22 / 57
第二章
22話 支援術士、特訓する
しおりを挟む「では、参る……グレイスどの、お覚悟! せいっ……!」
「ぐっ……!?」
ジレードが猛然と襲い掛かってきて、俺は彼女の繰り出す槍を杖で受け流すたび、ずっしりとした重みと痛み、さらには疲労が手元を中心に駆け巡ったものの、回復術の治癒と補助を駆使してなんとか耐える。
激しい戦いとは裏腹に、ここはテリーゼの屋敷に隣接するなんともほのぼのとした庭園なのだが、俺はジレードに頼み込む形で戦闘訓練を行っていた。
とはいえ彼女はSS級の冒険者で、しかも武器を当てることで相手の体力や気力を削ることができる【闇騎士】というだけあって滅法強く、手加減してもらってもこの通り防戦一方だった。
ただ、そんな苦境の中でも新たに発見したことがある。ちょっとした動きの悪さ、崩れた身体のバランス、そうしたものも回復術で修正できることがわかったのだ。
これは矯正術といって、病気や骨折等で長い間手足をまともに動かせなかった者が本来の動きを取り戻せるよう助ける回復術の一つであり、本来は【補助術士】がリハビリ等の治療に使うためのものだが、こうした戦闘の中でも応用できることがわかったのは非常に大きい。
「アルシュ、遠慮なくかかってきなさい。この程度なのです?」
「こ、このっ……!」
一方、ここから少し離れた場所では、ベンチと噴水越しに【魔術士】のアルシュが【賢者】のテリーゼ相手に特訓していた。車椅子で退屈そうに頬杖をつくテリーゼに向かって、アルシュが四大元素の魔法を次々と放つが、いずれもことごとく相反する属性により打ち消されていた。
「そ、そんなっ……」
「戦闘中に怯んでいる場合なのでしょうか」
「あっ……」
テリーゼから放たれた拳ほどの氷の塊を間一髪で避けたアルシュだったが、そのタイミングでアルシュの四方に鋭い岩の柱が立ち上がり、彼女は呆然と座り込むしかできなかった。まるでアルシュがそこに逃げるということが完全にわかっていたかのようで恐怖心さえ覚える。一歩間違えたら即死だからな。
はっきりいって、アルシュは弱いほうではなくむしろ強い部類に入る。確かにドジなところはあるが、魔法に関しては勇者パーティーの名に恥じないように精一杯努力してきたし、詠唱スピードも威力も申し分ないはずなのに、テリーゼは手加減してもアルシュのすべてを凌駕してるからまさに規格外だった。さすが、SS級冒険者でしかも俺が憧れていたジョブ【賢者】なだけある。
確か【賢者】は回復術も多少使えるはずだから、それで心身を回復、バフできるのはもちろん、魔術に緩急を入れることだってできるんだよな。そりゃ強いはずだ。
「――隙あり!」
「うっ……!」
しまった、余所見をしつつも守ることに集中していたつもりだったが、ほんの僅かな隙をジレードは見逃してくれず、俺は強い衝撃のあまり杖を落としてしまい、そのまま喉に矛先をつきつけられてしまった。
「参った、さすがだな……」
「いやいや、グレイスどのは防戦一方に見えてアルシュを気に掛ける余裕も感じられた」
「バレてたのか。それでも手を抜いたつもりはなかったが……」
「いや、自分は途中から本気で戦っていたのに、グレイスどのは耐えていたから、あのままだともっと時間がかかっていた。【回復職】でここまで耐えられたのはあなたが初めてだ……」
「そ、そうなのか……」
もう大分やってないとはいえ、幼少の頃に剣術を少々齧ってたのも大きいのかもな。ジレードの言葉は嬉しいし自信を持っていいのかもしれないが、あくまでも防御面だけだしここで満足していたら回復術同様、そこで成長が止まってしまうので話半分に受け止めておこう。
「――さ、そろそろ帰るか、アルシュ」
「うんっ」
「またお越しくださいまし、グレイスさん、アルシュ」
「いつでもお相手いたす、グレイスどの、アルシュ」
「ああ、ありがとう、テリーゼ、ジレード。いずれみんなでパーティー組んで依頼を受けよう」
俺の言葉にみんなうなずく。なんせ俺とアルシュはS級冒険者なので、テリーゼとジレードのようにSS級の依頼を受けることはできない。二人とも手伝いたいと言ってくれたが、それじゃ本当の意味での実力はつかないってことで断った。だから俺とアルシュの二人だけでS級の依頼をこなすべく、こうして厳しい特訓をしていたのだ。
俺とアルシュが頑張ってもう一段階冒険者ランクを上げれば、今度はみんなでSS級の依頼を受けられるし、揃ってダンジョンワールドに招待される可能性も出てくる。俺は【なんでも屋】だけやっていくつもりでいた当時とは心境が大きく変わっていて、そこには転機となる心を揺さぶられる出来事があった。
「……」
俺は帰路につく中、正式に店を構える数日前に来た、一人の患者のことを思い出していた……。
35
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる