勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

22話 支援術士、特訓する

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「では、参る……グレイスどの、お覚悟! せいっ……!」
「ぐっ……!?」

 ジレードが猛然と襲い掛かってきて、俺は彼女の繰り出す槍を杖で受け流すたび、ずっしりとした重みと痛み、さらには疲労が手元を中心に駆け巡ったものの、回復術の治癒と補助を駆使してなんとか耐える。

 激しい戦いとは裏腹に、ここはテリーゼの屋敷に隣接するなんともほのぼのとした庭園なのだが、俺はジレードに頼み込む形で戦闘訓練を行っていた。

 とはいえ彼女はSS級の冒険者で、しかも武器を当てることで相手の体力や気力を削ることができる【闇騎士】というだけあって滅法強く、手加減してもらってもこの通り防戦一方だった。

 ただ、そんな苦境の中でも新たに発見したことがある。ちょっとした動きの悪さ、崩れた身体のバランス、そうしたものも回復術で修正できることがわかったのだ。

 これは矯正術といって、病気や骨折等で長い間手足をまともに動かせなかった者が本来の動きを取り戻せるよう助ける回復術の一つであり、本来は【補助術士】がリハビリ等の治療に使うためのものだが、こうした戦闘の中でも応用できることがわかったのは非常に大きい。

「アルシュ、遠慮なくかかってきなさい。この程度なのです?」
「こ、このっ……!」

 一方、ここから少し離れた場所では、ベンチと噴水越しに【魔術士】のアルシュが【賢者】のテリーゼ相手に特訓していた。車椅子で退屈そうに頬杖をつくテリーゼに向かって、アルシュが四大元素の魔法を次々と放つが、いずれもことごとく相反する属性により打ち消されていた。

「そ、そんなっ……」
「戦闘中に怯んでいる場合なのでしょうか」
「あっ……」

 テリーゼから放たれた拳ほどの氷の塊を間一髪で避けたアルシュだったが、そのタイミングでアルシュの四方に鋭い岩の柱が立ち上がり、彼女は呆然と座り込むしかできなかった。まるでアルシュがそこに逃げるということが完全にわかっていたかのようで恐怖心さえ覚える。一歩間違えたら即死だからな。

 はっきりいって、アルシュは弱いほうではなくむしろ強い部類に入る。確かにドジなところはあるが、魔法に関しては勇者パーティーの名に恥じないように精一杯努力してきたし、詠唱スピードも威力も申し分ないはずなのに、テリーゼは手加減してもアルシュのすべてを凌駕してるからまさに規格外だった。さすが、SS級冒険者でしかも俺が憧れていたジョブ【賢者】なだけある。

 確か【賢者】は回復術も多少使えるはずだから、それで心身を回復、バフできるのはもちろん、魔術に緩急を入れることだってできるんだよな。そりゃ強いはずだ。

「――隙あり!」
「うっ……!」

 しまった、余所見をしつつも守ることに集中していたつもりだったが、ほんの僅かな隙をジレードは見逃してくれず、俺は強い衝撃のあまり杖を落としてしまい、そのまま喉に矛先をつきつけられてしまった。

「参った、さすがだな……」
「いやいや、グレイスどのは防戦一方に見えてアルシュを気に掛ける余裕も感じられた」
「バレてたのか。それでも手を抜いたつもりはなかったが……」
「いや、自分は途中から本気で戦っていたのに、グレイスどのは耐えていたから、あのままだともっと時間がかかっていた。【回復職】でここまで耐えられたのはあなたが初めてだ……」
「そ、そうなのか……」

 もう大分やってないとはいえ、幼少の頃に剣術を少々齧ってたのも大きいのかもな。ジレードの言葉は嬉しいし自信を持っていいのかもしれないが、あくまでも防御面だけだしここで満足していたら回復術同様、そこで成長が止まってしまうので話半分に受け止めておこう。

「――さ、そろそろ帰るか、アルシュ」
「うんっ」
「またお越しくださいまし、グレイスさん、アルシュ」
「いつでもお相手いたす、グレイスどの、アルシュ」
「ああ、ありがとう、テリーゼ、ジレード。いずれみんなでパーティー組んで依頼を受けよう」

 俺の言葉にみんなうなずく。なんせ俺とアルシュはS級冒険者なので、テリーゼとジレードのようにSS級の依頼を受けることはできない。二人とも手伝いたいと言ってくれたが、それじゃ本当の意味での実力はつかないってことで断った。だから俺とアルシュの二人だけでS級の依頼をこなすべく、こうして厳しい特訓をしていたのだ。

 俺とアルシュが頑張ってもう一段階冒険者ランクを上げれば、今度はみんなでSS級の依頼を受けられるし、揃ってダンジョンワールドに招待される可能性も出てくる。俺は【なんでも屋】だけやっていくつもりでいた当時とは心境が大きく変わっていて、そこには転機となる心を揺さぶられる出来事があった。

「……」

 俺は帰路につく中、正式に店を構える数日前に来た、一人の患者のことを思い出していた……。
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