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プロローグ

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その上、父母は私という人間を十分理解していたようだ。卒業後、すんなり就職できないことを悟っていたらしい。一生とはいかないまでも、それなりの遺産を遺してくれていた。

だから、今のところ金銭面の心配もない。

――という経緯を辿り、私はどんな困難があろうとも、後悔だけはしたくない。なりたいものになると心に決めた。

そのなりたいものというのが……繰り返し面接で落とされるコックだ。
志望理由はズバリ! 食べることが大好きだからだ。

自分勝手な理由だが、基本、人間とは自分勝手にできているものだ。

私は己の素直な欲求に従い、我が胃を満足させるには美味しい賄いのある場所で働くのが一番だと思った。だが――。

先の通り、著名な大学の農学部を優秀な成績で卒業したからといって、求人条件にある『有名レストラン経験者』とか『高名な料理学校卒業者』とかいったところからは大幅に外れている。

さらに付け加えると、自慢ではないが私は食べることに関してはエキスパートを自負しているが、料理ができない。いや、基本的なことは一応できる。だが、周りから言わせると『普通じゃない! それは実験だ!』らしい。

どういうことかというと、私は努力を惜しまない人間だ。料理一つに対しても手を抜かない。我が舌を満足させるために試作に試作を重ね、ようやくできた頃には何日も経っていた、なんてこともざらだった。それでだと思う。

さらに、私は正直者だ。それを面接時に素直に話してしまう。結果、『それでは料理人にはなれない』と言われてしまうのだ。
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