ラブミーノイジー

せんりお

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入学式当日。俺は三咲と学園に向かった。寮と校舎は併設されていて、歩いて5分ほどだ。
広い体育館とは別に作られているこれまた広い講堂に新入生が集められている。
式は順調に進んでいく。講堂の中は暖かくて俺は何度も首をゆらゆらさせては隣の三咲に肘で小突かれていた。

「生徒会長挨拶。会長、来栖蓮司」

半分眠りの世界を漂っていた俺は、その瞬間はっと覚醒させられた。会長だろう男が壇上に上っていく。それにつれて空気がぴりぴりと電流を伝えてくるように思えた。くそっ、あいつグレア出してやがる…
グレアとはDomが出せるオーラのようなもので、周囲を威圧する。Domが普段グレアを出すことはマナー違反だ。なのにあいつは微量だけどグレアを放っている。恐らく無意識下で自分を恐れさせ、強者であると思わせ従わせるためだろう。本当に微量だから大半はグレアが放たれていることに気づいていない。だけど敏感なDomやSubにはこれでも不快感を感じているものもいるはずだ。回りを見渡せば顔をしかめている人や俯いている人が数人見えて、やっぱりと思った。
喉の奥からせり上がってくるような気持ち悪さを感じて咄嗟に口許を押さえて俯く。頭ががんがん痛む。

「ちょ、木南!?大丈夫?」

俺の様子に気づいた三咲が慌てたように小声で聞いてくれるのに辛うじて頷く。
冷や汗が背中を伝って落ちる。
落ち着け、大丈夫だ。あいつが壇上から下りればグレアは感じなくなる。落ち着け、落ち着け。
耐えている内に会長の話は終わったようだった。拍手が講堂に鳴り響いて、そして止む。それと同時に気分の悪さもすぅっと引いていった。
心配そうに覗き込んでくる三咲に、顔をあげてもう大丈夫、と笑ってみせる。
その俺の表情を見て、三咲は何か言いたそうに顔をしかめたが次の話が始まったので飲み込んだようだ。あとで三咲には事情を話さないといけないだろうな。

「風紀委員長挨拶。風紀委員長、藤堂真貴」

まだ式は続くらしい。まだ少しぼんやりする頭を休めるように襲ってきた眠気に俺は抗えなかった。





「…なみ、木南!起きれる?」

俺を呼ぶ声にふっと意識が浮上する。目を開けると視界には心配そうな三咲が映った。

「式終わったよ。教室に移動しろだって。体調大丈夫そう?」

『大丈夫。ごめんな』

そう打ち込んだ画面を見せると三咲が首を振った。

「ううん、でもほんとに大丈夫?随分気分が悪そうだったから」

『いや、ちょっとグレアにあてられた』

「グレア?」

『会長が出してた』

「うそ、俺全然気がつかなかった」

『俺が敏感なタイプなだけだから』

「でも会長最低じゃん!憧れてたけど損した!」

三咲がぷんぷんと効果音がつくような勢いで怒ってくれて、思わず笑ってしまった。
この学園はDom/Subの教育をきちんと行っていると聞いていたが、やっぱりどこにでもマナーの悪いやつはいるものだ。二度と会いたくない。まあ会長と一年坊主の俺なんて接点はゼロだし、この先会うこともないだろうけど。

話を聞いていなかった俺は、三咲に誘導されて教室まで向かう。クラスは教室の近くに貼り出されていて、残念なことに俺と三咲は別のクラスだった。

三咲と手を振ってそれぞれの教室へと別れる。既に教室は埋まっていて、教室に足を踏み入れた瞬間ほぼ全員の視線が集まった。見られるのは好きじゃない。若干俯き気味に、名簿の順番なら恐らくあの辺りだと当たりをつけて席を探す。俺の席は窓際の1番後ろだった。1番後ろなのはもちろん、窓際とはラッキーだ。
そっと席に着く。前のやつの髪の色がアッシュグリーンで少し驚く。この学園にもこんなタイプいるんだな。それにしても抹茶みたいだ。


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