勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

40話 支援術士、対峙する

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『とある【剣聖】に告ぐ。明日の正午、冒険者ギルド前にて、一対一で勝負がしたい。武器は剣で、負けたほうは勝ったほうの言うことをなんでも聞くこと』

「……」

 今、まさにその正午が刻一刻と近付いている状況。

 俺は普段着の白装束ではなく、ジレードから借りた仮面とマントを身に着け、右手にはいつもの杖ではなく長剣を握りしめ、一人の剣士としてギルド前に立っていた。

 依頼の貼り紙に関しては、明け方頃にロレンスの使用人に頼んでギルドに貼ってもらったんだ。

 みんなの中には、ナタリアを犯人だと名指しするべきだという意見もあった。あまり知られていないとはいえ、一部じゃ悪評もあるし、事件当日には彼女の姿を目撃した者もいるだろうからだ。それで、すぐには無理でもいずれ俺が真犯人だという噂を掻き消せるだろうと。

 だが、それじゃ相手の憎悪の炎を一層燃え滾らせるだけだとみんなを諭した。それで俺の汚名は濯げるかもしれないが、もっと大きな事件が起きる可能性だってあるし根本的な解決にもならないってことで、俺は正々堂々と勝負を申し込むことにしたんだ。この条件ならさすがに相手も受けて立つだろうから。

【支援術士】に剣で負けるはずがないと思うだろうし、【剣聖】として逃げるわけにもいかないはず。その上、勝てばなんでも言うことを聞かせられるわけで、俺を手首切断事件の真犯人として確定させることもできる。

 やつもそのつもりなんだろう。周囲には決闘を見ようと野次馬の姿はあっても、俺を狙う兵士や冒険者の姿は見当たらなかった。

【なんでも屋】のグレイスだとバレないように変装しているとはいえ、ナタリアはわかってるだろうしけしかけようと思えばできたはずだ。やつは俺の挑発に対してやる気満々なんだろう。俺もやつの捻じ曲がった性根を治したくてうずうずしてるわけだが……。



 ◇◇◇



 冒険者ギルドから少し離れた建物の陰にて、剣士の格好をしたグレイスを見守る者たちがいた。

「ナタリアとかいうふざけた輩は、本当に来るだろうか……?」

 ジレードが苛立ちを隠しきれない様子で呟く。

「来るよ、絶対来ると思う。だって、グレイスが自信満々に言うんだから」
「わたくしもアルシュに同意いたしますわ。グレイスさんの言うことなら間違いありません」
「私もそう思います。グレイス様の作戦ですから……」
「……」

 意見を合わせるアルシュ、テリーゼ、カシェのほうをぽかんと見たあと、気まずそうに笑うジレード。

「じ、自分も来るとは思っていてっ……ただ、いくらグレイスどのの神がかった回復術でも、剣では到底【剣聖】に歯が立たないかと……」
「それは……確かに心配だけど、でもグレイスには何か考えがあるみたいだから、信じるしか……」
「そうですわ。わたくしとしても正直止めたかったのですけれど……ここまできたら信じましょう」
「あの……私もそう思います。信じるしかないですよね……」
「……じ、自分も最初から信じるしかないと思っていたっ……!」

 またしても引き攣ったような笑みを浮かべるジレードだった。



 ◇◇◇



「……」

 まだ待ち人の姿はない。だが、俺は確信していた。例の眼帯少女が近くまで来ているということ、その圧倒的な殺意を隠す気もないとうことも。だから既に決闘相手と対峙しているともいえたのだ。

「まだかー?」
「早くおっぱじめやがれってんだ」
「こっちは忙しいんだよ」

 野次馬たちもぞくぞくと集まってきた。忙しいとか言いつつこんな決闘をわざわざ見物しにくるのだから相当な暇人なんだろう。

 お……来た来た。長剣を片手で担ぐようにして、おもむろに眼帯少女が近付いてくる。この殺気は俺だけに向けられたものだし、第三者にしてみたら決闘相手というより、長髪の小柄な【剣術士】の女の子がやってきたくらいにしか思われないだろう。

 実際はあの子こそが俺の決闘相手であり、手首切断事件の真犯人で【剣聖】のナタリアなわけなんだが……。

「――やあ、初めましてというべきかな、ナタリア」
「……そうだね、グレイス。こうして喋るのはこれが初めてだよ」

 彼女が俺の前で喋り始めてまもなく周囲がどよめき始める。殺気が溢れて零れ始めたし、ようやく気付いたんだろう。

「それにしても、あんたって本当に変わってるのねえ」
「ん?」
「そのまま逃げてれば、命を失うことはなかったのに。きっとあとで、死ぬほど後悔することになるだろうねえ……」
「……」
「死ぬより辛いことって知ってるかい? それはね、心身の苦痛からくる精神崩壊寸前の曖昧な状態なんだよ。その味をこれからたっぷり教えてやる……」

 ナタリアは隻眼を細めて病的に笑ってみせた。
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