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18話 副作用

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「うおおぉぉっ! 大分儲かったなあぁっ。今日は一段と旨い酒が飲めそうだぜえぇぇっ!」

「もう100枚以上も貯まったしねーっ! 全部銅貨なのがちょっぴり残念だけどー」

「ホホホッ、ちょろいものですわねえ。なんでも解決屋なんて、これで誰にでもできるって証明されたようなものですわ……」

「……」

 大量の銅貨と客を前にして浮かれるアッシュ、パルル、グレイシアの様子とは対照的に、軍師と呼ばれる男――ハロウド――だけは、どこか浮かない顔で顎に手を当てていた。

「おおいっ!? どうしたってんだよ、ハロウド……!?」

「ハロウド、具合でも悪いのー?」

「ハロウド、顔色が優れませんわ。充分稼いだのですし、少しは休憩なさったほうがよろしくてよ?」

「いえ……そうではありません。疲れなどではなく、何か手応えのようなものをあまり感じられないので、奇妙だと思っていたところなのです……」

「「「手応え……?」」」

「そうです。大雑把というか、その場凌ぎというか……。そもそもゴミスキルばかりなのが悪いのですがねえ、これらを上手く使い分けるというのが、案外難しいとわかったのですよ……」

「「「……」」」

 思い悩むハロウドの様子に対し、アッシュたちはしばし呆然とした顔を見合わせたのち、まったく心配する必要はないと言いたげに笑ってみせた。

「ってか、それでも解決してきたんだしよ、気にする必要なんてこれっぽちもねえんだって! あの【鬼顔】でになった男もよ、今頃大満足してんだろ!」

「アッシュの言う通りだよー。それにハロウドは、そのあとに来た怒りっぽい女にも【笑いのツボ】スキルで、してあげたんだしっ」

「ホホッ……あれについては、傑作だったからわたくしも覚えていますわ。そのほかにも、気怠さを訴えてきた身なりだけが取り柄のしょぼくれた爺さんを、ハロウドが【大興奮】スキルで元気にしてあげたところなんて、最高のショーでしたわよ……?」

「た、確かにそうなんですがねえ――」

「「「「「――このおおぉおおっ!」」」」」

 そのとき、怒号とともに客の列に割り込んでくる者たちがいた。彼らは【鬼顔】【笑いのツボ】【大興奮】スキル等により、ハロウドに悩みを解決してもらったはずの者たちだった。

「あ、あなた方は……一体どうしたというのですかね? 馴染みの客といえど、割り込みは禁止にしているのですが……」

「とぼけるなっ! 何がなんでも解決屋だあぁっ! おいらが告白しようとしたら片思いの子に逃げられた挙句、店長から出禁を食らっちまったじゃないかあぁ……!」

「アハハッ! わ、私もそうよ! 確かに短気を直してほしいとは言ったけど、こうして笑い声が出るだけで……プププッ……お、怒りっぽいのは全然直らないし、無駄に笑いすぎて職場を追い出されちゃったわ! アハッ……どうしてくれるのよ! アハハハハッ!」

「そうだそうだ、なんとかしろ! 私の父上なんてなあ……なんでも解決屋のお前たちに体の怠さを治療してもらったつもりが、それ以降凄く調子が悪くなったと仰り、失神して今も意識が戻らないのだぞ……!?」

「ふざけんなぁっ!」

「インチキッ!」

「この詐欺師めがっ!」

「「「「……」」」」

 顔を真っ赤にした彼らの罵声により、ざわめきの中でぼんやりとした表情を見せるアッシュたちだったが、まもなく揃って我に返った様子になる。

「は……はああぁっ!? お前ら、出鱈目言うんじゃねえぇぇっ! 帰れ帰れっ!」

「うんうんっ、存在自体が迷惑で悪質なクレーマーさんたち、お願いだから大人しく帰ってね!」

「こんなの、どうせ難癖をつけて金を毟り取ろうとしてるだけですわ。どうぞ、さっさと害虫どもの巣へお帰りくださいまし――」

「「「「「――そこまでだっ!」」」」」

「「「「えっ……?」」」」

 あくまでも強気だったアッシュたちの顔が、見る見る青ざめていく。そこに新たに現れたのは兵士たちだったからだ。

「銅貨1枚などという、不当すぎる廉価で客を独り占めにしていたそうだな? これは独占禁止法に抵触する行為だ! よって、これよりお前たちの身柄を確保させてもらうっ!」

「……マ、マジかよ、嘘だろ……。普段から怠けてる兵士どものくせに、やけに仕事がはええぜ……」

「ほんとぉー……」

「こんなのおかしいですわ……どうしてですの……」

 アッシュ、パルル、グレイシアの縋りつくような視線がハロウドに向けられる。

「……僕自身も、これは想定外でした。おそらくですが、それだけ苦情が多かったということなのでしょう……」

「「「……」」」

 まもなく彼らは観念した表情になるとともに、兵士たちからロープで縛り上げられ、駐屯地へと連行されていくのであった……。



 ◆◆◆



「あははっ! あいつら兵士たちに捕まったよ! いい気味だねえっ……!」

「リリ、だから言っただろ。大丈夫だって」

 この上なくどよめきが上がる中、俺とリリはアッシュたちが連行される場面を見ながら笑い合った。

「さすがフォード、あたしのパートナーだよっ!」

「あんだけ落ち込んでたのに、調子のいいやつ……」

「てへへっ」

 連中は不当廉売によってしょっぴかれる形になったわけだが、兵士たちは余程のことがない限り動かないし、通例だと一日くらいは見逃されるってこともあって、おそらくあいつらもそれを見越していたはず。

 そこが落とし穴で、連中は気付かなかった。ただゴミスキルを集めるだけじゃ、解決するどころか客の不満をさらに煽るような結果になるということに。そうなればガンガン苦情が入るだろうし、普段から腰が重い兵士たちも動かざるを得なくなったってわけだ。

「やっぱり、俺たちにしかなんでも解決屋はできないってことだな」

「だねえっ!」

 今回の件によって、俺とリリは自分たちの仕事にさらに自信を持つことができたのだった……。
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