

「やっぱりそうでしたか! いやぁ、リューイ氏にこんなところでお会いできるなんて誠に光栄ですっ!」

「……」

 また上げて落とす魂胆か。あいにくもう相手にする気力もないんだよな。

「でも、なんでこんなところにいるんですかね……?」

 わかってるくせに。

「俺は無能だからってパーティーを追放されたんでな。精々仲間内で話の種にして笑ってくれ。じゃあな」

「え、えぇっ……!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

「……」

 なんだ、やたらとしつこいやつだな。まさか男が好きで俺が好みだったとかじゃないよな……。

「リューイ氏が無能だなんて、とんでもないことです! あなたがいなければあのパーティーは『ボスキラー』とは呼ばれてないし、むしろ圧倒的に有能なのに……!」

「お、俺が圧倒的に有能だって?」

 この男のなんともいえない慌てよう、嘘をついてるようにも見えなかった。一体どういうことなんだ……?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

処理中です...